僕の人生に何度も気付きとエネルギーを与えてくれたドラえもん映画を研究するシリーズの17回目です。
■研究作品
夏休み、どこかへ旅行に行かれた方も多いでしょうが、旅の醍醐味は行き先だけではありません。どんな交通手段で行くかも大きな楽しみ。船や飛行機も良いですが、僕は列車の旅が大好きで、特に煙を吐いて走るSLにはロマンを感じます。
推理小説『オリエント急行の殺人』で舞台となる豪華な寝台特急には憧れましたし、アニメ『天空の城ラピュタ』のオンボロ蒸気機関車で追っ手から逃げるシーンは子供心にワクワクしました。
またSLが走るのは地面の上だけとは限りません。映画『BACK TO THE FUTURE』ではタイムマシンとなって空を飛び回り、漫画『ONE PIECE』では海列車となって海の上を渡りました。さらに、地球を飛び出して宇宙まで行ってしまうことも。そう、この8月は小説『銀河鉄道の夜』を著した宮沢賢治さんの生誕130周年です。
そして生誕100周年の年には、のび太たちがSLで宇宙を旅するドラえもん映画が公開されました。今回はそんな1996年3月2日公開の第17作『のび太と銀河超特急』を研究します。疑る奴はぶん殴る!
■ストーリー
ドラえもんの誘いで22世紀のミステリー列車に乗車することになったのび太たち、それは宇宙を走行する蒸気機関車・天の川鉄道だった。行き先はハテノハテ星群という小惑星群にまたがるレジャー施設『ドリーマーズランド』。
さっそくそれぞれ好みのテーマパークを楽しむ五人だったが、その裏では寄生生物ヤドリが銀河侵略の恐るべき動きを開始していた。徐々に身体を乗っ取られる人間たち、暴れ出すアトラクションのロボットたち。スネ夫も寄生される中、機関車で脱出を試みるも、ヤドリの策略によって列車は不時着してしまう。
はたしてたくさんの乗客たちを守り、ドリーマーズランドに平和を取り戻すことはできるのか?
■福場的研究
1.主旋律と複旋律
ドラえもん映画の主旋律は『異世界冒険』。特に本作は最初から最後までワクワクがいっぱいで、まるでのび太たちと一緒に列車に乗って冒険の旅をしているような気持ちになれます。
その魅力は何と言っても宇宙を走る蒸気機関車という部隊。映画の冒頭でのび太が「ドラえもーん!」と叫ぶお馴染みのシーンでは、のび太の声に一瞬機関車の音がかぶさる演出が素晴らしく、そこから『ドラえもんのうた』が流れ出すタイミングもバッチリ! 汽笛と共に夢の世界へ招待された心地です。
その後の、夜の裏山に空から蒸気機関車がやって来る場面はあまりに幻想的で、ワクワクせずにはいられません。列車が出発すると、車窓には銀河の星々。これまでのシリーズでもドラえもんたちが別の惑星へ行く場面は何度もありましたが、ロケットではなく列車で旅する宇宙には、また格別の情緒がありますね。
中盤のドリーマーズランドの場面では、子供たちの大好きな要素がてんこ盛り。特に危険もなくただテーマパークで遊んでいるだけのシーンも長いのですが、それがまた良い。西部の星では保安官になったり、忍者の星では忍術の修行をしたり、メルヘンの星では白雪姫になったり、中生代の星では恐竜に乗ったり…本当に夢の世界です。ドラえもんとはこうやって子供たちにたくさんの夢を見せてくれる存在であることを、改めて感じました。
本作ではのび太たちと強い友情関係で結ばれるようなゲストキャラクターは存在しません。描かれるのは、それぞれの時代から、それぞれの目的で、それぞれ天の川鉄道に乗り合せた人たちとの交流。その一期一会の雰囲気が良い。
思えば子供の頃の家族旅行でもそうでした。旅の途中で親しくなった同世代の子供、優しくしてくれた名も知らぬおじさんやおばさん。きっともう会うこともないけれど、同じ時間を共に楽しみ、お互いのこれからの幸福を願って別れる。本作でのび太が出会った人たちも、きっとそういう存在なのでしょう。
映画の終盤はヤドリとの戦い。本作の敵は人体を乗っ取る寄生生物という、これまでになかったタイプの相手です。ただヤドリは銀河侵略を狙う単純な悪者として設定されていて、特にドリーマーズランドとの因縁や人間への恨みなどもありません。これまでのシリーズの敵役と比較すると底が浅い気もしますが、やはり本作ではそれが良い。
今回のストーリーはけっしてヤドリとの戦いがメインではありません。序盤の列車の旅も、中盤の楽しいアトラクションも、終盤の対決も、それこそ列車の車両のように同列の並びとして連結していて、ただ次から次へと起こる出来事を体感していく。そんな一冊の児童文学のような映画なのです。
実は中学を卒業した春に友達と映画館で観賞した時には、ストーリーやゲストキャラクターにシリーズの過去作のような深みがない、ひねりがない、と偉そうな感想を口にしながら帰ったものですが、今なら本作が子供心にとってどれだけ楽しい映画なのかがわかります。
ドラえもんがほとんどひみつ道具を使わないのも、夢の世界へ案内した時点で本作での未来ロボットとしての役割は終えていて、後は共に旅する友達としての存在だけで十分だからなのでしょう。
まるでこの映画そのものが遊園地の一つのアトラクションのような作品、みなさんもぜひ天の川鉄道に乗車してみてください。
ではここで少し視点を変えて、もう一つの魅力も研究します。それは音楽。
ドラえもん映画のBGMは、テレビシリーズと同じくオリジナルのサウンドトラックで構成され、そこに武田鉄矢さんが作詞する作品ごとの主題歌が加わっていましたが、本作ではシリーズで初めて、既成のクラシック曲が大々的に用いられています。
特にメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』の弦楽器の音と機関車の走る音の絡まり具合が絶妙で、列車が宇宙を進む場面では、優雅さと疾走感、そしてわずかな不安感と緊張感が奏でられています。映画を観ている自分がどんどん作品の世界に引き込まれて、のび太たちと一緒に列車に揺られている感覚になるのも、このBGMが果たしてくれている役割が大きいです。
全てが終わった大団円では、ここにドラえもんのうたのメロディまでかぶさる三重奏となっていて、壮大なクラシックコンサートのような迫力も味わえる作品なのです。
そんな本作の副旋律は何でしょうか。正直、異世界冒険という主旋律があまりにも前面に出ていて、シリーズの過去作のような別のテーマ性はほとんど感じません。なので強いて言うなら、主旋律と並走する対旋律ではありますが、本作の副旋律は『夢見る心』。
冒険の旅にワクワクを感じられる子供心、映画を観ている子供たちはもちろん、かつて子供だった大人たちの心にも懐かしいワクワクを共振させる感触こそ、本作の副旋律だと思います。
ドラえもん、のび太、しずか、ジャイアン、スネ夫。本作では際立った友情やロマンスの描写はありませんが、五人の子供たちにそれぞれの活躍があります。中でも子供の象徴として描かれているのがのび太で、脅威を前に仲間たちを勇気付け、得意の射的でヤドリをやっつける大活躍。本作の彼は紛れもなく少年でした。
そしてもう一つ、これはもちろん製作時に意図されたものではなく、後から加わった副旋律ですが、それは『お別れ』。本作が公開され、次回作の原作漫画の執筆途中で藤子F先生は天国へ旅立たれました。つまり、本作は藤子F先生が完成まで手掛けた最後のドラえもん映画となったのです。
藤子F先生がそれを想定されていたわけではないでしょうが、第1作『のび太の恐竜』の開幕で流れた「あったまデカデカ」のドラえもんの歌が久しぶりに流れること、宇宙に恐竜に西部劇とこれまでのシリーズでも藤子F先生が愛しておられた要素が詰め込まれていること、原点である異世界冒険主体のストーリーになっていることなどから、まるで完結作として描かれたようにも思えます。
列車には必ず終着駅があるように、藤子F先生オリジナルのドラえもん映画もここが終点。旅先で出会った人たちと必ず別れが来るように、藤子F先生ともお別れ。
宮沢賢治さんの『銀河鉄道の夜』のイメージが重なるからなのか、最後にのび太たちが出会った人たちに手を振る場面があるからなのか、主題歌『私の中の銀河』が「あなたは星より遠い人」と歌っているからなのか。エンドロールで宇宙へと汽笛を鳴らして走り去っていく蒸気機関車に、藤子F先生が乗っておられるような、そんな気がしてしまうのです。
藤子・F・不二雄先生、いくつもの夢を本当にありがとうございました。あなたに教えていただいたいくつもの心をずっと忘れません。先生と同じ時代の人生に乗り合わせることができて、本当に本当によかったです。
2.冒険の渦中で帰宅
僕の好きな、冒険の渦中で日常の世界に戻るシーンですが、本作では前半のただ旅を楽しんでいるパートではどこでもドアで地球へ帰る場面があるものの、ヤドリの侵略が始まってからは一度もそんな場面はありません。ドラえもんの四次元ポケットが封じられてしまうからです。
ただ列車と同じく、のび太たちは前にしか進めないという設定は冒険の旅の疾走感と緊張感を高めていますし、誰も脱出できないという状況はその場に乗り合わせた人たちと協力し合うことにも必然性を与えています。児童文学のテイストを考えても、やはり本作、途中下車はしないのが良いのでしょう。
3.冒険の切り替わり
ドラえもん映画によく見られる、最初は「巻き込まれた冒険」だったのが、途中から「自分で選んだ冒険」へ切り替わる場面ですが、なんと本作ではシリーズでも最も早くそのシーンが登場します。
乗車して間もない頃、列車が盗賊団に狙われるという緊急事態が発生。一度は逃げ腰になる五人ですが、そこでのび太のこの言葉。
「やっと面白くなってきたじゃない、僕たちはいつもこんな冒険をしてきたんじゃなかった? 何度も戦い、その度に乗り越えてきたじゃない。今度も逃げないでぶつかって行こうよ!」
異世界で出会った友達のためでもなく、地球を救うためでもなく、ピンチを面白いと捉えて、戦えるという自信だけで冒険に飛び込んでいく五人。「悪者たちと戦おう!」と一致団結する姿は、少年少女らしい単純さと純粋さに溢れています。
まあ結局この盗賊団は偽物だったわけですが、ここで早くもスイッチオンになったおかげで、本作ののび太はずっと勇敢な少年として立ち振る舞うのです。
「のび太って映画になると急にかっこいいこと言うんだから」というスネ夫のセリフは、最高のギャグでもあり、本作のテイストを決定付ける道標でもあったのでした。
4.その他
それでは、他の見どころもいくつか。最初はいつもの五人に着目してみましょう。
まずはスネ夫。本作は、映画シリーズでは第1作『のび太の恐竜』からすっかりお馴染み、彼の自慢話の場面から始まります。序盤がこのパターンだと、なんだか安心しますね。
行方不明のドラえもんを探すのび太に対して、「悪者に連れ去られたんじゃないの?」と答える彼。もちろん冗談のセリフですが、ひょっとして第14作『のび太とブリキの迷宮』でのことを言っているのでしょうか。
冒険に行くために部屋にみんなが集まる場面。この時ののび太からママへの言い訳は「宿題合せをするから」。第8作『のび太と竜の騎士』や第13作『のび太と雲の王国』と同じで、小学生らしくていいですよね。描かれてはいませんが、きっとこの時もスネ夫はのび太のママにお世辞を言ったのでしょう。
続いてのび太。今回は第2作『のび太の宇宙開拓史』以来、彼の射的の腕がふんだんに発揮されています。「逆上がりは苦手だけど射的の天才なんだぞ」というセリフが、とってものび太らしくて素敵。そういえば第9作『のび太のパラレル西遊記』でも、逆上がりができないと言っていましたが、確かに少年にとって逆上がりは一つのステータスでした。
ジャイアンについて。本作では、不審者を見たというのび太に対して「怪しい奴なら任せとけ」と前に立つなど、映画シリーズらしい頼もしさを見せてくれます。終盤での大活躍シーンも、大人だったら許されない無鉄砲かもしれませんが、子供ならば英雄! 前々作『のび太と夢幻三剣士』・前作『のび太の創世日記』とあまり活躍がなかったので、永遠のガキ大将が帰ってきてくれた感じがしてとっても嬉しいです。ヤドリのことをヤドカリと言ってしまう、シリーズでお馴染みの言い間違えギャグも健在!
忍者の星や中生代の星では、スネ夫との名コンビぶりも楽しめます。いつもは理不尽にこき使っているようにも見えるスネ夫ですが、行方不明になった彼が姿を見せると「コンニャロ、急に消えるから心配するじゃんか!」と怒りながらも安堵している人情味が良い。また逆にジャイアンが行方不明になっていることに一番最初に気付くのはスネ夫。なんやかんやで対等な親友同士なのでした。
しずかについて。久しぶりにお風呂好きの設定が強調され、しかもそれがヤドリを倒すきっかけになるのが面白い。お風呂場に入ってきたヤドリに「失礼ね」と返すのがとってもしずかちゃんらしい。そういえば第6作『のび太の宇宙小戦争』でもお尻を砲撃してきたミニ戦車に対して、同じ言葉を返していました。まさに小さなレディです。
のび太とのロマンスについては、前々作・前作で一つの到達点を迎えたため本作では控え目。それでも「のび太さんも行きたがるでしょうね」と口にし、のび太も「しずかちゃんにも見せてあげたかったなあ」と言うなど、お互い相手がいない時でも相手を思いやっている関係が素敵です。
ちなみにしずかの「まるでコンビニみたいね」というセリフが衝撃的でした。ついにドラえもん映画にもコンビニの概念が登場。この頃から子供にもコンビニが身近な物になってきたのでしょうか。
ドラえもんについて。実は本作、昔から一つだけ気になる箇所が。中生代の星を脱出する場面で、空を飛ぶプテラノドンに自分たちの乗るロケットがぶつかりそうになった時、「ロボットだ、構わず突っ走ろう!」とドラえもんが叫ぶのです。
これは、本物ではなくどうせロボットのプテラノドンだから傷つけても大丈夫という意味だと思うのですが、いやいや、ドラえもん自身もロボットなのに、他のロボットが壊れるのは構わないというのはいかがなものでしょう。
もうそれだけドラえもんは人間寄りの自意識になっているということなのか。あるいは、操られているだけのロボットはドラえもんのように人工知能で自ら考えて動くロボットとは違うという感覚なのか。第7作『のび太と鉄人兵団』や第14作『のび太とブリキの迷宮』のように、明らかに悪意を持った敵のロボットならまだしも、このプテラノドンは遊園地のアトラクションのロボットであって、けっして悪い奴ではありません。
前述したように、今回はドラえもんが子供たちの一員という立ち位置なので、そのために出てきたセリフなのかもしれませんね。
五人のキャラクター以外の見どころとしては、長い歳月を数える時に「おじいちゃんの、おじいちゃんの、おじいちゃんの…」と言うお馴染みのギャグも久しぶりに登場。第1作『のび太の恐竜』、第10作『のび太の日本誕生』ときて本作。開幕作、記念作、最終作と思うと、なんだか感慨深いシーンですね。
最後にもう一度、音楽について。前述のようにBGMにクラシック音楽が用いられているのも大きな特徴ですが、本作は「のんびりのび太」のメロディが何度も何度も流れるのも印象的です。特に西部の星での西部劇アレンジが新鮮!
また中生代の星でプテラノドンに乗る場面では懐かしいBGMが。これは第13作『のび太と雲の王国』で、王国を建設する時に流れていた曲。さり気ないチョイスが嬉しいです。
そういえば本作の予告編でも『のび太と雲の王国』の主題歌のメロディが使われていました。何か意識されていたのでしょうか。
ヤドリを倒した場面では第4作『のび太の海底鬼岩城』で敵を蹴散らす場面、あるいは前作『のび太の創世日記』で白神様と戦う場面で用いられていたあの曲がまた少し違うアレンジで流れるのが嬉しい。
温故知新、ドラえもん映画の音楽も歴史を積み重ねてきたのですね。
では今回はこのくらいで。次回はいよいよ研究ファイナル、映画第18作、1997年公開の『のび太のねじ巻き都市冒険記』を研究します。
■好きなセリフ
「切符? なくても大丈夫、夢見る心があれば」
ドラえもん
予告編の最期で映画を観る子供たちに笑顔で告げた言葉
令和8年8月27日 福場将太