人生の意味を探る対話Part6 みんなで編集会議

 2025年12月14日(日)、所属している公益社団法人 NEXT VISIONのイベントに登壇した。NEXT VISIONのメンバーに会うのも、ビジョンパークを訪れるのも久しぶりで、濃密な一日を過ごすことができたのでここにその思い出を。

1.希望の懸け橋

 改めて紹介すると、ビジョンパークとは神戸アイセンターという眼科病院の待合フロアにある空間のこと。神戸アイセンターは高度な眼科治療を提供しているが、それでも視力の回復が困難な患者さんも少なくない。もちろん医療は日進月歩だから、今は治せない病気でも十年後・二十年後には治療できる期待はあるが、その間にも患者さんの大切な人生はどんどん過ぎていく。
 そこで立ち寄ってほしいのがビジョンパーク。ここには、仮に目は見えないままだったとしても生活を高め、気持ちを充実させるチャンスがたくさんある。アイセンターでは「病気を治療する」という『医療』を担当し、ビジョンパークでは「生活と気持ちを向上する」という『福祉』を担当、その医療と福祉の架け橋がNEXT VISIONなのだ。

 実は僕の専門とする精神科では、医療と福祉がつながっているのが当たり前の考え方。その理由の一つは歴史的な教訓。日本の精神科は患者さんの病気だけを見て長期的・閉鎖的な入院を強いた結果、生活や幸福を奪ってしまった悲しい歴史がある。だからこそ、ちゃんと福祉も考えることが福祉士だけでなく医師や看護師にとっても当然となっているのだ。
 もう一つの理由は治療の限界。精神疾患というものは完全な治癒が困難なことが少なくなく、病気を治すことだけを目的にしてしまうと、患者さんも家族も支援者も行き詰ってしまう。そこで、「病気の完治は困難でも、適切な工夫と訓練とサポートで生活を高めることはできる」「生活が充実してくれば幸せを感じることだってできる」という考え方が希望になるのである。

 そして今、眼科でもその考えが広まってきているのを肌で感じる。病気を治すことに邁進し、治療可能な病気は概ね治療できるようになった現代だからこそ、治療が困難な眼科疾患を持つ患者さんの生活をどう高めるか、気持ちをどう充実させるか、という視点が当事者にも支援者にも求められるようになったのだ。
 神戸アイセンターの開院が2017年、僕が自らの視覚障害を開示して講演や執筆の活動を始めたのが2018年、そこから大学時代の同期で友人である三宅くんとの縁でNEXT VISIONに関わるようになっていった。人生はまさにタイミングである。

2.大感謝祭

 雪の影響も心配されたが、無事に前夜に北海道から神戸へ移動。翌朝改めて歩いてみると、神戸アイセンターのある辺りは埋め立ての土地、街並みはまるで未来都市のようだった。
 道中の涼やかな噴水の音に心を癒されながら、無事にビジョンパークに到着。休診日なので外来は稼働しておらずいるのはNEXT VISIONの関係者のみ。三宅くんとも再開の記念撮影をして、まずは午前中のプログラム、大感謝祭が開始。

 NEXT VISIONは公益社団法人、活動資金は寄付によって成り立っている。大感謝祭は日頃支援くださっている方々に向けたもので、ライブ配信でお礼の言葉と活動報告。そして、今回は僕の目から見たNEXT VISIONについての話をさせてもらい、上述の医療と福祉の懸け橋の考えを伝えた。その後、メンバーでのフリートークを行ない、それもライブ配信。
 時間どおりに進行する三宅くんの司会もすごいが、優しさとユーモアを絶やさずに思いを語らうメンバーのみなさんもすごい。いや、すごい人たちであることは以前から承知していたのだが、やはり真のすごい人というのは穏やかに語れる人なんだということを実感した。

3.映画上映

 昼食を挟んで午後からは映画観賞コーナー。これは別にイベントの一部ではなく、単純に仲間内でのもの。劇場公開はもう終わっていてこうでもしないと観られないから、と三宅くんが企画したのだ。そんなことがすんなりできる雰囲気もまた素敵だと思う。そして、映画館にも様変わりできてしまうビジョンパークの構造のしなやかさにも感服。

 作品は『アイアム・ア・コメディアン』、一人のお笑い芸人さんを追ったドキュメンタリーで、笑うこと、笑わせること、メッセージをすること、そして大袈裟ではなく生きることについて深く考えさせられた。NEXT VISIONが大切にしている思いにも、通じる部分がいくつもあったと思う。

4.人生の意味を探る対話

 余韻に浸っていたかったがその後はいよいよ本日の目玉、トークイベント『人生の意味を探る対話』が開催。午前中もそうだったが、ほとんど打ち合わせをしないのはNEXT VISIONの流儀なのだろうか。さすが『行き当たりバッチリ』の理念を掲げているだけのことはある。

 この『人生の意味を探る対話』は、株式会社 日立製作所さんと一緒に毎年開催しており、今年で6回目。第1回は医療倫理学者のカール・ベッカーさん、第2回はクラウンドクターのパッチ・アダムスさん、第3回は落語家の桂福展さん、第4回は絵本作家のヨシタケシンスケさん、そして第5回は人類学者の竹倉史人さん、と毎回多彩なゲストスピーカーを招き、生きることについての対話を重ねてきた。必ずしも視覚障害に特化した内容ではなく、病気や苦労を持つ誰にとってもヒントになる色々なエッセンスを含有したトークイベント。
 今回のゲストスピーカーは一応僕…といっても、僕が新たな何かを語るということではない。役目は過去5回の対話をレビューし、メンバーと一緒に振り返ること。僕以外のメンバーは全員過去のシリーズにも出演され実際に対話を重ねてきたみなさん。その積み重ねがあったからこその今回であり、初出演の僕はそこに便乗した感じで実は一番楽していたりする。

 詳しい内容はいずれNEXT VISIONのサイトでも紹介されるだろうからここでは割愛。ただ感じたのは、過去5回のゲストスピーカーの切り口は様々ではあったが、それぞれが説いておられた人生で大切なことはさほど違っていないんじゃないかなということ、重なっている部分、通じている部分がたくさんあるんじゃないかなということだ。

5.幸福な時間

 約2時間のトークイベントも無事に終わり、その後は参加者のみなさんとお食事。たまにしか会えないけれど、だからこそなんだかとても幸福な時間。特に三宅くん、たまたま彼が大学の同期で、たまたま仲が良かったことに端を発し、彼が眼科医兼産業医、僕が精神科医兼視覚障害当事者という形で一緒に仕事をする日が来るなんて。
 人生の意味とは、語り尽くせないほど不思議である。

6.研究結果

 意味があるから頑張れる時もあれば、意味がないから頑張れる時もある。
 信じているから強く鳴れる時もあれば、信じてないから強く鳴れる時もある。
 曖昧でいい、中途半端でいいから、感謝だけは忘れずに生きてみたい。

令和7年12月16日  福場将太