第五章② ~ムーン~

 クリニックの外に出ると夜気が少し肌寒い。あの場にいてはいけない気がして思わず飛び出してしまった。道路を挟んですぐの所にある駐車場に向かいながら私は考える。
 警部と彼女…何がとかどこがとはいえないけれど、何だろう…似ているというか通じているというか…そんな気がした。もちろんまるで違う人間なんだけど…そう、遠く離れて同じ闇の中にいるような。それがたまたまお互いの存在を認識することになった。
 意味不明な言動ばかりの私の上司。もしかしたら飯森唄美はそれを解釈できる数少ない人間だったのかもしれない。もし彼女が殺人者でなかったら…。

 愚問だな。殺人者でなかったら、出会うこともなかっただけだ。