第3回 伝達力 ~視覚障害を伝えるには~

 視力を失ったからこそ備わる次なる力。見えないからこそ身に付けたい次なる力。この連載では、そんなネクストパワーを研究していきます。
 こんにちは。仕事では心の支援者として誰かを支え、生活では視覚障害の当事者として誰かに支えられ、趣味では音楽と文芸の表現者として誰も気にせず好きなことをしている福場将太です。
 みなさんは、自分の見え具合・見えなさ具合を上手に人に伝えられていますか? うまく伝わらなかったり、誤解されたりしませんか? 今回研究するのはそんな『伝達力』です。

 僕もよくこんなことがあります。職場の病院に新しい先生が着任された際、勇気を出して「福場と申します。僕は目が見えないので色々ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」と自己紹介します。その先生も「ああ、わかったよ。よろしくね」と言ってくださるのですが、翌日会うと、「福場くんはどんな車に乗ってるの?」と尋ねられたり、「この本とっても良いから読んでごらん」と手渡されたりするのです。
 不思議です、目が見えないと伝えたはずなのに。ただこれはけっしてその先生が記憶喪失になっているわけではありません。自分は全盲だと伝えたつもりだったのに、相手にはそうとは伝わらなかったということです。

 原因を考えてみましょう。一つは、僕は職場で常時サングラスや白杖を身に着けているわけではないので、一般的にイメージされる目の不自由な人の姿ではない、ということがありそうです。もう一つの原因としては、僕は中途失明なので、ついつい目が見えていた頃のように振る舞ってしまう癖があり、そのせいで誤解を与えてしまう部分もあるのかなと思います。また、もしかしたら「医者が全盲のはずがない」という先入観がその先生にあるのかもしれません。

 ただ僕が想う、視覚の状態が伝わらない大きな原因は、日本語の表現と解釈の多様さです。「目が見えないんです」「目が悪いんです」「目が不自由なんです」「目に障害があるんです」「視覚障害者なんです」「失明したんです」「全盲です」などなど、たくさんの表現の仕方があります。また「目が見えない」という説明に対して、「全く見えない」と受け取る人もいれば、「少し視力が悪い」と受け取る人もいて、解釈の仕方も色々です。
 さらに目の不自由さというのは、視力の問題なのか視野の問題なのかによっても大きく異なりますし、一言にロービジョンといっても様々な状態があります。しかもずっと同じ状態とも限らず、少しずつ見えづらくなる進行性の人もいれば、コンディションによって見え方が変わる動揺性の人、屋内だと見えやすい、天気が良いと見えづらいといった環境性の人もいます。
 視覚障害は一人ひとり別々の障害と言っていいほど多種多様、自分の見え具合・見えなさ具合を言葉一つで伝えようというのがそもそも無理な話。だからこそ、伝達力を高めることが大切になるのです。

 ポイントは大きく3つ。1つ目は、ちゃんと相手に伝わるように伝えること。伝えたからOKという自己満足では不十分、ちゃんと相手に伝わっている科が最も重要です。
 2つ目は、相手の気分を害さないように伝えるということ。勘違いされたり、的外れな関わりをされたりすると、そうじゃないんだよとイライラすることもありますが、ここで自分が怒ってしまうと相手は嫌な気持ちになるかもしれません。耳を傾けてもらえなくなれば、伝わるものも伝わりません。こびへつらおう、へりくだろうということではありませんが、相手と良い雰囲気の中で会話することも大切です。
 そして3つ目として、自分の気持ちがつらくならないように伝える、ということをお忘れなく。いくら伝わりやすい説明でも、口にする度に自分が苦しくなるような言葉ではよくありません。例えば「全盲」「失明」「障害」などの言葉は、人によっては口にすること自体がつらい。自分に優しい言い方で伝えることも大切です。

 以上、ちゃんと相手に伝わるように伝える、相手の気持ちも自分の気持ちも大切にして伝える、というのが伝達力を高める上で重要なポイント。どんな言葉で、どんなタイミングで、どんな顔して伝えるのが最も良いのか、みんなで研究していきましょう。
 そして研究が大切なのは、伝える側だけではありません。受け取る側にも技術が必要。友人や家族や同僚から視覚障害を打ち明けられた時、いったいどんなリアクションをすればよいのか。ここで返事に失敗してしまうと、伝えた人のせっかくの勇気がしぼんでしまいます。
 視覚障害に限らず、病気や障害を打ち明けられた時に、適切な言葉を返すのは本当に難しいこと。内容が深刻であればあるほど驚いてしまって、無言になったり無粋になったりしてしまいがち。僕もまだまだ練習中ですが、せめて「教えてくれてありがとう」という一言だけは、返せたらいいなと思っています。
 コミュニケイションは双方がいてこそのもの。受け取る側の協力で、伝える側の伝達力はより高まっていくのです。

 では今回はこの辺で。最後に少しだけ予告編。みなさんは普段どうやって予定や知識が頭から抜けないようにしていますか? 次回はそんな『記憶力』のお話です、お楽しみに!

(『点字ジャーナル』 2026年5月号掲載)