初めまして。一年かけて全12回を連載するエッセイの第1回目です。いったいネクストパワーとは何なのか。本編に入る前に、まずは自己紹介と参りましょう。
僕の名前は『ふくば・しょうた』、漢字で書くと幸福の「福」に場所の「場」、将来の「将」に太陽の「太」で福場将太です。ただ、電話で名乗ると高い確率で「福田さんですね」と言われます。そのため先ほどのような説明をするようになり、おかげで目の不自由な人にも伝わりやすくなりました。
生まれは1980年、今や毎年春の恒例であるドラえもんの映画が初めて公開された年。そのためか僕は子供の頃からドラえもんが大好きです。
出身は広島県呉市。瀬戸内海に面した港町ですが、貿易や漁業ではなく、戦時中は戦艦大和を製造した軍港の港町。大学進学を機に東京に出て、就職を機に北海道で暮らすようになりましたが、今でも波音と潮の香りが恋しくなります。
僕の仕事は精神科医、心を診る医者です。中でも、ちょうどよくお酒やギャンブルに頼れなくなる依存症という病気に関心を持っています。
一方、僕自身の持病は網膜色素変性症という眼科の病気。みなさんの中にも、同じ診断の方がおられるかもしれませんね。眼球の内側に網膜という部分があり、そこには視力の細胞と書いて「視細胞」というものがあります。目に入ってきた光を視細胞が電気信号に変換して脳に伝える、そうやって人間は物を見ているわけですが、視細胞が徐々に壊れて減っていってしまうのがこの病気です。
主な症状は、暗い所が見えにくくなる「夜盲」、見えている範囲が狭くなる「視野狭窄」、そして見る力そのものが弱まる「視力低下」。これらが徐々に進行していきます。
思えば幼い頃から僕は映画館が暗くて歩けませんでしたし、前方の座席に座ってしまうとスクリーンが視野に収まり切らず、移動するドラえもんの姿を必死に顔を動かして追っていました。そして30歳を過ぎた頃に失明に至ったのです。
そんな僕のライフワークは、音楽と文芸の創作。ギャグシンガーの嘉門タツオさんの影響で中学時代にギターを開始、高校時代には図書委員会に入ったことで執筆も好きになりました。
今でも休みの日は曲を作って歌ったり、推理小説を書いたりするのが至福の時間で、医者であることも目が見えないことも忘れて没頭しています。
そんなわけで、僕は職場では患者さんを支える支援者、日常ではたくさん支えてもらって生活している当事者、家では自由に創作をする表現者ということになります。自分にとってどれが一番大切とか、どれが一番メインということはありません。他にも激辛カレー好きだったり、丸い顔だったり、バリトンボイスだったり、そんな色々な面が合わさった多面体の存在が福場将太という一人の人間です。どうぞよろしく!
もう少し自己紹介を続けます。僕は『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』という団体のメンバーです。かつては欠格条項と呼ばれる法律の規定によって、目の見えない者は医師の免許を取ることができませんでした。しかし熱意ある人たちの尽力によって2001年に法律の一部が緩和され、2003年に全盲の状態で国家試験に合格した第1号の医師が誕生。この先生を中心に2008年に立ち上がったのがゆいまーるです。
当初は十名ほどの会員数でした。しかし、目が不自由でも医療や福祉の仕事に携わっている全国の仲間たちが会の存在を知って徐々に参入。医師に限らず、看護師、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士、精神保健福祉士などなど、今や会員数は百名を超えています。
そしてもう一つ、僕は『公益社団法人 ネクストビジョン』という団体にも所属しています。その拠点は神戸アイセンターという眼科の病院の中にあるビジョンパーク。
病院が目指すのは、最先端の治療で視力を回復させること。でもそれが難しい患者さんもいる。そこでネクストビジョンが目指すのは、仮に目は良くならなくても、生活と心を充実させること。ビジョンパークは、患者さん同士の学び合い、助け合い、笑い合いが自然に生じる空間になっており、ここで色々な企画を開催しています。
例えば目の不自由な人のゲームやスポーツの大会、音楽イベント、IT機器のセミナー、人生の意味を探る語らい、視覚障害を仕事に活かしたアイデアのコンテストなどなど、いずれも視力ではなく、生活と心を向上することを目的としています。
精神科医ながら眼科にも関わっているうちに、僕は色々な人たちと出会いました。出会いがまた次の出会いにつながり、2024年には初めての著書『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』を発刊する機会にも恵まれました。この書籍は点字ジャーナルでもご紹介いただき、そのご縁もあってこの度の連載にもつながったのです。
それではいよいよ本編に入りましょう…と思ったら、あれ? もうページがないぞ。まあ焦らず続きはまた次回。『バリアバリュー』という重要なキーワードが登場しますので、どうぞお楽しみに!
(『点字ジャーナル』 2026年3月号掲載)