今回はロマンスミステリー、そしてちょいと力作です。前日談に当たる『空と毒薬』で顔見せした女カイカンこと法崎さくら警部を主軸に据えた物語、いかがだったでしょうか。
実は女カイカンという設定が生まれたのははるか昔。まだ東京に暮らしていた頃、大学の音楽部の仲間と刑事カイカンのラジオドラマを作った時、ニセ予告編の中で「今度は北海道で事件、女カイカン登場!」というナレーションを口走ったのが始まりです。実際に北海道に移住して十五年、ようやく本当に登場させることができました。彼女がどんな人生を送ってきたのか考えながら物語を作るのはとても楽しかったです。そして書いていて力がこもったのが前半のぎこちない恋愛パート。電話で約束して、待ち合わせして、好きな人と会ってデートするドキドキはやっぱりいいもんですね!
エピローグで彼女が東京を訪問しましたが、実は全くの偶然でこの3月に僕も久しぶりに仕事で東京へ行ってきました。蔓延帽子の渦中で観光もできませんでしたが、学生時代を過ごした東京の空気に最後の春に見た新宿御苑の満開の桜を思い出し、それをちょこっと加筆してこの物語は完成となった次第です。
悲しいことだらけの社会情勢ですが、このつたない推理小説で少しでも面白さや優しさを感じていただけたなら幸甚です。皆様、くれぐれもご自愛くださいませ。
令和4年3月11日 福場将太