奇妙な助っ人

 今回の研究コラムのタイトルは、僕が大好きなミステリードラマ『刑事コロンボ』の一作からの拝借である。コロンボ警部が犯人を逮捕するために意外な人物が手を貸すというストーリー。特に傑作エピソードにランクインするような作品ではなく、僕もテレビで一度見たくらいの記憶しかないのだが、最近ふとこのタイトルを思い出した。というのも、僕の生活でもそんな奇妙な助っ人が時々登場するからだ。
 持病の網膜色素変性症と人生を歩んでもう随分経つ。自分でできることはなるべく自分で頑張ろうと思ってはいるが、自力ではどうしようもない場面もあり、友人だったり、家族だったり、同僚だったり、支援者だったり、色々な人に助けてもらって暮らしている。
 そして時には、それらに属さない意外な人から助けてもらうこともあるのだ。今回はそんな研究を。

1.暗い道で

 視力低下が急速に進行していた20代後半、残った視力を駆使してまだかろうじて一人で空の旅をしていた頃のこと。
 到着が遅延して、降り立った羽田空港はすでに夜。乗客たちは苛立たしげに、あるいは気ぜわしげに、どんどん速足で到着ロビーへと向かっていく。自分の夜盲症状が思ったよりも進行していたことにそこで気付いた僕は、おっかなびっくり、時々人や壁に接触しながら暗い通路を進んでいた。

 すると、突然肘を掴んでくれたおじさんが一人。出張だろうか、ビジネスマン風の姿で、自身も忙しそうだったのに、歩調を緩めて「いいからいいから」と有無を言わさず明るい場所まで一緒に歩いてくださった。ありがとうございますと伝えても、無言で頷くのみ。
 本来は助けが必要かどうかを相手に確認してから関わるのがセオリーと思うが、当時の僕のようにまだ当事者意識が乏しく、援助依頼が不得手な者にとっては、ちょっと強引だけど率先して寄り添ってくれる、そんな力加減がとても有難かった。

2.通じぬチェックイン

 視力を失った後、その場その場でそこにいるスタッフさんに助けを求めながら出張をしていた時のこと。
 あるビジネスホテルに宿泊する際、目が見えている頃から利用しているホテルだったので、構造は把握できているぞと高をくくってフロントまで行った。どうやらスタッフさんが外国の方のようで、その人しかいない時間帯らしい。簡単な会話は成立したのだが、目が不自由で所定の欄に名前や住所を記入するのが難しいということがどうしても伝わらない。お互い困ってしまった。

 すると、「代わりに書きましょうか」と隣から流暢な日本語。どうやら同じくチェックインの手続きをしていたお客さんらしく、感じからすると僕より少し若い男性。よろしくお願いしますと伝えると、その人はペンを取って僕の言うままにスラスラ記載してくれた。
 目が見えないとそこにどんな人がいるのかを把握するのも難しい。気配を感じたとしても、援助を依頼したらもっと日本語が通じない遠い異国の人ということもありうる。だからこうやって相手から声を掛けてもらえるのは本当に有難いのである。

3.さらば電池

 駅でも店でもホテルでも、色々な場面でセルフでの手続きが普及した昨今。それに伴い援助を依頼できるスタッフさんの数も減ってしまった。例えば空港でも、以前はすぐにロビーで地上係員さんの声をを見つけることができたのだが、今はカウンターでさえ無人のことが少なくない。
 つい先日、無事にスタッフさんに誘導してもらって搭乗口のシートに腰掛けていた時のこと。出発が遅延していたので音楽でも聴こうかとミニプレイヤーを取り出す。再生ボタンを押すもピピピと鳴るのみで曲が流れない。これはバッテリーが切れてしまった時のサイン、そのため電池交換をしようとしたのだが、新しい電池がポロリと手から床へと落下。
 小銭でも電池でも飴玉でも、目が見えない状態で転がる物を床に落とすということは、そのまま永遠の別れを意味することも少なくない。座ったまま手が届く範囲で床を探ってみるがもう影も形もない。しょうがないので僕はそのまま時間を過ごした。

 すると、「電池ですよね」と近付いてくる一つの声。少し離れていた席に座っていた人が、立ち上がって電池を拾って僕に渡してくださった。そしてその人は自身の用事のためにどこかへそのまま去っていった。
 きっと僕が電池を落とした時点でそれをもくげきしてくれていたのだろう。ただ僕が床を探る姿を見て、すぐには声を掛けず、僕があきらめた様子なのを確認した上で、なおかつ自分が立ち上がる用事があった時についでに拾ってくださったという力加減が素晴らしい。電池を拾うためだけに動かせてしまったと思うとこちらも恐縮するが、もののついでという雰囲気を出してくださるとこちらも程よい感謝でやりとりを終えることができる。しかも立ち去り際というタイミングも素敵。どんな人かもわからなかったが、本当に有難かった。

4.研究結果

 知り合いでも専門職でもないのに、突然現れて助けてくれる人がいる。
 心から、ありがとうございます。
 自分も誰かにとってそんな奇妙な助っ人になれる日を信じて。

令和8年7月28日  福場将太