千歳視覚障害者福祉協会主催講演会&音楽会 見えない夏を歌で見送る

 2026年8月23日(日)、千歳視覚障害者福祉協会主催のイベントが開催された。会場は千歳市総合福祉センター、その名のとおり新千歳空港の近郊である。
 昨年も、札幌市視覚障害者福祉協会、江別視覚障害者福祉協会、岩見沢視力障害者福祉協会と、北海道の町の当事者団体主催の講演会に登壇したが、3部作で完結したかと思いきや、一年ぶりにまさかのシリーズ続編。しかも今回はこれまで以上に驚きの企画だったため、ここにその思い出を。

■演題

 心と目の健康講座 見えない夏を歌で見送る

■セットリスト (第1部 講演会)

第1章 視覚障害と生きて
第2章 視覚障害と心の健康
第3章 相談先はどの病院?
第4章 元気な心でいるためのテクニック
第5章 まとめ

1.未曽有の企画

 今回のイベントは約2時間。前半1時間が講演会、そしてなんと後半1時間は音楽会という構成。これは千歳視覚障害者福祉協会の会長さんからのたっての希望で、僕の趣味である音楽をふんだんに取り入れてほしいとのことだった。

 確かにこれまでも講演会にギターを持参して歌ったことが何度かあった。しかしそれはおまけの余興。当然だ、大学時代の音楽部でやっていたライブではないのだから。しかし今回はイベントの半分が弾き語りライブ、本当によろしいんですかと思いつつ、13歳から流れ続けるギター小僧の血が騒ぐのも正直なところで、そしてかねてからそんなイベントをするのが夢だったという本心もあり、そのままの企画書でお受けすることにしたのである。

2.戦慄の静寂

 当日は朝から快晴。もう蝉の合唱は聞こえず道の片隅にはコスモスも咲いて秋の風情を感じたが、照り付ける日射しはまだまだ夏の暑さを宿していた。ギターとアンプを手に千歳市へ。この姿を見て、医療の講演会に出向く男だと誰が予測できるだろう。

 少し遅れて総合福祉センターに到着すると、控室に招かれてお弁当をいただく。誰も僕の姿に驚くことはない。きっとその場にいる多くの方が視覚障害の当事者なのだ。
 見えなければ容姿で先入観を抱くこともない。目が不自由な人間は、心が自由なのである。

 食事を終えると、会長さんと挨拶を交わして会場へ向かう。廊下を進む道中、建物の中は静まり返っていた。こんな真面目な場所で演奏して本当に大丈夫なのかと、少し不安も込み上げる。
 そして会場へ入ると、そこもまた静寂の世界。かすかに人間のいる気配はあるが、誰も雑談をしていない。笑い声を交わしていない。おいおいおい、この空気の中で歌うのか? 

3.希望の講演

 まずは第1部の講演会。テーマは『目と心の健康』。
 治療不能な目の病気を患うと、そのストレスで心の調子を崩す人は少なくない。特に告知を受けた時、実際に見えづらくなった時、そのせいで生きがいを失った時のストレスは強く、正常な落ち込みを通り越して病的なうつ状態にまで至ってしまうことがある。
 ショックなことがあれば一時的に落ち込むのは人間の心の正常な反応だ。しかし持続的なうつ状態に至ると、治療を頑張る気力も出なくなって、本来なら防げた症状が防げなかったり、治せた症状が治せなかったりした結果、さらに目が悪くなって余計に落ち込む、という悪循環に陥ってしまう。

 癌を患った患者さんの心のケアについては、『精神腫瘍学(サイコオンコロジー)』という医学の専門分野があって、当然専門家もいて、研究や学会もなされている。しかし残念ながら、眼科疾患を患った患者さんの心のケアを研究する専門分野はまだない。
 とはいえ、今回の講演会がそうであるように、視覚障害当事者にとって、目の健康だけでなく心の健康も重要であることは多くの人がわかっている。そして、少しずつ視覚障害当事者の心のケアを大切にする医療・福祉の支援者も増えてきている。

 例えばロービジョン外来を担当する眼科の先生は、視力を高めることだけでなく、それが困難だったとしても、生活や幸福感を高めるための支援をしてくださっている。一つ前の研究コラムでも書いたが、先日の視覚障害リンクワーカー基礎研修においても、僕が求められたのは視覚障害当事者のメンタルケアについての講義であり、そこには医療・福祉・教育・就労などに携わる様々な立場の支援者が受講していた。

 僕自身も『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』や『公益社団法人 NEXT VISION』に携わる中で強く感じる。視力が低下したからといって、心の元気まで失うのはもったいない。心が元気なら、また人生を充実させることはできるのだと。
 今回の講演会ではそんな希望を少しでもお伝えしたかったのである。

4.笑顔の演奏

 講演会はつつがなく終了し、いつもならお疲れ様でしたとここで帰るわけだが、今回はそうではない。10分間の休憩の間にマイクとギターとアンプをセッティング。そして第2部としての弾き語りライブが開幕した。

 一応テーマとしたのが『季節を感じる歌特集』。
 人間には目で見て感じる視覚、耳で聴いて感じる聴覚、鼻でかいで感じる嗅覚、口で食べて感じる味覚、肌で触れて感じる触角という五つの感覚、いわゆる五感があるが、その中で一番幅を利かせているのが視覚だ。情報の9割は視覚なんて言われるほど、こいつはかなり出しゃばっていて、そのせいで他の四つの感覚がなかなか活躍できないでいる。
 春の桜や夏の海、秋の紅葉や冬の雪など、確かに目で見て季節を感じている人は多いと思うが、花が香ったり、波音が聴こえたり、サンマがおいしかったり、空気が冷たかったり、視覚以外の感覚でも春夏秋冬を知ることはできる。むしろその方が、より深く季節を感じられているのかもしれない。

 そんなわけで、今回は視覚以外の感覚でも夏から秋を味わえるような日本の名曲をラインナップした。ではここでセットリストとともにセルフレポートを。

■セットリスト (第2部 音楽会)

M1 青葉城恋唄

 まずは夏の曲からスタート。東北と同じく、北海道でも七夕は8月。「瀬音ゆかしき」や「葉ずれさやけき」という音の情緒表現がなんとも美しい。

M2 夏休み

 この曲には、子供の頃の夏休みを彩る要素がいくつも出て来る。視覚だけでなく、蝉の声は聴覚だったり、スイカは味覚だったり、五感を意識するとより味わい深い。

M3 お嫁においで

 夏といえばやっぱり海、海といえば若大将。「古い曲ですが大丈夫ですか」と尋ねたら、「聴いてる人も古いから大丈夫」と会場からの返事。それに合わせて笑い声も上がる。こういうやりとりこそライブの醍醐味だ。

M4 涙そうそう

 広島出身の自分にとって、8月は原爆や終戦を思い出す季節。お盆でもあり、もう会えない人を思う心を描いたこの曲は、歌っているだけで優しい気持ちになれる。

M5 学生時代

 続いて秋の曲のパートへ。「秋の日の図書館のノートとインクのにおい」と歌詞にあるように、時としてにおいは記憶を鮮明に呼び起こす。

M6 ルビーの指環

 前の曲と連続で演奏。眩い夏の日中とせつない秋の日暮れの対比が印象的な曲。そしてあの独特の歌唱を再現することは…もちろんできません。

M7 秋桜

 小春日和といえばこの曲。若大将と同じく、百恵ちゃんの根強い人気は時代を越えている。まさに伝説のアイドルだ。

M8 悪女

 秋といえば月、月ヨといえば北海道が生んだ偉大なるシンガーソングライターのこの曲。十五夜には、見えなくても夜空の月を見上げたい。

M9 少年時代

 秋の曲のパートも終わり、最後は夏を見送るこの名曲。抽象的な歌詞だからこそ、たくさんの人がたくさんの情景や感情を重ねることができるのだろう。

E1 あの素晴しい愛をもう一度

 そしてまさかのアンコール。医療講演会でアンコールとは前代未聞であろうが、まあ今回のイベントは半分音楽会なのでこれもあり。高校1年生の時の文化祭でやってから、大学時代の音楽部でもやり、社会人になって職場のデイケアでもやり、と随分長く親しんでいるフォークの名曲。
 せっかくなのでみなさんにも声を出してもらったが、気付けば開会前の静寂はどこへやら、たくさんの手拍子と歌声が会場から上がった。見えなくても、みなさんの笑顔を感じられたのである。

5.双頭の情熱

 講演にも演奏にも個人的な反省点は数多くあれど、みなさんの協力のおかげで今回のイベントは無事に終了した。
 講演会では精神科医として色々と理屈を述べ、音楽界ではただの弾き語り好きとして理屈抜きで演奏した。きっとどちらのアプローチも心の健康には必要なのだろう。
 仕事としてやっている医療については、もちろんそれで少しでも誰かの支えになりたいと思う。趣味でやっている音楽については、それで誰かを支えたいとか、癒したいとか、そんなことは願わない。もちろんそうなれば嬉しいが、それより何より、ただ好きだから歌っているだけのこと。

 仕事と趣味、いうなればビジネスワークとライフワーク。どちらも自分を支える大切なもの。方や使命感が伴う情熱、方や解放感が伴う情熱。二つの情熱を使うことのできた今回のイベント、とってもとっても幸せでした。企画してくださったみなさん、足を運んでくださったみなさん、そして歌ってくださったみなさん、本当にありがとうございました!

6.研究結果

 講演会でも、音楽会でも、登壇する時の願いは一つ。
 みなさん、今日は笑って帰ってくださいね。

令和8年8月25日  福場将太