広島県眼科医会主催 第20回ロービジョンの集い

 2025年10月5日(日)、広島県眼科医会主催の『第20回 ロービジョンの集い』で講演を行なった。会場は広島国際会議場。大袈裟ではなく、人生において忘れ難い日になったのでここにその思い出を。

■演題

 視覚障害からの3つの回復 視力、生活、そして気持ちを高めるためには

■セットリスト

 第1章 視覚障害との歩み
 第2章 視覚障害からの3つの回復
 第3章 回復のための心得
 第4章 みんなが暮らしやすい社会とは
 第5章 まとめ

1.三度目の約束の地へ

 広島国際会議場を訪れるのは、奇しくも今年二度目。一度目は4月、母校であるアカシアこと広島大学附属中・高等学校の120周年記念式典の際だった。あの時点ではまさか半年後に自分がここで講演をするなんて考えてもいなかった。
 思えば二十年前、持病の網膜色素変性症の進行でこれからの進路に行き詰まり、半分途方に暮れながらアカシア100周年記念式典に参加したのも、同じくこの国際会議場であった。それをカウントすると、今回は三度目の来訪となる。
 なんだか大好きな映画『BACK TO THE FUTURE』シリーズに出てくる裁判所の時計台のように、この場所は僕の生活史における時空接続点になっているのかもしれない。

→コラム「歌え! アカシア120周年記念式典」
 https://micro-world-presents.net/2025/04/28/acacia120/
→記念楽曲「愛夢遊」
 https://micro-world-presents.net/cat_musics/29/

2.継続は力なり

 歴史を重ねているのはもちろんアカシアだけではない。今回お招きいただいたイベントもそう。『ロービジョンの集い』は、コロナ禍を除いて毎年開催されており、まだ「ロービジョン」という言葉が一般的ではなかった頃から始めておられるのがすごい。しかも視覚障害の当事者や家族だけでなく、医療・福祉の支援者や行政の関係者など、様々な立場の方が気軽に参加できるというのが素晴らしい。
 今回も、目の健康や病気についての様々な講演会が同時進行で行なわれていたり、視覚サポート機器が展示されていたり、まさにアイフェスタと呼べる複合的なイベントになっていた。アニバーサリー好きとしては、その記念すべき第20回に呼んでいただいただけでテンション上がりまくりである。

3.心に優しい想像力を

 そして始まる講演本番。いっそ広島弁でやろうかと一瞬頭を過ぎったが、土壇場で思い付いたことは大抵失敗するのでいつもどおりに語りを開始した。
 前半は、網膜色素変性症と歩んだ自身のこれまでを振り返ったが、今回はアカシアの思い出を多めにブレンド。高校3年生の体育祭で作った赤軍やぐらの写真も一枚だけスライドに載せてみた。もちろん今の僕には見えないけれど、どんな構図のどんな写真か、記憶のフィルムにはしっかり焼き付いている。

→コラム「体育祭 ~理由のない情熱の研究~」
 https://micro-world-presents.net/2021/09/04/210904-01/

 そして後半はいつも一番大切にしている「3つの回復」のお話。仮に視力を回復させることは難しかったとしても、訓練と工夫とサポートで生活を高めることはできる。生活が充実してくれば、また幸せを感じることだってできる。簡単ではないかもしれないが、足を運んでくださった当事者、ご家族、あるいは支援者や関係者のみなさんにとって、少しでもそうかなと考えるきっかけになってくれたら嬉しい。

 最後のまとめでは昨年の著書でも書いた「視覚障害者は視覚想像者」をメッセージ。目の不自由な人間はけっして視覚がないわけではなく、自ら想像した視覚を生きている想像力の達人であり、その想像力で察して挙げられる誰かの痛みが必ずあるのだ。

4.アカシアソウルは突然に

 今回の講演、とてもあたたかい雰囲気の中でお話ができた。会場には広島市だけでなく、僕の故郷の呉市から来てくださった方も多く、「珍来軒の冷麺食べてますか?」「フライケーキ食べてますか?」「コッペパンはメロンパンですか?」などの投げ掛けに反応してくださるのが嬉しかった。講演の後には、母校の五番町小学校の話をしてくださる来場者さんまでいた。まさに地元ならでは。
 またアカシア時代の同級生も来てくれており、講演前には「頑張れよ!」、講演後には「よかったぞ!」と握手してくれるのがとても励みになった。
 そして東京医科大学で学生時代を共にした眼科医の先生もおられ、そこでも再会の握手が交わされた。五番町、アカシア、東医と奇跡の母校三連発。

 さらにである。最後の最後、司会者の方から「サプライズ企画がありまして」と、なんとアカシアの同窓会長さんがエールを贈ってくださるために登場。しかも「エールを贈る」というのは比ゆではなく、本当に声を張り上げて「フレ、フレ、福場!」のエールを切ってくださった。アカシア時代は応援団と赤軍やぐらをやってらっしゃったとのことで、もちろん半年前の120周年記念式典でも壇上で挨拶されていた方なのだが、今回の講演に来てくださるとはまさかのまさか、度肝をぶち抜くサプライズであった。
 確かに事前の打ち合わせの際に、広島県眼科医会にはアカシア出身の先生方が多く所属しておられることを知った。とはいえ別にこの『ロービジョンの集い』はヘビーアカシアンの集いではない。こんなにアカシア真っ盛りでよいのかと戸惑ったが、同窓会長さんは会場のみなさんへも「フレ、フレ、みなさん!」と力強いエールを贈っておられた。
 コロナウイルス以上に疑心暗鬼が蔓延する時代。エールで放たれたのは人間が人間を応援する熱い思いやり。やっぱり忘れてはいけない。僕たちは今も昔も、持ちつ持たれつで生きる動物なのだ。

 集まってくださったみなさん、お招きくださった広島県眼科医会のみなさん、そしていつまでも心を支えてくれる母校のみなさん、本当に本当に、素晴らしいプレゼントをありがとうございました! 

5.エネルギーリチャージ

 この先どうしていいかわからなかった二十年前、アカシア100周年記念式典でエネルギーをもらい、またとぼとぼと歩き出すことができた。やがて視力は失われたが、あたたかい職場に出会い、ゆいまーるやNEXT VISIONの仲間に出会い、今もこうして生きている。
今年、アカシア120周年記念式典でそれを思い出し、今回の講演でまた新しいエネルギーを授けていただいた。

 やっぱり、間違っていなかった。ここまで歩いてきてよかった。
 いずれまた大きな苦難が立ちはだかるかもしれないが、落ち込んだり楽しんだりしながら、きっと越えていけるだろう。
 次はアカシア150周年かな。いつかまた、必ずここへ戻って来よう。

6.研究結果

 広島県呉市に生まれて、アカシアに通えて、本当に幸せです。
 最愛の故郷、最愛の母校たちに、心からの感謝と祝福を!
 そしてお土産にいただいたあなごめし弁当、絶品だ!

令和7年10月6日  福場将太