視力を失ったからこそ備わる次なる力。見えないからこそ身に付けたい次なる力。この連載では、そんなネクストパワーを研究していきます。
こんにちは。仕事では心の支援者として誰かを支え、生活では視覚障害の当事者として誰かに支えられ、趣味では音楽と文芸の表現者として誰も気にせず好きなことをしている福場将太です。
みなさんは毎日しっかり歩いていますか? 何かスポーツをしていますか? 階段を昇ると息切れして、すぐにエレベーターに頼っていませんか? 今回研究するのはそんな『体力』です。
最初に白状しておくと、僕は運動が苦手です。小学生時代から走るのも遅く、泳ぐのも下手。さらに野球をすれば、ピッチャーの投げたボールがふっと消えて全て空振り。どうしてだかおわかりですか?
ピッチャーが消える魔球の使い手ということではありません。当時は自覚していませんでしたが、持病の網膜色素変性症による視野狭窄、つまり目の見える範囲の狭さがあって、ボールはすぐに視野の外へ飛び出してしまっていたのです。中学・高校時代のクラスマッチのサッカーでも、途中で自分がどっちを向いているのか見失って、味方のゴールへシュート、なんてことをやらかしていました。
そんな自分が、人生最初で最期の運動部に所属したのが大学時代。学生寮に入った初日、引越しの手伝いをしてくれるやけに優しい先輩に連れられて夕食へ行くと、そこにはたくさんの人たちが。結局それは柔道部の勧誘だったわけですが、あれよあれよという間に入部が決定。まさか、白い道着に身を包む日がやって来ようとは。
柔道部では道場での稽古前にまずみんなで路上をランニングするのですが、僕は真っ先にロケットスタート、誰よりも全力で走っていました。どうしてだかおわかりですか?
網膜色素変性症のもう一つの症状は夜盲、つまり暗い所が見えないわけで、日が暮れてしまうと真っ暗闇。そんな事情で、まるで処刑される親友を助けに行くメロスのように、僕は日没までに大学へ帰り着かねばならなかったのです。
やがて就職したのは北海道。僕はますます出歩かなくなりました。どうしてだかおわかりですか?
網膜色素変性症の三つ目の症状は視力低下。併発の白内障とも合わさって、真っ白な雪景色に完全に視界はホワイトアウト。メロスの魂はどこへやら、運動不足は深刻となりました。これではいかんとエアロバイクを購入したものの、あえなく三日坊主。そこで考えてみたわけです。自分はどうして運動が長続きしないのか?
一つは、単純につらいのが嫌だから。運動すれば息が苦しくなったり、腕や足が痛くなったりする。柔道部の頃は、仲間と掛け声を出してお互いを励まし合うことで、どうにかつらさに耐えられましたが、一人ではそんなに強くなれません。
運動が長続きしないもう一つの理由は退屈だから。マラソン好きの人に話しを聞くと、走りながら頭の中でペース配分を考えるのが楽しいらしいのですが、僕は運動をしている最中に何を考えていればよいかわからず、その退屈に耐えられません。
そこで、つらさと退屈を和らげるために、運動をする時に自分の好きなこともおまけするという作戦を立てました。エアロバイクをこぎながらミニギターを演奏したのです。ただ、ペダルをこぐリズムと演奏のリズムがうまく合わず、どうにも気持ちが悪い。そこで、今度は曲を流しながら合わせてハモる作戦を実行。そこそこうまくいきましたが、そうなってくると片手間ではなくちゃんと歌いたい、ちゃんと演奏したいと思うようになり、これも断念。
現在は、音楽をやる時に運動をおまけするという作戦で、ギターを弾いて歌う時はなるべく立って足踏みをするようにしています。結局好きなことがメインになってしまいました。思えば大学時代の柔道部でも、試合では全く貢献できなかったので、応援ソングを作ったり、イベントを企画したりする役回り。
やっぱり僕はスポーツマンではないようです。それでも頭の中が真っ白になるまで稽古したり、声が枯れるまで仲間の試合を応援したり、畳のにおいがするとそんな愛しい時代を思い出します。
そして、くれぐれも誤解のなきよう。僕が運動不足なのは僕自身の怠慢によるもの、けっして視覚障害のせいではありません。パラリンピックのアスリートの姿でおわかりのように、目が不自由な状態で、球技でも陸上でも、スポーツを頑張る人はたくさんいます。そう、障害があるかどうかは問題ではない、全てはやる気があるかどうかの問題なのです。
大好きな映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の中で、西部開拓時代の人間が、未来から来た博士に対して「自動車なんて物が発明されたら、誰も歩いたり走ったりしなくなるのか」と尋ねる場面があります。博士は答えました、「もちろん走るさ。楽しみのためにな」。体を動かすことの楽しみ、動かせることの喜び、大切にしなくちゃいけませんね。だからエアロバイクよ、そんなに恨めしそうにこちらを見ないでくれ。
では今回はこの辺で。最後に少しだけ予告編。みなさんはショックなことがあって落ち込んだ時、ちゃんと気持ちを復活させることができていますか? 次回はそんな『回復力』のお話です、お楽しみに!
(『点字ジャーナル』 2026年8月号掲載)