マイクロバスターズの冒険 串亀の饗宴

 先日驚きの事実を知った。『ハイスクール! 奇面組』のアニメが令和の時代にリメイクされたというのだ。奇面組は80年代に人気を博した学園ギャグ漫画で、現役で週刊少年ジャンプの連載を追っている世代は自分よりも少し上、なので僕は90年代半ばになってアニメの再放送やコミックスでその存在を知ることとなった。
 その魅力は四十年越しにアニメが復活することからもおわかりだと思うのでここでは言及しないが、初めて読んだ時に感じたのは、主人公の一堂零をリーダーとする奇面組に対する強いシンパシーだった。
 自分もアカシアこと広島大学附属中学校の1年生だった頃、クラスメイトの男子数名を中心に『マイクロバスターズ』という珍奇なグループを結成したからだ。
 部活や委員会のような公式のチームではなく、何ら褒められた活動をするわけでもないのだが、休み時間や放課後は大抵一緒にいておかしなことをする連中。その仲間意識はクラス替えがあっても存続し、アカシア時代の思い出にはマイクロバスターズの存在が燦然と輝いている。
 以前にマイクロバスターズが広島県の珍獣・ヒバゴンを探しに行った話を書いたが、今回もまたしょうもない冒険譚を一つ。

マイクロバスターズの冒険 串亀の饗宴
MICRO BUSTERS and the SPICY CURRY

1.前日譚

 「半ドン」という言葉をご存じだろうか。今や学校は週休二日が当たり前だが、僕らが中学生の頃は土曜日も午前中だけ授業があり、それを半ドンと呼んだ。僕は呉市からJRと路面電車を乗り継いで広島市内のアカシアまで通学していたため、片道でも所要時間は一時間半ほどかかった。お昼に授業が終わってそこから帰宅していては、成長期の胃袋には空腹が耐えられない。

 そこで、一緒にJR通学していたマイクロバスターズの憲司くんと昼食を摂って帰るのが習慣となり、広島駅ビルのお店によく足を運んだ。二人して特に気に入ったのが『串亀』というカレー屋。
 つぼ焼きカレーを売りにしており、平皿でサフランライス、子鍋でグツグツ煮えたぎるルーが提供される。かなり粘度の高いルーであり、放置すればそのまま固形化してしまいそうな代物だが、とってもおいしい。カウンター席でこのカレーを食べるのが半ドンの楽しみとなり、いつしかママさんに顔を憶えられるほどの常連になっていった。

 そのカレーの魅力はおいしさだけでなくからさ。ABCの3段階あり、Aがノーマル、Bが辛口、Cが信じられないからさと表記されていた。正直Bカレーでも十分にからく、水を何杯も飲みながらでなければ食べ切るのは大変。
 それでも好奇心旺盛な中学生は挑戦してみたくなるもので、最初にCカレーを注文したのは憲司くん。無事にたいらげた彼は、帰りの駅のホームのベンチでしばらく寝込む事態になってしまった。次回は僕も挑戦したが、なんだか食後のおしっこが焼けるように熱くなったのを憶えている。

2.冒険譚

 そんな話しを学校ですると、マイクロバスターズのメンバーたちが面白がり、誰が水なしでCカレーを食べ切るかという大会をやろうという話になった。
 そして大会当日、マイクロバスターズだけでなく話しを聞きつけた同級生たちも加わっていざ入店。座席をほぼ埋め尽くす事態となり、審判役以外はみんなCカレーを注文。お店のママさんは本当によいのかを何度も確認していた。

 間もなくご所望の品が並んでいよいよ開幕。男子も女子も水を飲まずにCカレーに挑んだ。そして、それぞれがそれぞれの形で苦悶を表現した。
 くり返すが、味はとってもとってもおいしいのだ。世間の激辛カレーの中にはからさを優先した挙句においしさを損なってしまっている物もあるが、串亀のカレーはしっかり両立。
 ただとんでもなくからいので、福神漬けやラッキョウが砂糖菓子のように甘く感じてしまうほど。ならばうまくそれらを食べ合わせればよいと思われるかもしれないが、一度甘さに触れてしまうと、次のカレーの一口がさらにからさを増すのである。

 脱落者も多く出たが、最終的には数名が食べ切り、笑顔でカメラにピースサインを向けた。もちろん僕も完職。ただこれは実力というより経験の差によるもので、事前にこの店のカレーに親しんでいたため、福神漬けやラッキョウを使うのは逆に危険であること、トッピングをツナやミートボールにすることでからさがマイルドになることを知っていたのである。
 最後に店の前で全員で集合写真を撮影して愚かな大会は閉幕となった。

 今から思えば、お店にはかなり迷惑をかけた。加減を知らない中学生がたくさんやってきて、絶叫を上げたり写真を撮ったりしながら店で大騒ぎ。営業妨害にもなりかねないが、優しく楽しく対応してくれたママさん。心から感謝である。

3.後日談

 その後の高校時代も僕たちは串亀に通い続けた。実はこの店、キートンというカレーチェーンの一つであることが判明。串亀は夜には串焼きも提供する居酒屋になる店だったが、むしろこれはキートンチェーンでは珍しい存在で、通常は純粋なカレー屋が多く、広島市内や呉市内にも出店されていた。
 だから呉の店でも同じつぼ焼きカレーは味わえたのだが…、やっぱり僕たちにとっての本家は広島駅ビルの串亀。やがて土曜日の半ドンが少なくなっても、なんやかんやで食べ続けた。
 するとどうだろう。人間の順応力は凄まじく、鍛えられたのか麻痺したのか、いつしか全く苦悶することなくCカレーをペロリと食べられるようになっていた。

 そんな串亀は今はもうない。僕たちが高校3年生時の駅ビル改装で姿を消した。新しい食堂街にあの看板がなくなっていた時、人生の一つの時代が終わってしまったような気がした。
 心残りは値段が高くて結局一度も注文できなかった伊勢海老カレー。キートンチェーンの他の店に行っても同じメニューはなく、その味は永遠にわからなくなってしまった。
 もし今あの店があったなら、間違いなくまた仲間で押しかけるだろう。大人になった証として、今度は昼ではなく夜に行って、串焼きとビール、そして憧れの伊勢海老カレーをママさんに注文するに違いない。

 昨年末、憲司くんと駅ビルで食事をした。当時とは全く別物の食堂街になっていて、観光客もごった返していたが、ふとカレーの香りがするとつい確かめてしまう。そして期待してしまう。
 あの愛しい店の存在を。

4.研究結果

 青春の味は串亀のCカレー。
 キートンチェーンよ、永遠に!

令和8年2月12日  福場将太