第三章① ~鳥海李音~

店の片付けを終えた私はリラックスチェアーに身を沈めた。そして帰っていった二人の刑事のことを考える。
あのカイカンとかいう男、随分風変わりだった。私にネイルアートをさせてその様子をじっくり見ていやがった。でもまあ…特にそれで何かがばれるわけでもない。口がすべったりもしなかったし、この店にあの子を手に掛けた痕跡なんてもう残っていない。
凛子ちゃん…今頃天国にいるのかな、それとも地獄にいるのかな。どっちにしても今度はもう人を裏切ったりしちゃダメよ。
あの子の親族は今頃悲しみに暮れているだろう。そして恋人の男も…いい気味だ、せいぜい苦しめばいい。

ふっと息を吐く。カイカンは私とあの子がプライベートでも交流していたんじゃないかと疑っていた。それを探られた時はさすがに頭に血が上り、笑顔を絶やしてしまった。「ご想像にお任せします」なんて妙な答えも返してしまった。不自然だっただろうか。疑いを持たせてしまっただろうか。口先だけでも「お友達でした」なんて答えた方がよかっただろうか。
あの子はメールが嫌いで滅多にしなかった。だから警察がスマートフォンを調べても私が彼女を手に掛けた動機が知れることはない。もちろん本気で調べれば、一緒に旅行に行ったり、お互いの部屋に出入りしたりしていたことはわかてしまうだろう。まあその時は友人関係を認めればいいだけの話、別にそれで私が有力容疑者になることもない。

そっと夜風が舞い込んだ。そういえば窓を閉めるのを忘れていたな。私はチェアーを立って窓辺に寄る。夜の闇には遠い家々の明かりが星のように点在していた。
何も…悲しくなんかない。別に…不幸なんかじゃない。私はこれからもネイリストとして、女の美しさを追求していくだけだ。
窓を閉めた。どっと疲れが襲ってくる。早くゆっくり休むことにしよう。