第三章③ ~飯森唄美~

 火曜日、午後5時半。私は最後の患者の診療に当たっていた。患者は本日初診の28歳女性・有田美月。夫の浮気が発覚して以降元気が出ないというのが彼女の悩みだ。
 一昔前ならばそんなことで病院に行くなんてと揶揄されてしまうかもしれないが、昨今心の医療は少しずつ身近なものになりつつある。落ち込みやイライラ、誰かに話を聞いてもらいたいなどの主訴で訪れる患者も増えてきている。まあ彼女のように強いショックを受ければ元気が出なくなるのも当然であり、それを病気と呼ぶべきかどうかは正直迷ってしまうところだ。
 そもそも心に健康も病気もあるのか?どこまでが正常でどこからが異常だなんて誰にも明確な境界線は引けない。そんなことを考えていると私は時々思ってしまう…精神科医の仕事は一体何なのだろうか、こんな医療は必要なのだろうかと。
 ただ患者はみんな何かを求めてここに足を運んでくれる。私には患者を救うなんてことはできない。それでも、せめてその悲しみや苦しみを受けとめたい。…過ちを犯した私にもうそんなことを思う資格はないのかもしれないが。
「先生、私は本当に夫を愛していたつもりです。それなのに」
 有田はそう力なく訴える。彼女の端正な顔立ちと聡明な眼差しは強い理性と知性の内在を感じさせる。しかし今は感情の方がそれらを凌駕してしまっているらしい。
「そうですね…あなたのその思いは間違っていないと思いますよ」
「どうしても…信じられなくて」
「おつらいと思います。信じられないのも当然です」
 そこで彼女は「先生、私はどうすれば…」と消え入る声で俯いてしまう。悲しみや苦しみをこらえられなくなるのは、なにも弱い人間だけではない。むしろ強い人間、世の中の汚さに屈さない純粋な人間だからこそ悲しみや苦しみが多い。彼女も…ただ純粋に夫を愛していたのだろう。精神科医療では何よりも患者の生きにくさをアセスメントする。何がこの患者が生きるのを難しくしているのか…それは必ずしも病気そのものとは限らない。彼女の場合、それは純粋さなのかもしれない。
「先生、もうどうしたらいいのかわかりません、教えてください」
 絞り出すように言う。精神科医は精神医学の専門家だがけして人生の専門家ではない。どんな生き方が正しいかなんて精神科医にはわからない。それでもこの医療は患者の生き方と切り離しては考えられない。私は精いっぱいの優しさを彼女の心に注ぐ。
「そうですね、でもわからなくてもいいんですよ。今は、急いで答えを出そうとしなくてもいいんです。一緒に…少しでも気持ちが和らぐ方法を見つけましょう。大丈夫です、あなたは何も悪くありません」
 いずれは夫と向き合ってしっかり話をする必要があるだろう。しかし彼女は夫に知られたくないからと保険証も持参せず自費で相談に来ているくらいだ。今の彼女に夫と向き合う余裕はない。
「ありがとうございます。でも私…ああ、夫に言い寄ってきた女が許せない」
「人を好きになる気持ちは…仕方ないですよね」
 彼女に言葉をかけながら、私は自分の疲労も感じていた。昼休みはカイカンの登場の後、結局昼食は二・三口で終わった。でもさすがに食べていないと…スタミナがもたない。座って話を聞くだけの仕事だが、これはこれでかなりのエネルギーを要する。
 …気を抜くな!今日最後の患者じゃないか、もうひとふんばりだ!

 午後6時、有田は礼を言って退室した。
 …ああ疲れた。私は座ったままで大きく伸びをする。そこに入ってくる滝川。
「先生お疲れ様でした、これで今日の予約はおしまいです」
「お疲れ様です。有田さんにお薬の処方はありません。またご都合のよい時に受診してもらってください」
 わかりましたと微笑む彼を見て、少し不安が過る。まさかまたカイカンが会いに来てるんじゃ…。
「滝川さん、もしかしてあの刑事さんいらっしゃってる?」
「いえ、いらっしゃってませんよ」
 …よかった。さすがに今カイカンと対決する余力はない。
「じゃあ私はカルテを書いてから帰りますので、滝川さんと峰さんは上がってください」
「ありがとうございます。先生もあまりご無理なさらずに、ちゃんとお休みも取ってくださいね」
 そう言って男性看護師は去る。
 お休みか…そうだな、明日は当直だし今夜はゆっくり休まないとな。あ、そうだ。先週の金曜日は行けなかったあの店に行こう!あそこで夕食を摂ればきっと疲労だって回復する。
 そう決めると、私は急いでカルテの記載を始めた。

 午後8時、私は食後のコーヒーを楽しんでいた。店の名は『アルル』…店内は焦げ茶色を基調とし、抑えられた照明と古い家具が嫌味にならない程度の懐古趣味を演出する。流れるピアノ曲も柱時計の針の音さえ阻まないほどさり気ない。まあレストランというよりは喫茶店規模の店だが、思えばここは学生時代から私の憩の空間だ。この穏やかな雰囲気には自然に心を預けることができる。
 お気に入りの手作りハンバーグセットを堪能し、食後のモカをゆっくり口に運んでいると…まるで時間までゆっくり流れているような気がしてくる。閉店は午後9時、店内はもう客もまばらで、カウンターからは少しずつ後片付けの音が聞こえてくる。
 …カラン。
 入り口の鈴の音。こんな時刻に新しい客かと何気なく視線を送ると…そこにはコートとハットの姿があった。
「あれ?唄美先生、こんばんは」
 カイカンはそう言って笑顔を見せる。…どうしてこんな場所まで。
「あ、どうも」
 他の客への迷惑を考え声を落として返事する。カイカンはテーブルにぶつからないように気を付けながらここまで来ると、「ご一緒してよろしいですか?」と囁いた。
「…どうぞ」
 そう言って微笑みを返す私。ああ、これで休息の時間は終わりか。…仕方がない、こればかりは受けて立つしかない。カップを置いて気を引き締める。
「刑事さん、ここでお会いするなんて思いませんでしたよ」
「なんだか先生に付きまとってるみたいですいません」
 そう言って腰を下ろすと、カイカンはカウンターにブレンドを注文した。
「実は受付の峰さんに教えてもらったんですよ、先生のお気に入りの店だって。だから私も一度来てみようかと思いまして」
「そうですか。ええ、確かにここはお気に入りなんです。学生時代から通ってますから」
「学生時代…じゃあ思い出の味、ですね」
「ええ。試験勉強や部活で疲れた時はよく来ました」
 そう答ながら少しあの頃を思い出す。学生時代…派手なことは何もなかったけどそれでもやっぱり愛しいセピア色の日々。
「先生は何の部活をやってらっしゃったんですか?」
「陸上部です、短距離をやってました」
 ほとんど無意識にそう答えてしまう。今のは少しまずかったかな。私の頭にホテルの非常階段を駆け上った時の情景が浮かぶ。刑事は「陸上部ですか…青春ですね」と嬉しそうな顔を見せた。
「まあ…医学部でしたからどうしても勉強が最優先にはなっちゃうんですけどね。それでも夢中で走ってましたね…あの頃の情熱って不思議です」
 カイカンは笑顔のまま頷く。私は続けた。
「もしかしたら…その情熱を忘れずにいたいっていうのもあるかもしれません。医者になってもこの店に通い続けているのは」
「先生は立派に情熱を持ってやってらっしゃるじゃないですか」
「ありがとうございます。でも私だって、嫌になったり逃げ出したくなったりしますよ」
「フフフ、刑事も同じです」
 優しくそう返されたが、次の瞬間急に厳しい声が尋ねた。
「ところで先生、先週の金曜日はどうしてここにいらっしゃらなかったんですか?」
 一瞬言葉に迷う私に、カイカンはさらに続ける。
「実はここに来る前に電話で店員さんに聞いたんですよ。先生は金曜日の夜によくここにいらっしゃると。でも先週はそうじゃなかった。そして火曜日の今夜いらっしゃったのは、一体何故なのでしょう」
 …この刑事、やはり油断してはいけない。言葉は丁寧だが今の質問は明らかに私への疑惑を含んでいる。
 あの金曜日、私はとてもここで夕食を楽しむどころではなかった。佐藤から脅迫を受けた後、そのまま診察室で翌日の犯罪計画を練っていた。そんなことでもなければ…きっといつもどおりここに来ていただろう。
「刑事さんって本当に…色々なことを気にされるんですね。想像力が暴走していませんか?」
「一応手綱は握っています。すいません、人がいつもと違うことをする時には…どうしてもそこにヒントがある気がするんですよ」
「そうですか。おっしゃるように先週は金曜日にここに来ませんでしたね。でもそれは…疲れていたから、それだけです。今夜ここに来たのも、ただの気まぐれです。また同じ説明になっちゃいますけど…たまたまですよ」
 カイカンは小声で「気まぐれですか…」とくり返す。
「ええ、何となくここのハンバーグが食べたくなって…おかしいですか?」
「いえいえ、おかしくありません。おいしいですよね、ハンバーグは…フフフ」
 そこでマスターがブレンドを運んできた。刑事は礼を言ってそれに口をつける。
 この人は金曜日の夕方に私が佐藤と面会したことを知っている。そしてその夜にこの店に来なかったことも突き止めた。だが、それがどうした?そんなことが私の犯罪を立証するわけがない。
 …どこまで本気で私を疑っているのだろう?

 子供の用に両手でカップを持ち、猫舌なのかカイカンは少しずつコーヒーに口をつけている。私も再び自分のカップを手にした。
「先生、あれから色々考えていたんですよ」
 少しの沈黙を挟んでカイカンが言う。また事件の謎解きだろうか。
「今日のお昼にお会いした時、先生はおっしゃいましたよね…精神科医と刑事の仕事は似ているかもしれない、と。そのことを考えていたんです。確かにそうかもしれません」
 意外な話題だった。私は答える。
「ええ、どっちも人の心を相手にする仕事ですからね。言葉や行動から心を読もうとする仕事、想像を巡らせる仕事…」
「はい。相手の心を読む…でもそんなことばかりやってると、自分はなんて無礼者なんだと時々自分が嫌になります」
 そう言ってからカイカンは慌てて「あ、すいません。無礼なのは刑事だけですよ」と付け足した。
「精神科医も同じですよ。人の心をどうこう言うなんてとっても無礼だと思います。じゃあお前はどれほどたいした心を持ってんだって話じゃないですか」
 そう言って笑うとカイカンも「無礼者同士ですか」と笑う。
「でも先生、フフフ…精神科のお医者さんに会いたい人はいても、刑事に合いたい人なんていません」
 まあそりゃそうだ。
「先生のクリニックを見て思いました、こんなにたくさんの人が先生を求めて足を運んでるんだと」
 カイカンはそこで一口飲む。私もカップに口をつけた。生まれた沈黙にピアノ曲がそっと流れ込む。このまま黙っていてもよかったのだが、私の口は開いた。
「でも刑事さん、精神科医はただ人気があるだけじゃダメなんです。患者さんから必要とされるのは嬉しいことですけど…」
「どういう意味ですか?」
「その先生がいないと生きていけない、となってしまっては治療は失敗ってことです。精神科医が一時的には心の支えになったとしても、やがてその支えを外した時に心が立っていられるのが本当の回復ですから」
 刑事はカップを置き、興味深そうに「ナルホド」と頷く。
「先生を求めすぎてしまう患者さんもいる、と」
「そうですね。ほら、人間って一人に気持ちが集中するとまるで相手が自分のためだけに存在してるような気がしちゃうじゃないですか。確かに医者は患者に優しくしますが、その優しさはけしてその人にだけのものではありません。他の多くの患者にも同じ優しさを注いでいる…患者さんは時としてそれを忘れてしまう」
 と、そこまで言って私は自分がおしゃべりになっていることに気付いた。こんな精神科医の心得など、口にする必要はなかったのに。
 …わかっている、この刑事は敵だ。気を許してはいけない。下手に言葉を続ければ小さな矛盾からまたいつ足もとをすくわれるかわからない。犯行が証明されれば私は人生の全てを失ってしまう。
「求められ過ぎてもいけない…ですか。奥が深いですね」
 そう言ってカイカンの左目は私を見た。危険だとわかっている…それでも私の心はこの人物と話をすることに不思議な心地良さを感じている。
「やはり先生でも…治療に失敗したと思うことがありますか?」
「ええもちろん。…と言うよりも、成功したと思うことの方が少ないですかね」
 他の科と違って心の医療には明確な指標がない。自分の治療で患者は本当に良くなっているのか…いつも自問自答する。
「私も、一体どれだけの仕事ができてるんだろうといつも思います」
 …驚いた。心を見透かされたかと思った。カイカンは初めての声色でそう言うと、そっとハットを触ってから続ける。
「刑事も…なかなか成功のない仕事です。犯人を逮捕しても誰も救われないこともある。それに一番無力だと感じるのは…知っている時です」
「…知っている?」
「多くの犯罪が起こっている。苦しんでいる人がいる。それを知っているのに何もできない時が…一番堪えます」
 カイカンはまたそこでコーヒーを飲む。同じだ…この人が感じている虚しさは。昼間に生じたあの共感がまた胸の奥で湧き上がってくる。
 私も精神科医になって一番落ち込んだのは目の前の患者を救えなかった時ではない。患者の存在を知りながら何もできなかった時だ。そう、あれはふと見たインターネットの質問サイトだった。匿名の少女が自分に起こった出来事を挙げながらどうしたらよいかを相談していた。多くの者が少女の苦しみを受け止め、勇気づける言葉やアドバイスを書き込んでいた。でもそれは…正しい対応ではなかった。何故なら彼女には治療すべき精神の障害が存在していたからだ。
 もちろん診察したわけではない。ただ私は彼女の書き込みの内容、その表現や思考の道筋を読んで見抜いてしまった。彼女を救うにはまず何よりも医療が必要であると。しかしそれをアドバイスしている者は誰もいなかった。むしろ全くの親切心から病状をあおってしまっている言葉まであった。
 …ただ、そこで終わり。私には何もできなかった。サイトを見つけた時、少女の相談からすでに数年が過ぎていた。コメントを書き込める期限はとうに終了し、少女は匿名のため連絡を取ることもできない。そう…この日本のどこかに心の病気に苦しんでいる少女がいることを私は知っているのに、自分には何もできない。パソコンに怒鳴りたくなるほどもどかしく、そして虚しかった。精神科医として自信をつけ始めた頃だっただけに、自分のしている仕事がどれだけささやかかを思い知らされた。
「そうですか…」
 カイカンがそう返す。気付けば私は心のままに語っていた。
「今でも時々思い出すんですよ…顔も知らないその子のことを。ちゃんとどこかの病院にかかってくれてるといいなあって」
 また自然にそう口が動く。カイカンは優しく「そうですね」と呟き、少し遠い目をして言った。
「犯罪も病気もこの世からなくなることはない。その全てを解決するなんてできるわけがない。それでも私たちは…目の前の仕事をしていくしかないんですよね。それがどんなにささやかで、どんなに一握りでも」
 私は黙って頷く。そして「刑事さんの仕事って大変ですよね」と労うと、カイカンは人差し指を立てて微笑む。
「まあ…半分は好きでやってますから。自分が刑事であることがこの上なく憎らしい時もありますけど、やっててよかったと思う時もあります」
 …やっぱり同じだ。人のためとか社会正義とかではない、私も好きだからこそこの仕事をしている。そして同じくらい医師免許を憎んでいる。
 柱時計が8時半を告げた。
 先ほどカイカンがこの店に現れた時、休息の時間は終わったと思った。でも…今ここには変わらず穏やかな時間が流れている。カイカンの異様な風貌さえもこの優しい空間に溶け込み、何の波紋も広げていない。それはこの店の持つ力なのか…まるで人生に疲れたあらゆる人間をそっと抱いてくれるゆりかごのように、全ては包み込まれていた。こんな、人を殺してしまった私でさえも…。
「先生はどうして精神科医になられたのですか?」
 男が問う。女は応じた。
「そうですね…どうしてでしょうか。自分には向いているとは思いますけど、悪い意味で」
「悪い意味、ですか」
「ええ。お昼にお会いした時にも話しましたが、人の心を推し量るなんて悪い癖だと思うんですよ。実は私、その癖が幼い頃からなんです。
 別に自慢とかじゃないんですけどね…私、昔から人の言葉や行動の矛盾にすぐ気が付いちゃうんですよ。あれ?この人この前言ってたことと違うぞとか、あれ?この二人同じ隠し事をしてるぞとか…。そんなのがいつも気になって、それを指摘したせいで友情を壊してしまうこともありました」
 そこで思わず自嘲の笑いが漏れる。
「アハハ、人間なんて誰だって嘘をついて生きてるんだから…本当はそんなことに気が付かない方が幸せなんですよね。でも私は気が付いてしまう…そういう意味では悪い癖が活かされてるこの仕事に向いてると思います」
 こんなことを誰かに話したのは初めてだ。刑事は「そうでしたか」と静かに返す。もしかしたら…この人もそうなのかもしれない。いや、きっとそうに違いない。卓越した記憶力・直感力、そして想像力をコントロールする力。それにより知りたくもないことがわかってしまう孤独。
 共感というトンネルを通ってどんどん心に何かが流れ込んでくる。まずい、もっと話がしたくなってきた。これはカイカンの作戦なのか?危険なのはわかっている。でも人の話を聞く仕事をしているせいか、時々無性に誰かに聞いてもらいたくなることがある。お見せできるような心ではないけれど、それでも全てをさらしたくなる時がある。特にこんな穏やかな夜には。
「刑事さんはどうして今の仕事を?あ、コロンボが好きだからでしたね」
 そう尋ねると、カイカンは「ええまあ、それもありますが…」と少し照れながらコーヒーを飲んだ。
「すいません、刑事さんとお話するのが楽しくなってしまって。同じ心を読む仕事をしているからでしょうか」
「そうかもしれません。私も唄美先生とお話するのは楽しいです…とても」
 そこでカイカンは一気にコーヒーを飲み干し、厳しい声になって続けた。
「でも私たちの仕事は…楽しいだけじゃいけないんですよね」
 はしゃぎ過ぎていた自分を恥じる。私はカップを置いてから答えた。
「そうですね…すいません」
「いえいえ先生」
 と、そこでカイカンはまた笑顔。…この豹変がわからない。
「確かに先生と私の仕事は似ているのかもしれません。でも決定的な違いがあります。先生は相手を助けるために心を読みますが…私は違います」
 そっと席を立ち、カイカンは私の顔を見た。
「刑事は…相手を逮捕するために心を読んでいるんです」
 そう言うとカイカンは背を向け「おやすみなさい」と呟く。そしてそのまま会計をして店を出ていった。
 …カラン。入り口の鈴が鳴る。

 あの人は今夜何のためにここに来たのだろう。先週店に来なかったことを少し追及されたが、その後はただ話をしていただけのように思える。
 …わからない。わかっているのは、カイカンは必ずまた私の前に現れるということだけだ。