今夏は偶然にも子供たちへの講演をする機会が重なった。最後はもう秋、しかも講演会ではなく交流会だったのだが、2025年10月7日(火)に訪れた北海道旭川盲学校の思い出をここに。
■演題
明るい、よいパワー
■時間割
1時間目 授業見学
2時間目 自己紹介
3時間目 弾き語りミニライブ
4時間目 一緒に給食
1.教育の在り方
この度の訪問は、こちらからお願いしたところが大きい。11月に視覚障害のある生徒の教育に携わっておられる先生方や保護者の方を対象に講演の依頼を受けたのだが、それをするには自分が盲学校についてあまりにも知識が乏しいと思ったからだ。
当日朝、正面玄関を訪れると、校長先生をはじめみなさんが丁寧に校内を案内してくださった。廊下や教室では生徒さんたちともふれあい、先生方からは盲学校教育の歴史や現状について色々教えていただいた。
僕自身は幼少期から持病の網膜色素変性症による夜盲や視野狭窄はあったものの、特段生活に支障を感じることはなく小・中・高校時代を過ごした。大学の後半から視力低下の進行が速まり、それから約十年で失明したのだが、もしも病状の進行のスピードやタイミングが少し違っていたら、僕の人生にも盲学校へ通う選択肢が生じていたかもしれない。
時代は移り変わる。かつては視力を失った者の選べる仕事は鍼灸や按摩などの限られた道しかなかったが、今は色々な働き方をしている視覚障害の当事者がいる。2001年に法律も緩和され、僕のような目の不自由な医療従事者も少なからず存在している。さらに近年は、合理的配慮やインクルージョン、ダイバーシティなどが叫ばれ、教育の現場においても誰もが学べることが目指されている。
病気や障害のある生徒とそうでない生徒が一緒に分け隔てない環境で学ぶのがよいのか、特別支援学級や盲学校のように、同じ苦労を持つ仲間と専用の環境で学ぶのがよいのか。これはきっとどちらかが正解という話ではなく、その生徒さんの個性によっても、暮らす町の文化によっても、最善の答えはそれぞれなのだろう。
2.視覚の在り方
授業の見学を終えると体育館へ移動。マイクとアンプをセッティングして、ギターを構えた。集ってくれた子供たちの心には、僕という存在がどんなふうに映っているのだろう。
簡単な自己紹介をして演奏スタート。事前に学校の先生に生徒さんたちが知っていそうな曲を教えてもらっていたので、まずはその中の『アンパンマンのマーチ』。これは僕が子供の頃からアニメで流れているので馴染み深い。一緒に口ずさんでくれる子もちらほら。
ふと思う。もしかしたら、中にはアンパンマンの姿を直接目で見たことのない生徒さんもいるのかもしれないと。その子にとって、アンパンマンはどんな顔で、どんな容姿でイメージされているのだろう。実際のアンパンを触ったり、ぬいぐるみを触ったりして、想像を膨らませていたりするのだろうか。
続いては一人の生徒から突然のリクエスト。その子は岡本真夜さんが好きとのことで急遽『TOMORROW』を演奏。自分も中学時代からの真夜さんファンなので、時空を越えた共通点が嬉しかった。
3曲目は『勇気100%』、忍たま乱太郎の長年のテーマソング。これも世代を越えて愛されている名曲なので子供たちはたくさん歌ってくれた。
最後は、音楽の授業でも歌っていると事前に伺っていた『虹』という曲。僕のレパートリーになかったのでこの度初めて出会った曲だったが、生徒さんたちも先生方も一番声を出して歌っていた。
実は歌詞を憶える作業をしていた時には少々不安だった。庭のシャベル、洗濯物、雨、雲、光、そして虹と、視覚描写の多い曲だったからだ。僕のような中途失明者は一度世界を目にしているから、見えなくなっても光や色というものをイメージできる。しかし先天性の全盲の者にとって、光や色について理解しイメージすることは大変と聞く。虹はまさに光と色の象徴であるから、盲学校で歌うには不向きではないかな、と案じたのだ。
だがそれは余計な心配だった。子供たちはみんな、楽しく、明るく、力強く、身振り手振りも添えてこの曲を歌っていた。目の見えない子供たちの世界にもちゃんと大地があって、空が合って、美しい虹も架かっている。
視覚障害者は視覚のない暗闇を生きているわけではけっしてなく、自らイメージした視覚で生きている視覚想像者、あるいは視覚創造者なのだ。このとても当たり前のことを、改めて子供たちから教えてもらったのである。
3.未来の在り方
その後は食堂で生徒さんたちと給食をいただく。ラーメンの味も、一緒に囲むテーブルも、なんだかとても懐かしかった。そして身にしみて感じた…子供たちはみんな、しっかりしていると。十分その手に未来を担える存在だと。
そんなわけで数時間の訪問であったが、とても有意義な時間を過ごすことができた。これだけの体験をさせてもらったのだ、来月の講演会ではちゃんとみなさんに役立つ話しをせねば。
4.研究結果
北海道旭川盲学校のみなさん、本当にありがとうございました。
子供たちにとって、一生心を支えてくれる愛しい母校になりますように。
*今回の交流会を校長先生が記事にしてくださいました。
→ https://www.kyokumo.hokkaido-c.ed.jp/bbses/bbs_articles/view/42/8d532b1b8beb607e12854d7ebfd65530?frame_id=63
令和7年10月9日 福場将太