エピローグ

 広島。外壁のコンクリートの所々がひび割れた古い校舎の高校。
 グラウンドでスポーツをする男子、教室で談笑する女子、売店でジュースを買う男子、図書室で本を読みふける女子…生徒たちはみんなそれぞれの昼休憩を過ごしている。

 校舎の4階から屋上へ続く階段、そこにも一人の男子が腰を下ろしていた。学生服の上にコートを着込み、カウボーイのようなハットをかぶり、音楽室から無断で持ってきたフォークギターをかき鳴らして歌っている。その騒音まがいの演奏に眉をひそめる者はいても立ち止まる者、ましてや興味を示す者など誰もいなかった。

 しかしその日は違った。廊下で上から聴こえるその演奏に耳を傾けていたのは肩までの長髪を茶色に染めた小柄な男子。彼は音が止まったタイミングで意を決したようにその階段を昇った。
 ギターを手にした少年は彼の出現に当然驚く。上ってきた少年はポケットから一本のカセットテープを取り出すと、右の口角をニッと上げた。

「これ聴いてくれや」

-了-