2025年5月26日(月)、社会福祉法人 室蘭言泉学園さんの新しい建物『コミュニティプラザはーもにー』の落成記念講演会にお招きいただいた。実は前日まで所要で大阪にいたのだが、長距離移動をしてでもこのお仕事をお受けした理由は、無類のアニバーサリー好きとして落成記念という言葉に惹かれたのがまず一つ、そしてもう一つの大きな理由が…。
■演題
ぼくたち地球人 ~目の見えない精神科医が、心について伝えたいこと~
■セットリスト
第1章 当事者として、網膜色素変性症との二人三脚
第2章 支援者として、3つの回復
第3章 当事者かつ支援者として、回復のための心得
第四章 地球人として、みんなが暮らしやすい社会とは
第五章 まとめ
1.講演前夜
大阪から帰り着いた新千歳空港は、冷たい雨の中にあった。凍える停留所で高速バスに乗り込むと徐々に日も暮れていき、まるで深夜にスキーへ向かう車中のよう。降車したJR東室蘭駅周辺は人影もなく、夜の中に雨音だけが聞こえていた。
近くの店で室蘭焼き鳥をいただく。室蘭焼き鳥の最大の特徴は、鶏肉ではなく豚肉だということ。その真実を抱きしめて、僕はホテルで眠りについたのである。
2.講演当日
夜が明けると外は晴天。ホテルまで迎えに来てくださった言泉学園のスタッフさんの車で今回の会場である『コミュニティプラザはーもにー』へ移動。中に入ると、今年4月に完成したばかりということで新しい建物のにおいがした。
控室で理事長さんに伺ったところ、敷地内に福祉的就労の事業所やグループホームなどを複合させて福祉活動を展開するのみならず、地域共生社会の一助となるべく、市民にカフェ&食堂、芝生エリア、イベントホール、会議室などを開放する予定もあるという。特に芝生エリアはこだわりらしく、いずれそこで日向ぼっこやお花見、ピクニックを楽しめるそうだ。
そんな雑談を終え、いよいよ会場に入る。落成記念講演会の演者にどうして僕が選ばれたのか、それは昨年発刊した書籍『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』をこの理事長さんが読んでくださったことがきっかけ。なので今回の講演では、書籍の中で触れたエピソードも引用しながらお話をした。
現在は多様な障害の当事者が利用している室蘭言泉学園の福祉事業だが、言葉の泉という名称からもわかるとおり、もともとは聴覚障害の方が社会の中でコミュニケイションをとっていくための活動が始まりだったそうだ。そのため事業所の利用者だけでなく支援者にも聴覚障害の当事者がおられ、スタッフのみなさんは日常会話の中でもさり気なく手話を添えておられた。
講演中も、手話や口述筆記の方が絶えず僕の声を耳の不自由な来場者にも伝わる言葉に変換してくださっていた。そんなあたたかい空気の中でお話ができたのは本当に幸せである。
3.三度目の場所
講演の後は理事長さんをはじめとするスタッフのみなさんとランチタイム。会場は建物内の食堂『手と手』。普段は福祉的就労の事業所を利用している方々が昼食を摂るための設備だが、前述のようにいずれ市民にも開放される予定であり、当日はそのプレオープンであった。食堂の片隅でテーブルをくっつけてみんなでアジフライ定食を味わう、なんと豊かなことか。
昼食後は駅まで送っていただく前に一つ我儘を言ってある場所へ連れて行ってもらった。それは地球岬。高校2年生の時の修学旅行で、初めて広島から北海道へ来た時に訪れた場所。北海道に就職したばかりの頃、学友が運転するレンタカーで立ち寄った場所でもある。その思い出のスポットが、今回完成した建物のすぐ近くだったのだ。
人生三度目の地球岬。残念ながらもうその美しい眺望を視覚で味わうことはできないが、風の肌触りや鳴り響く幸福の鐘の音で、確かにここにまた戻ってきたことを感じられた。
そう、ハードスケジュールでも今回の講演をお受けした大きな理由が、この地球岬だったのだ。演題の『ぼくたち地球人』は、大山のぶ代さん時代のテレビアニメ『ドラえもん』のエンディングテーマの曲名であるが、もちろんこの地球岬にも重ねている。そして『ぼくたち地球人』の歌詞には「手と手をつないで」というフレーズがあるのだが、先ほどの食堂の名前は奇しくも『手と手』。こんな素敵な符合があるから人生はやめられない。
お忙しいはずなのに、理事長せんせいをはじめ多くのスタッフさんが一緒に地球岬まで同行くださった。今回一番感じたのは、みなさんのおおらかさ。共生社会、インクルージョン、ダイバーシティ…なんだか難しい言葉で議論してしまうが、みんながおおらかな心でいられたら、きっと多くの問題は解決していくのだろう。それを学ばせていただいた。
午後の陽光の中、JR東室蘭駅から電車に乗り込む。お土産には室蘭名物カレーラーメンも忘れない。地球岬の近くで地球人にまつわる講演ができてよかった、そんなことを思いながら僕は帰路に着いたのである。
4.研究結果
四度目の地球岬訪問の時には、もっとおおらかな心になっていたいと思います。そして、言泉学園ご自慢の芝生に思いっきり寝転がりたいと思います。
その時まで、この愛しい地球に笑顔がいっぱい増えていますように。
令和7年5月30日 福場将太