昨年は公私共に飛行機に乗る機会が多かった。視力を失って早十数年、以前は戸惑うことの多かった空の旅も今ではすっかりお手の物…と言いたいところだが、慣れてきたとはいえまだまだ修行中。
そんなわけで今回は、昨年遭遇したトラブルと共に視覚障害と空の旅についての研究を。
1.チケットの購入
飛行機に乗るにはまずはチケットを入手せねばならない。以前は航空会社に電話を掛けて、専門のオペレーターさんに利用日時と区間を伝えれば手頃な便を提案してもらえ、その場でクレジットカードの番号をプッシュして購入と支払いを済ませることができた。さらに便名と予約番号・航空券番号を読み上げてもらい、こちらはその情報をパソコンでメモに入力、当日それをプリントアウトした紙を航空会社のカウンターへ持参すればそこで発券してもらってチケットゲット…という流れだった。
つまり電話だけで事足りていたわけだが、近年はこの手法が困難になりつつある。
一つの理由は、カード番号をプッシュする支払いに対応してくれなくなってきたこと。おそらくセキュリティを考えての事情であろうが、そうなると自宅に郵送される振込用紙を持って短い期限内に金融機関へ支払いに行かねばならず、目が不自由で一人暮らし、なおかつ日中仕事をしている者にとっては、物理的にも時間的にもなかなか大変である。
もう一つの理由は、そもそもオペレーターさんへの電話がなかなかつながらないことだ。以前にも数分から十数分待つことはあったが、今は一時間以上つながらないこともざら。そのため、仕事の休憩時間や退勤後の時間に電話を掛ける、ということができない。
104の電話番号案内が終了するのと同じく、インターネットが普及した現代では、電話よりもそちらでチケットを取ってほしいというのが時代の流れなのだろう。
しかし、いくら音声読み上げ機能を搭載したパソコンやスマートフォンを持っていたとしても、画面が見えない状態で航空会社のサイトにアクセスして希望のチケットを取る作業はかなり難儀。例えば図や表で示された空席情報。音声読み上げは図表に対しては脆弱なのだ。
そんなわけで最近は家族に頼んでインターネットでチケットを取ってもらうようにしている。目が見えていてパソコンやスマートフォンを扱える者ならば、空席情報も一目瞭然、ものの数分の作業でチケットを取得できてしまう。目の不自由な者にとって、晴眼者はまるで超能力者である。
2.空港までの移動
空港への移動は、以前は友人の車に乗せてもらうことが多かった。しかし頼り過ぎもよくないので自分でも練習、タクシーやJRを組み合わせて少しずつ自力で行なうようになっている。
いつも利用するタクシー会社さんを決めて常連になり、視覚障害の事情も伝えておけば、運転手さんが乗降時にある程度のサポートをしてくれる。事前に予約しておけば、飛行機に乗る当日にタクシーを拾えなくて戸惑うこともない。
JRについても、事前に専門窓口に電話してお願いしておけば、乗る駅では改札口から電車まで、降りる駅では電車から改札口まで、あるいはタクシー乗り場まで、駅員さんが誘導してくれる。誠に有り難い。
ただ駅の規模によっては駅員さんの数が限られていて、特に早朝や夜間は少ないため、なるべく人手の多い時間帯にお願いするのが得策である。
3.空港内の移動
実は友人の車に乗せてもらっていたのは、空港の中での移動も手伝ってもらえるからというのが大きい。タクシーやJRで空港まで行けたとしても、白杖ビギナーの僕は自力でそこから航空会社のカウンターまでたどり着くのは難儀。
しかしここでも有り難いサポートがある。あらかじめ利用する空港の窓口に電話して予約しておけば、スタッフさんに誘導をお願いすることができるのだ。例えば11時頃タクシーで8番乗降口に着くと伝えておけば、そこに空港のスタッフさんが来てくれて、航空会社のカウンターまで誘導してくれる。
ただし対応してもらえる時刻にはルールがあり、例えば新千歳空港なら10時から18時が基本。必然的にその時間帯のフライトを選ぶ必要も出てくる。またお忙しい中でやっていただくため、トイレはまだしも、さすがに途中でお土産屋さんに立ち寄ってくださいとはなかなか言いにくい。いや、言ってもよいのだと思うし、自ら提案してくれるスタッフさんもいるのだが、なかなかどうして遠慮してしまうものである。
4.機内への移動
僕のように目の不自由な人だけでなく、車椅子利用者やベビーカーを用いる赤ちゃんとその親御さんなどは、航空会社のカウンターでお願いすれば、搭乗に際してサポートを受けることができる。新千歳や羽田のように、利用客が多い空港の場合は、航空会社がスペシャルアシストの専用カウンターを構えてくれているので非常にお願いしやすい。
僕の場合は、そのカウンターから搭乗ゲートまでの誘導、さらに搭乗ゲ
ートから機内座席までの誘導、到着地での機内座席から到着ロビーまで、出迎えのいない場合はタクシー乗り場までの誘導をお願いする。出発地のカウンターでお願いするだけでしっかり各所へ申し送りがされるのは本当に有り難く、素晴らしいの一言である。
5.機内にて
搭乗する際は優先搭乗という形で、一般のお客さんよりも先に機内へ誘導してもらえる。そして座席に着席してしまえば、飛行中は基本的にCAさんのお世話になることはない。点字版の安全のしおりを渡してくださる場合もあるが、僕のように点字が読めない視覚障害者もいるのはご愛嬌。
そんなわけで機内においてはどうサポートしてもらうかというより、自分がどう座席を取るかというポジショニングが重要となる。
望ましいのは窓際席。例えばA席だとすると、優先搭乗で誘導してもらう際にはまだ隣のB席にもC席にもお客さんはいないので、立ってもらう負担をかけずに座れるし、飛行中にB席やC席のお客さんがトイレなどに立っても僕が立ち上がる必要がない。いや、立つこと自体は構わないのだが、目が見えていないとお隣さんが立ち上がったことに気が付けないのでそこで不具合が生じるのだ。
また到着地では誘導してもらう都合で一番最後に降りることになるため、僕がB席やC席に座ってしまうと、特に機内が込んでいて通路で人をやり過ごすスペースがない場合は、僕より窓側の席にいるお客さんたちは僕が動けないせいで最後まで降りられないことにもなってしまう。
そのため、僕は基本的に窓際席のチケットを取ることにしている。窓際席のデメリットといえば、通路から遠いためCAさんのドリンクサービスの動きが把握できず、紙コップを返し損ねるくらいのこと。それは紙コップをしばらく持ち歩けばよいだけの話だし、最近はヘラルボニーのデザインが入った素敵な紙コップまであるので、むしろお土産になる。
では、どうしても窓際席が埋まっていた場合はどうするか。もし通路が2列ある大きな飛行機であれば、中央の3つの座席の一番真ん中を取る。両側をお客さんに挟まれる圧迫感はややあるが、席を立つ際に左側のお客さんは左の通路へ、右側のお客さんは右の通路へ出てくれるので、僕が合わせて立つ必要がないので助かるのである。
ちなみに機内での白状はどうなるのかというと、僕は折り畳み式の物を用いているので、鞄に詰め込んでそのまま前の座席の下に収納することができる。折りたたみ式ではない場合は、寝かせて頭上の棚に入れるか、あるいはCAさんの預かりになることが多いようだ。
もう一つ補足すると、緊急着陸して脱出する際には、全ての手荷物を持ち出せないのがルールであり白杖も例外ではない。これは足が不自由な人の杖も同様。もちろん相応の理由があってのルールだと思うが、脱出後の移動を考えるとやはり慣れた杖は必携。ぜひルール見直しのために、当事者も参加できる話し合いの場を設けてほしいものである。
6.事例検討
では最後に、2025年に遭遇した空の旅のトラブルをご紹介。もしあなたの目が不自由だったら、どのようにして切り抜けるか考えてみてほしい。
事例① JRが停止
状況:
飛行機で新千歳空港に戻って来た時のこと。無事に着陸しお客さんたちがそれぞれの携帯電話の電源をオンにし始めると、後ろの席からこんな声が。「空港からの電車が止まってるみたいだ」。
はっきり聞こえなかったし、特に機内でそんなアナウンスもないので、僕はいつもどおりに一番最後にCAさんの誘導で飛行機を降り、地上係員さんの誘導でタクシー乗り場に向かった。するとそこには長だの列。新千歳空港はJRと直結しているから多くの人が電車に乗って空港を出る。しかし電車が止まってしまったために、みんなタクシー乗り場に来てしまったのだ。
思わず地上係員さんと顔を見合わせる。どう見ても今から並べばタクシーに乗れるまで1時間以上かかる。待つのは構わないのだが、その間ずっと地上係員さんにそばにいてもらうわけにはいかない。とはいえ目が見えない状態で一人で列に並ぶのは何かと不安も大きい。
さて、どう対処する?
対処法:
理想はわかっている。それは並んでいるお客さんにサポートをお願いすることだ。一緒に並ばせてもらって、列が前に移動したら一緒に移動してもらい、タクシーの所まで来たらそれを教えてもらう。これで解決だ。
ただこれをお願いするにはなかなか心理的なハードルが高い。一時的に手を借りるのならまだしも、一時間以上助けてもらうこととなり、しかも突然のJR停止でみんな余裕なくイライラした雰囲気すら感じる中でのことだ。
日本はバリアフリーに関する法律もあって、点字ブロックやスロープの整備など、物理的なバリアは軽減されている一方、「人様に迷惑をかけてはいけない」「忍耐こそ美徳」のような価値観があるため、心理的なバリアは諸外国よりも高いと言われる。困った時に気軽にサポートをお願いしたり、困っていそうな人に気軽に声を掛けたりが苦手で、逆に我侭なサポートを要求してしまったり、逆に力が入り過ぎて余計なサポートをしてしまいがちだ。
もちろん文化のせいにしても始まらないわけで、僕自身がサポートをお願いする『援助依頼』の技術をちゃんと練習して高めていかねばならないという話。ただ現時点の僕には、並んでいるお客さんに声を掛ける勇気も技術も持ち合わされていなかった。
地上係員さんと相談し、例えば自分で迎えを呼んでそれに乗ることは可能かと尋ねるとそれ専用のレーンに案内してくれた。そして普段愛用しているタクシー会社さんに電話して事情を伝えると、時間はかかるが来てくれるとのこと。地上係員さんも安心して立ち去り、僕はそこで迎えのタクシーを待つことにした。
とはいえ屋外にずっといるのは寒いので、体内GPSにしっかり場所を記録して手近なドアから再び建物内に入り、出たり入ったりしながら2時間ほどタクシーの到着を待ったのである。
事例② 飛行機が引き返す?
状況:
神戸空港から新千歳空港へ飛ぶ際のこと。到着地の天候不順で場合によっては飛行機が引き返すかもしれないとのアナウンス。 もし引き返してしまったら…。
さて、どう対処する?
対処法:
結論から言えば、引き返さずに着陸できたので特にトラブルはなかった。ただ本当に引き返していた場合、新たな便のチケットを入手する必要がある。おそらく同日に改めて飛び立つことはないだろうから、ホテルも必要になる。はたして、新しい便のチケット入手やホテルの手配において、航空会社のスタッフさんにどれくらいのサポートをお願いできるものなのだろうか。
実際に、友人が東京への便が欠航になって新千歳空港に取り残された際には、すでにJRも終わっていたため、航空会社が札幌までのバスを出してくれた。たくさんの人がごった返す中で順番を待ち、ようやく何代目かのバスに乗って彼は札幌まで行き、すでに深夜であったが自分でホテルを手配してそこに宿泊。翌朝返金と振り替え便の手配のために改めて新千歳空港を訪れたが長だの列、連休中のため飛行機に空きがなく、その日も帰れなかった彼は僕の所へ遊びに来て、翌日JRで函館まで行ってようやく新幹線で東京へと帰っていった。
ただこれは身軽に動き回れ、またスマートフォンで即座にホテルや新幹線のチケット手配ができる彼だからこその動き。飛行機が欠航して空港がごった返している中に、目の見えない自分が単身で巻き込まれている場面を想像するとぞっとする。
事例③ チケット紛失
状況:
広島の空港で保安検査を済ませて搭乗時刻を待っていた際、スーツの内ポケットに入れていたはずの航空券がなくなっていることに気付いた。
さて、どう対処する?
対処法:
目で見て探すことのできない視覚障害者の武器は論理的思考。内ポケットのチケットが勝手に落ちるとは考えにくい。スーツを着脱した際に落ちたと考えるのが妥当。ではスーツを脱いだのはどこだ?
まずは保安検査所が思い浮かぶ。近年は羽織っている上着を脱いで保安検査を受けるのが通常だ。ただ保安検査所はそれこそスタッフのみなさんが目を光らせている場所であり、そこでチケットを落とせば必ず指摘してくれたはず。
となればもう一つの可能性、そう、多目的トイレだ。保安検査の後、そこで一度上着を脱いだ。急いでそこに戻って床を確認すると無事にチケットを発見。
万が一発見できなかった場合のことを考えると、今後は確かに自分が購入したのだという証拠…例えば保安検査所で受け取る控えなども捨てずに持っておくのが得策だろう。これ以降、内ポケットのボタンを必ず留めるようになったのは言うまでもない。
7.研究結果
視覚障害だけじゃない、誰にでも空の旅の苦労と工夫。
そのデータを集積して、共有して、大空へ飛び立とう。
勇気たくさんを友にして。
令和8年1月7日 福場将太