踊れ! 第12回徳島ロービジョンネットワーク講演会

 2026年1月11日(日)、徳島ロービジョンネットワーク主催の講演会に登壇した。寒波が日本列島を襲い、北海道には暴風雪の予報も出ていたので無事に行って帰ってこられるかが不安だったが、順調に飛行機も飛んでくれてとても良い旅になったので、ここにその思い出を。

■演題

 視覚障害からの3つの回復 視力、生活、そして気持ちを高めるためには

■セットリスト

 第1章 視覚障害との歩み
 第2章 視覚障害からの3つの回復
 第3章 回復のための心得
 第4章 みんなが暮らしやすい社会とは
 第5章 まとめ

1.瀬戸内の街

 僕は広島の出身なので、四国は瀬戸内海を挟んでお向かいさん…とはいえ、そんなに頻繁に訪れた記憶はない。何度か瀬戸大橋を渡ったことはあるが、それも子供の頃の話で、徳島に降り立つのはおそらく人生で初めてのこと。

 1月10日、新千歳から羽田まで約1時間半、そして羽田から徳島阿波おどり空港まで約1時間のフライト。到着地の空港名を聞いて、そうだ徳島は阿波踊りの街だったと思い出す。
 ふと見れば郵便ポストの上にも阿波踊りをする男女の像が設置されているし、『阿波おどり会館』という専門の施設もあり、地鶏の名前も『阿波尾鳥』、徳島の大学の研究チームが合成した化合物を『シクロアワオドリン』と命名したなんて話もどこかで聞いた。

 そんなことを思いながら、映画の舞台にもなった眉山を横目にタクシーでJR徳島駅近くのホテルへ到着。寒波で気温は低かったが、駅前には背の高いヤシの木も並んでおり、確かに南へ来たことを実感したのである。

2.寛ぎの時

 ホテルの部屋に荷物を置いたら、懇親会会場のお店へ。そこには今回の主催である徳島ロービジョンネットワークのみなさんが集まってくれていた。
 徳島ロービジョンネットワークは、徳島で視覚障害支援に関わる支援者のチーム。眼科医だけでなく、視能訓練士、歩行訓練士、視覚支援学校の教諭、視覚障害者福祉センターの相談員といった方々が参加している。以前に山梨のロービジョンネットワーク主催の講演会に出させてもらった際にも書いたが、視覚障害に対して求められるのは総合的な支援であり、医療だけが頑張っても不十分。福祉や教育や行政も携わってこそ回復は実現する。
 徳島ロービジョンネットワークも、世代を越え、職場を越え、とても良い距離感で他職種の支援者が連携しておられるのが印象的だった。率直に言って、みなさんとっても仲良し。記念撮影をする際に、右手で『L』、左手で『V』を作るポーズもチャーミング!

 お話をする中で、徳島の方言も色々教えていただいた。眼科の病院の診察で患者さんが「目がくわる」と訴えることがあるという。「くわる」とは重苦しく痛むのような意味とのこと。また「せこい」という方言もあり、お金にがめついということではなく、体がだるい・苦しいの意味らしい。北海道弁の「こわい」のようなものか。
 また阿波時間という概念もあり、徳島では時間が穏やかにゆっくり流れているそうだ。おいしい食事を囲んで会話を楽しむ、この寛ぎのひと時こそまさに阿波時間だったのだろう。

 実は今回の講演、所属している『公益社団法人 NEXT VISION』を通してのオファーだった。徳島ロービジョンネットワークのメンバーの中に、2024年9月に僕が第32回視覚障害リハビリテーション研究発表大会の余暇活動分科会の中で行なったレクリエーションに参加した方がおり、そこで興味を持ってNEXT VISIONまでお問い合わせくださったとのこと。
 いつも感じることだが、持病の網膜色素変性症というやつは、本当にたくさんの出会いをもたらしてくれる。こうやって、いくつものつながりを結んでくれるのである。

→第32回 視覚障害リハビリテーション研究発表大会in東京
 https://micro-world-presents.net/2024/10/15/shiriha32/

3.学びの日

 1月11日、講演会会場である徳島大学蔵本キャンパス大塚講堂へ到着。
 準備をしていると、所属している『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』のメンバーの一人が声を掛けてくださった。徳島在住のため、足を運んでくださったとのこと。全国に仲間がいて、こうやって直接会えるのはやはり現地へ赴く醍醐味だ。

 今回の講演会はダブルキャスト。僕の前に一つ、別の先生がお話しをされた。障害に関する制度を当事者抜きで決められてしまう現状、勘違いされやすい合理的配慮の意味など、自分にとっても興味のあるテーマで勉強になった。
 その後に僕が登壇。内容は、2025年10月に広島県眼科医会主催の『第20回ロービジョンの集い』というイベントで行なったもののリバイバル。同じ内容でも、話す場所や聴いて下さる方が変われば違う響きを帯びるのが興味深いところで、終わった後の質疑応答ではこれまであまり意識していなかった点に対する指摘もあり、有難い刺激になった。

 精神科業界における依存症ケアと同じく、眼科業界におけるロービジョンケアはまだまだ携わる支援者が限られていると聞く。それでもこうやって、医療と福祉を連携させる考え方を持って視覚障害支援に携わっている仲間がいることを感じられるのは本当に嬉しい。微力ながら、少しでも貢献していきたいと思う。
 そして参加者の中には、著書の『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』を読んでくださっている方もたくさんいた。重ねて感謝である。

4.踊りの音

 講演を終えたら観光モード。ロービジョンネットワークの会長さんに案内してもらって、いざ阿波おどり会館へ。
 中へ入ると静かな雰囲気。その楽しそうなネーミングから、アミューズメントパークのようにスタッフさんも祭りの格好でハイテンションでそこにいらっしゃるような空間を想像したが、全くそんなことはなかった。流れていたのは、図書館やクラシックコンサートのホールのような荘厳な空気。受付のスタッフさんも落ち着いた服装で丁寧な対応。その場でふざけて踊っている人など誰もいない。

 そう、阿波踊りは江戸時代から四百年以上も続けられてきた伝統芸能。この会館はそれを学ぶための極めて文化的・学術的な場所なのだ。
 3階のミュージアムには、歴史的な写真や古い楽器が展示され、VRで阿波踊りを体感できるゴーグルや、音に合わせて踊を練習できるマシンなどがあった。

 そして2階へ降りるとまさにコンサートホール。音の響く広い空間に舞台と客席があり、開演前の落ち着いたアナウンスが流れていた。
 やがて大きく太鼓が鳴って幕が上がる。舞台では阿波踊りが披露され、やがてお客さんのレッスンタイム、最後には客席からの飛び入りも歓迎されての盛り上がりとなった。
 残念ながら踊っている人たちの姿を見ることのできない自分だが、その場でレッスンに従ってやってみると、ずっと中腰で同時に両腕を挙げている体制はかなりきつい。ここに踊を加えて、しかもみんなで一糸乱れぬ動きをするのだから、その鍛錬は並大抵ではない。

 音楽好きとしては、三味線・笛・鐘・太鼓で奏でられるぞめき囃子と呼ばれる演奏に感銘を受けた。映画『BACK TO THE FUTURE』のパート3で、主人公のマーティが百年前の音楽に触れて「これだけビートがあればダンスもできる」と言う場面があるが、まさしく、現代音楽に劣らない、むしろコンピュータではなく人間が魂で奏でているからこそのビートとグルーブが阿波踊りにはあった。
 徳島の人はぞめき囃子が聞こえてくると思わず体が動くらしいが、おおいに納得である。

5.知恵の食

 では最期にアマチュアグルメレポートを。
 前日の懇親会では、地鶏の阿波尾鳥に加え、スダチを搾って食べるお刺身、そして鯛めしをいただいた。
 スダチは言わずと知れた徳島の特産品、その柑橘の風味は多くの料理に清涼感と清潔感、そしてほのかな安ど感を与えてくれる。鳴門の渦潮でもまれた鯛は、身が鍛えられおいしくなるのだという。

 講演当日の夜は、そばごめ汁というお吸い物、大きな椎茸の天ぷら、半田うどん、幻の果実と呼ばれるユコウのドリンクなどを味わった。
 徳島はあまり稲が獲れない地域で、その代わりに蕎麦の実を使って作った雑炊がそばごめ汁。そしてユコウは香る柚と書き、皮が薄くて傷付きやすく運搬に適さないが、そのため徳島で100%の生産率を誇っているという。

 帰る日の朝の朝食では、ビュッフェに鳴門金時を使ったフレンチトーストが登場。
 稲が獲れない地域では逆にサツマイモが獲れる、中でも徳島の物はとても甘く鳴門金時と呼ばれ、お土産のお菓子としても有名。

 このように、知恵を活かした海の幸と山の幸が豊富なのが徳島の魅力。一見不利な条件も発想で有利に変える、苦難の時代でも踊りを忘れなかった人たちの底力がそんな所にも表れているのかもしれない。

 すっかり徳島を満喫して、僕はあたたかいこの地を去ったのである。次回はぜひ、ごはんをお供に食べるという徳島ラーメンと、輪切りのスダチがふんだんに乗っているというスダチうどんを味わいたい。
 みなさん、幸せな時間を本当にありがとうございました!

6.研究結果

 体は踊れなくても、心を躍らせることはできる。
 踊る阿呆に見る阿呆、見えない阿呆も一緒に生きる。
 同じ命なら生きなきゃソンソン!

令和8年1月14日  福場将太