今回はエモーショナルミステリー。多くのミステリー作品において、名探偵は超人的に描かれており、どこか浮世離れしていて人間臭さに欠ける存在です。そのため、名探偵の人間らしい内面が垣間見えるシーンはとても心に残ります。
敬愛するコロンボ警部もそう。普段は犯人を翻弄するために口八丁ばかりでどこに本心があるのかわかりませんが、おそらくは最終回を想定して製作されたエピソード『殺しの序曲』において、自分の生い立ち、どうして今の仕事をするに至ったかを語る場面があります。この時のコロンボはいつもの口八丁ではなく、天才であるがゆえにずっと孤独だった犯人に対して本心を見せたのだろうと僕は解釈しています。
和製コロンボの古畑任三郎も、『再会』『ラスト・ダンス』などの最終回を想定されたエピソードにおいてその内面が掘り下げられています。シャーロック・ホームズも『最後の事件』というエピソードで親友のワトソンに残す手紙が胸を打ちますし、エルキュール・ポワロもやはり最終作『カーテン』において親友ヘイスティングスに本心を綴った手紙を送っているのです。
そんなわけで今回はカイカンの親友を犯人として、謎解きよりも人間ドラマ重視のストーリーにしてみました。初稿はもう十年前、この度大幅に加筆・修正して完成としましたが、特に二人がグラスを手に学生時代のヘッポコ音楽活動の思い出を語らう場面が気に入っています。ちょうど先月末に僕も大学時代の音楽部の仲間たちと東京で再会し、幸福な思い出巡りをしてきました。僕らはもうまごうことなき中年ですが、一緒に作った曲、一緒に奏でた曲を思い出せばいつだって青春に戻れるのです。これも音楽の魔法ですね。
そんな十年越しに完成した刑事カイカン、お楽しみいただけたなら幸甚です。それっぽいですが、けっして最終回ではございません。今後ともよろしくお願い致します。
令和5年8月2日 福場将太