2025年11月2日（日）、札幌市身体障害者福祉協会主催の研修会に登壇した。会場は札幌市身体障害者福祉センター、対象者は盲聾者、すなわち目と耳が不自由な方の支援を行なっている方々。聴覚障害の支援者の研修でお話するのは、今年７月に北海道の江別市健康福祉部障がい福祉課主催の研修会以来２回目、『支援者が支配者になってはいけない』の演題としては通算４回目となる。
■演題
支援者が支配者になってはいけない そのための心得
■セットリスト
第一章 障害とは、障害者とは
第二章 障害からの３つの回復
第三章 回復へのアプローチ
第四章 支援者の７つの心得
第五章 まとめ
１．新たなシステム
ＪＲで札幌まで出向くに当たっては駅員さんにサポートをお願いするわけだが、その段どりが少々変わった。これまでは乗車する最寄駅に事前に電話を掛けて視覚障害の事情を伝え、改札口から電車の座席までの誘導、到着後の座席から改札口までの誘導をお願いしていた。
ただ最近ＪＲ北海道は各駅単位での電話対応を取りやめたそうで、電話を掛けるとまず流れるのは音声ガイダンス、そしてサポート希望の番号をプッシュすると中央センターの専門部署のような所につながった。事情と要望をお伝えすると乗車駅・降車駅の両方に連絡してくださるとのこと。三十分ほどしてコールバックがあり、無事に調整がついたと知らされた。
実際に当日最寄駅の窓口へ行って名前を伝えると情報共有がされており、スムーズに誘導してもらうことができた。駅に直接お電話できなくなった時には不安にもなったが、新システムを経験すると一安心、これからも電車の旅を楽しめるのは本当に有難い。
２．新たなスピード
札幌駅の改札口にはスタッフの方が迎えに来てくださっており、一緒に会場へ向かった。到着すると簡単な打ち合わせ。今回の研修会は耳の不自由な支援者も参加しており、要約筆記も行なうとのことで、なるべくゆっくり話してほしい、そのために時間はたっぷりとってあるとのリクエストだった。
そんなわけで本番。普段なら60分で十分収まる内容を90分かけ、途中で話を止めて不明瞭な部分がなかったか会場に確認したり、小休止を挟んだりと、これまでに行なった講演の中で最も余裕を持って進行することができた。
メリットは焦らなくてよいこと。時間が押している時などはどうしても早口になり抜けや粗が多くなるが、今回は一言一言丁寧に、頭の中で最適な言い方をその都度考えながら話すことができた。かなり間を置いて話したので、みなさんにも噛みしめながら、吟味しながら聴いていただけたのではないかと思う。
デメリットはどうしても勢いが削がれること。笑いを誘う話題などはテンポの良さやスピード感がないとどうしても盛り上がらない。漫談ではないので笑いがなくても問題はないのだが、ゆったりペースのトークで場を盛り上げるのは難しいものだと学んだ。そして普段面白話をする時にも、きっと聴覚障害の方を置いてけぼりにしてしまっていたんだろうなと反省もした。
３．新たな学び
僕は聴覚障害の専門家ではない。精神障害については支援者として、視覚障害については当事者として多少の見識があるが、耳の不自由な方の支援についてはまだまだ知識も経験も足りない。
ただ『支援者が支配者になってはいけない』というテーマはきっとあらゆる障害の支援に通ずるものだとは思う。
今回特に強調したのが、良かれと思ってやっていることが、時には相手を深く傷つけたり、相手の尊厳を踏みにじったりしてしまう場合があること。熱心で一生懸命な支援者ほど、良かれと思って当事者のプライバシーを侵したり、自分の不安と相手の不安、自分の満足と相手の満足を混同してしまったりするのだ。
支援における距離間と力加減は本当に難しい。当然ながら障害当事者も人間、支援者も人間なので相性の問題は大きいし、ぐいぐい引っ張ってほしい当事者もいれば放っておいてほしい当事者もおり、コミュニケイションが得意な支援者もいれば苦手な支援者もいる。支援という営みにおいて、誰も悪くないのにトラブルやクレームにつながってしまうのはある種避けられない面もある。
例えばグイグイ希望の当事者にはお節介が得意な支援者、あまり踏み込んでほしくない当事者には控え目な支援者というように、事前に情報を入力してマッチングさせるようなシステムもよいかもしれない。
まあそれでも行き違いは生じるだろうが、そこを擦り合わせていくのも双方にとって大切な学び。うまくいかなかった時にこそ成長のチャンスがあることを、当事者も支援者も忘れてはならない。
４．研究結果
本人が大丈夫と言うのなら、支援者は笑顔で立ち去ろう。
的外れな支援だったとしても、当事者は笑顔で感謝を伝えよう。
令和7年11月3日 福場将太