第三章 小休止

「失礼致します」
 そこで引き戸が開かれ三人分のバニラアイスとホットコーヒーをトレイに乗せた店員が入ってきた。あたしは話を一時中断し装われるカップを見つめる。
「ごゆっくりお召し上がりください」
 店員が去ると、カイカンくんが「ではさっそく」とアイスを口に運ぶ。
「ムーンちゃんも遠慮なく食べて」
 促すと美人刑事も「ありがとうございます」と一口。
「どう? 本場のバニラアイスは」
「おいしいです、とっても」
 隣で変人刑事も「甘過ぎなくていい」とコメント。
「あら結構甘いと思うけど」
 あたしもスプーンを取ってパクリ。やっぱりデザートはアイスよね。
「もしかしたらさっきの法崎さんの話が甘かったからそれでアイスが甘く感じないのかもしれない。ねえムーン?」
「はい…あ、いえそんな、とっても素敵なお話だったじゃないですか。さくらさんの後輩のその方、チョコレートを渡せてよかったですね」
 気を遣われると余計に恥ずかしい。それにムーンちゃんは気のせいかさっきより硬い表情になってる。もしかしたら全く事件の話じゃないから怒ってるのかも。待って待って、本題はここからなんだから。
「しかしバレンタインチョコ渡すのに十年だよ? そんな調子だとそのカップル、手をつなぐのに二十年かかりそうだ」
 低い声にデリカシーのないことを言われてあたしはちょっとムキになる。
「うっさいわね。そのカップルの話はどうでもいいのよ。ただ前提としてその初デートの話をしておかないと事件の話につながらないの。いよいよここからだからしっかり聞いて」
「はい、お願いします」
 ムーンちゃんが背筋を伸ばしてアイスを置く。本当に真面目過ぎだってば。
「食べながら聞いていいのよ、アイス解けちゃうから。
 じゃあ続けるわね。どうしてカップルの話をしたかって言うと、あたしが話そうとしてる未解決事件はそのれんが通りで起ったからなの。そう、まさにその初デートの当日にね」
 室内の緊張がにわかに強まる。あたしはコーヒーで口を湿らせると、ゆっくり続けた。
「彼女は…意外な形でその殺人事件に関わることになったわ」