JRPS講演会 未来の扉を開く鍵はどこにある?

 2025年12月6日(土)、JRPSこと日本網膜色素変性症協会のユース部会からご依頼を受けて講演を行なった。ユース部会は20代~30代のメンバーで構成されており、僕はもう入れない若い世代。JRPSで講演をするのは2023年8月、2024年10月に続いて通算3回目。実は2026年2月にはミドル部会の講演が予定されており、今回はユースとミドルで対になる内容を意識した。ここにその思い出を。

■演題

 網膜色素変性症と生きて 未来の扉を開く鍵はどこにある?

■セットリスト

第1章 網膜色素変性症と生きて
第2章 視覚障害者が元気な心でいるために
第3章 目の見えない精神科医として
第4章 まとめ

1.Young man

 当日は午前に外来診療、午後からはデイケアのクリスマス会でギターで合唱、帰宅してからオンラインで講演というスケジュールだった。それぞれ用いるエネルギーも思考回路も異なるので大変ではないのだが、ギアの切り替えにはいささか苦労した。心療は精神科医という支援者として、合唱は音楽好きの表現者として、そして講演は主に視覚障害の当事者として臨んだ。
 講演を聴いてくれるJRPSユース部会のメンバーは年に一度の合宿中とのことで、なんだかみんなでワイワイ楽しそうなのがパソコンの画面越しに伝わってきた。挨拶を交わして、いざ講演。

 …といっても、今回はスライドも手元資料も用いないトークのみ。そのためこちらもリラックスして、その場のアドリブもふんだんに取り入れながら話をした。オンラインでの講演は久しぶりだったが、やはりリアクションを肌で感じられないのは話をしていて少々難しかった。

2.Young love

 今回は若い方々が対象ということで、これからを歩いていく上でヒントになることをできるだけ盛り込みたいと思った。
 自分もそうだったが、網膜色素変性症は徐々に進行する病気、いったいいつまでどんなふうに目が見えているのかわからない中で人生の進路を決めるのはかなり悩ましい。見えている前提で選べばよいのか、見えなくなる前提で選べばよいのか。何かを目指したくても道半ばで視力を失う可能性をを思うと、なかなか踏み出せないのだ。

 ではどうやって未来の扉を開ければいい? 答えはきっとそれぞれだろうと思うが、迷っている人はゆっくりこれまで自分が歩いてきた道を振り返ってみてほしい。まっすぐな王道だけでなく、寄り道や回り道の上もしっかり探してみてほしい。僕の場合は、そこに未来の扉を開く鍵をいくつも見つけることができたから。

3.Forever young

 そして、とりあえずでもなんとなくでも、踏み出してみて見つかる物もたくさんある。今はないアイテム、今はいない仲間、今はない選択肢が、踏み出した先にはあるかもしれないのだ。
 目が見えなくなったら医療の道はそこで途絶えると思って僕は歩き出した。そうなったらそうなったで別の道をその時に探そう、今は立ち止まるよりも行ける所まで行こう、そんな気持ちだった。
 そこから約六年、実際に失明した時、『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』と出会った。目が見えなくても医療の仕事を続けていける勇気と知恵を仲間たちから授けられた。さらにそこからまた六年ほど歩いて、今度は『公益社団法人 NEXT VISION』と出会えた。目を患った人たちの心の回復を応援する、という新たな役割を仲間たちが示してくれた。

 ゆいまーるもNEXT VISIONも、僕が足を踏み出した時点では知る由もなかった存在。まだこの世に誕生すらしていなかった存在。そして、立ち止まったままだったらけっして出会えなかった存在だ。
 かつて想定していた医師の姿とは異なるが、これはこれで悪くない。まさに『行き当たりバッチリ』、おぼつかなくてもどうにか歩みを続けられている。
 きっと視覚障害だけではない。急な病気や事故、あるいは社会情勢の変化によって、想定していた道を進めなくなることは誰にでもありうる。大切なのは、多少目的地を変更してでもまた歩き出すこと。人生の歩き方同様、ハッピーエンドの形も一つではないのだから。

4.研究結果

 病気のおかげで出会えた仲間たちを大切に。
 今まだ見えている景色を大切に。
 そしてせっかくの合宿ではないか、講演のあとは心行くまで楽しんでくれ!
 若き諸君に未来あれ!

令和7年12月7日  福場将太