あとがき

『刑事カイカン』は、中学3年生の時に仲間と作った映画がそもそもの始まり。その後大学生になって小説化するに当たりカイカンの部下として登場させたのがムーンさんでした。大学卒業後、音楽部の仲間で『刑事カイカン』のラジオドラマを作った時も彼女は登場し、三十代に入って音声パソコンのおかげでまた執筆を再開できた時も、やっぱりカイカンの部下は彼女でした。
初登場からもう二十年。今にして思えば、異様な風貌なのに謎の自信に満ちているカイカンに対し、超絶美人なのに自己肯定感がやたらに低いムーンさんは面白いコントラストだったと感じます。そして彼女の一人称視点で文章を綴る作業は、何故だかとても自分の心が整理されていくのです。

このシリーズは作中の時系列に沿わずに発表していますが、物語は彼女がカイカンの下に着いた時に始まっています。最初の事件と最後の事件だけは決めていて、今は気ままにその道の上を行ったり来たりしながら書いているわけです。
今回は梅雨の雨音をBGMに、久しぶりにネガティブ全開のムーンさんを書いてみました。一番筆が進んだのは氏家美佳子巡査とのやりとり。カイカンには悪いけど、もはやこの二人だけで物語は成立するのではと思うくらいでした。

そんな雨の奇説の物語、少しでも楽しんでいただけたら幸甚です。日本には雨を表現する美しい言葉がたくさんあります。ぜひあなたの好きな雨を探してみてください。

令和3年7月4日  福場将太