2026年2月22日(日)、社会福祉法人広島いのちの電話主催の講演会に登壇した。会場は医師会館。昨年10月の『第20回ロービジョンの集い』に続き、故郷の広島で講演をするのはこれで2回目。今回も忘れ難い日になったのでここにその思い出を。
■演題
命を支える心のエネルギー源 笑顔の気持ちはどこから来るのか
■セットリスト
第1章 健康な心とうつの心
第2章 死にたい気持ちと自殺の危険
第3章 心を追い詰める感情と笑顔の気持ち
第4章 まとめ ~心のエネルギーチャージ~
1.導かれて
時々ふと思う、人生を形作るのは偶然とも呼べるご縁の連鎖なのだと。今回の企画も、そんな不思議なご縁の積み重ねで実現した。
大前提は、僕がアカシアこと広島大学附属中・高等学校の同窓生であるということ。卒業後は東京や北海道で暮らしてきたため、しばらく母校とは疎遠になっていたのだが、2025年4月にアカシアの120周年記念式典が広島で開催され、そこに出席したことで懐かしい同級生や恩師と旧交をあたためることができた。特に一人の友人は2024年10月に刊行された僕の著書『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』も読んでくれており、2025年10月の『第20回ロービジョンの集い』にも来てくれた。
彼から今回の依頼をもらったのはその直後。なんと僕の著書をたまたま自宅のテーブルの上に置いていたらそれを彼のお父さんが目にし、興味を持ってくださったとのこと。そして、このお父さんこそがアカシアの大先輩であり、広島いのちの電話に関わっておられる方だったのである。
さらに今回の講演では、とある女性が司会を務めてくれたのだが、彼女もアカシアの同級生。こちらも120周年記念式典でたまたま再会していたのが布石となり、快く引き受けてもらえた。
思えば人生に流浪していた頃、100周年記念式典に参加して自分はまた歩き出すきっかけを得た。今回も120周年に参加していなければこの企画はなかったと思うと、アカシアの神様のお導きに感謝をせずにはいられない。
→コラム 「歌え! アカシア120周年記念式典」
https://micro-world-presents.net/2025/04/28/acacia120/
2.微笑まれて
最も心配していたのは天候。この季節の北海道は雪の影響で交通機関が麻痺することは珍しくなく、実際に先月は車もJRも飛行機も身動きがとれなくなって7千人が新千歳空港で一夜を明かしたというニュースが話題をさらった。
そんなわけでドキドキしながら2月21日の朝を迎えたのだが、アカシアの神様が微笑んでくれて見事な快晴。午前中の仕事の後でも余裕をもって新千歳空港に到着することができた。
その夜は呉市の実家で一泊。久しぶりにお袋の味の肉じゃがを食べたが、もともと肉じゃがは海軍料理、いずれも軍港である呉と舞鶴が「発祥の地は自分の方だ」と張り合っているらしい。
そして2月22日の当日。JR呉線で広島市へ。改めて感じることだが、広島駅やその周辺は僕がアカシアに通学していた頃とは全く異なる姿をしている。
かつて駅前で長蛇の列に並んだ路面電車は、屋外へ出なくても駅の2階で乗降が可能となり、ミナモワと呼ばれる食堂街には外国からの観光客も多く、各店舗のスタッフも流暢な英語で対応している。今回伺った医師会館も駅の新幹線口と同時に改装されたそうで、とても綺麗だった。
午前10時、控え室でぼんやりしていると今回の依頼をしてくれた同級生の彼、そして司会を快諾してくれた同じく同級生の彼女が登場。打ち合わせが終わると、あとは広島では定番の『武蔵』のお弁当を食べながら雑談に花を咲かせた。
また医師会のイメージキャラクターらしい『もみじ医』の巨大なぬいぐるみが会館の玄関にあったので、その前で三人で記念写真。笑ってハイ、チーズ!
→イメージ楽曲 『チーズ』
https://micro-world-presents.net/cat_musics/29/
3.支えられて
午後1時半、公開講演会が開幕。広島いのちの電話の理事長さんの挨拶、動画での説明に続いて僕が登壇した。
今回のテーマの一つは自殺予防というセンシティブなもの。前半の第2章までは本業の精神科医として、医学知識や統計に裏打ちされた話をした。そして後半の第3章以降は視覚障害の当事者として、自身の経験に基づく話も盛り込んだ。
一般的に、視力を失うというのは絶望と呼べる体験だ。僕の場合は突然失ったわけではなく、告知を受けてから少しずつ少しずつ見えなくなったので穏やかな絶望ではあったのだが、それでも不安感や喪失感、それ以外にも様々な陰性感情・不快感情が生じた。それらが心を追い詰め、今回の講演でお話したようなうつ状態や自殺に至るリスクは当然あった。
しかし僕は今こうして笑顔で生きていられている。笑顔が陰ったことが全くなかったかというとさすがにそんなことはないが、それでも概ねのん気に元気に暮らしてきた。以前に取材を受けた際にも、失明の悲しみに打ちのめされたような体験談を求められたことがあるが、そんなエピソードは持ち合わせていなかった。
どうしてだろう。悲しみや苦しみがなかったわけではない。ただ、これまでの人生で手にしていたものや、新たに出会ったものが、その都度その都度心を支えてくれたり扉を開いてくれたりして、そのおかげで打ちのめされずに歩いてこられたというのが正直な実感である。
今回は改めて自分の心を振り返り、支えてくれたものや扉を開いてくれたものを整理する機会となった。講演でもその中のいくつかを紹介したが、もちろんそれが万人にとっての答えではない。
人の心は十人十色、きっと心のエネルギー源も十人十色。それぞれのエネルギーチャージについて考えるきっかけになってくれたら嬉しい。
4.尋ねられて
講演の後に大抵セットで行なわれるのは質疑応答。会場のみなさんと直接言葉を交わせるのは嬉しい。その一方で、なかなか満足な回答ができないのが悩み。
一般的な知識をお伝えするだけならまだしも、個別の事例についての解決策をわずか数分で示すのは本当に難しい。普段の診療だって、初診では三十分以上話しを聞いて情報を整理し、その後も診察を重ねながら一緒に解決策を見い出していく。クイズのように一問一答とはいかない。
それでもたくさんの人がいる会場で手を挙げて質問してくださった方の勇気には少しでも応えたい。ヒントのヒントのそのまたヒントくらいでもお返しできていれば幸甚だ。
ちなみに質問ではなかったが、当サイトの図書室に掲載している『Medical Wars』という小説のファンだという方がおられた。自分の書いたささやかな物語を楽しんでくれている人がいる…こんなに嬉しいことはない。教えてくださって心より感謝申し上げます。
→連載小説 『Medical Wars』
https://micro-world-presents.net/cat_novels/medical-wars-spring-formation/
5.恵まれて
そんなこんなで午後4時に無事閉幕。今回の企画、どれくらいの方が足を運んでくださるのかいささか不安であったが、蓋を開けてみれば会場は超満員、330の座席は全て埋まり、立ち見の方や会場外のモニターで見てくださった方までおられたという。
これは僕がすごいわけではなく、各方面で事前告知に尽力してくれたアカシアの同級生たちのおかげ。会場にはアカシアの同窓生だけでなく、呉市から来てくれた小学校時代の知り合い、東京や北海道で出会った方、そしてもちろん興味を持って県内や県外から足を運んでくださったたくさんの方々がいらっしゃった。本当に、本当にありがとうございました!
そして久しぶりにお目にかかったアカシア時代の恩師からの情報。所属していたマイクロワールド研究班、今回の講演でも少し触れたのだが、なんとまだ存続しているとのことである。
→コラム 「THE HISTORY OF MICRO WORLD」
https://micro-world-presents.net/2020/05/03/historyofmicroworld/
その後はアカシア同級生と打ち上げへ。そこには時々会えてる奴もいれば、120周年記念式典で久しぶりに会った奴、それこそ卒業以来の奴までいた。人によっては二十五年以上ぶりだというのに、会えばこうやって当時の授業や部活の話、好きだった歌手やラジオの話、文化祭や体育祭の話、まるで昨日の放課後の続きのように気兼ねなくお喋りができる。
同級生とは本当に不思議。そんなに硬い絆で結ばれている感じでもないのに、ほどけそうでほどけない。そんな僕らの結び目はどんなカラクリになっているのだろう。
ただ間違いないのは、胸に溢れる懐かしさと愛おしさ、そこに僕の命を支える心のエネルギー源の一つが確実に存在しているということだ。
→イメージ楽曲 『エネルギーチャージ』
https://micro-world-presents.net/cat_musics/25/
6.研究結果
ほどけそうでほどけない、心の結び目。そんなほのかなつながりで、命は支え合っている。
令和8年2月25日 福場将太