「本当に…ごめんなさい」
彼女はまたそうくり返した。リラックスチェアーの背もたれ越しに見える後頭部が動き、首を前屈させたのがわかる。謝意で頭を下げたのか、それとも後ろめたさで顔を伏せたのか…いずれにせよ私が裏切られた事実が変わるわけではない。
彼女が初めてこのネイルサロンに来てくれたのはもう三年前。せっかく仲良くなれたのに…まさかこんな仕打ちを受けるなんて。楽園だった空間が今は地獄の底のように感じられる。
「私のことは、気に…しないで」
形だけの優しい返事をして私はそっと窓を閉めた。そしてコートと共にハンガーに掛けられた彼女のすみれ色のスカーフを手に取ると、一歩ずつその後頭部に近付いていった。
許せない…もうそのことしか考えられない。
「本当にごめんなさい。李音さん、今までありがとう」
「もういいのよ、凛子ちゃん」
そう答えながら背もたれの後ろからスカーフを彼女の首に巻くと、私は間髪入れずに絞め上げた。彼女は一瞬体をビクンとさせたが声は上げない、鈍い呻きが少し聞こえただけ。これなら悲鳴が漏れるのを恐れて窓を閉める必要はなかったな…そんな冷静なことを頭の片隅で考えながらもけして絞める力は緩めない。彼女はジタバタと悶えるが、深く腰掛けているため背もたれから体を起こすことさえできないでいる。
バカな子…その華奢な手がどうにかスカーフをはずそうとするが、深く食い込んだ布は指を差し込む隙間も与えない。彼女の指…そこには先月私が施術したカーネーションのネイルアート。
こっちこそたくさんの思い出をありがとう。一緒に過ごした幸福の日々が脳裏を流れていく。それはとても愛しい愛しい時間。
それでも私は、やはり力を緩めることができなかった。