第17回ゆいまーる通常総会@大阪

 気付けば入会してもう十数年が経過した『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』。失明した自分が医療の仕事を続けられているのは、ゆいまーるとの出会いがあったからこそ。その総会に今年も参加してきたので、ここに思い出を記しておきたい。

1.総会の変遷

 ゆいまーるの創設は2008年、その通常総会は年一回、東京と大阪を交互に開催地にしながら行なわれてきた。活動や予算、役員体制について決議や報告を行なうだけでなく、ゲストを招いての講演会をしたり、施設見学をしたり、何より普段会えない全国各地の仲間との交流が一番の目的である。
 2020年はコロナ情勢で開催が自粛されたものの、翌2021年からはZOOMを用いたオンラインという新たな形で再開、さらに2023年からはリアル会場プラスZOOMというハイブリッドの形式となり現在に至っている。

2.前夜の宴

 今年の開催地は大阪。西日本在住の役員が中心となって準備を進めてくれた。
 前日午後、新千歳空港から離陸して伊丹空港へ着陸。この空港に来たのは2023年11月の京都の旅以来だが、今回は時節柄万博カラーが濃い様子。そこからバスでJRなんば駅へ移動し、翌日の会場となる『O CAT』近くのホテルにチェックイン。
 天候は生憎の雨であったが地下道のおかげで大きな支障はなく、そこにもお店はずらり。たくさんの人が往来する中、地面の下の商いは活気に溢れていた。この度有名な『551 HORAI』のぶたまんもいただいた。これをお土産に買って飛行機に乗ってはいけないらしいが、その理由は、あまりにおいしそうなにおいで周囲の乗客のお腹がすいてしまうからだそうだ。

 そして夜はO CATの5階にある『ビアレストラン オーシー』で総会前夜の懇親会。長年お世話になっているお店だそうで、目の不自由な僕たちがそのことを忘れてしまいそうなほど、スタッフさんたちは優しくきめ細やかなサービスをしてくださった。
 おかげで久しぶりに会う仲間、始めて会う仲間、オンラインでは常連だけどリアルでは初対面という仲間たちと、おいしい食事と幸福な時間を共にすることができた。視覚障害者にとって遠距離移動は大きなストレスだが、だからこそ宴は現地参加の大きな醍醐味なのである。

3.当日午前の部

 2025年5月25日(日)。一夜が明けてO CAT4階の会議室に現地参加組み、そしてZOOMにオンライン組みが集合して総会スタート。自己紹介、活動や予算・機関誌についての報告がなされた後、今回の主題に移る。
 それは電子カルテ。『医療DX令和ビジョン2030』と銘打たれたプロジェクトの一環で厚生労働省が開発を進めている標準型電子カルテを、いかに視覚障害を持つ医療従事者にも使いやすい仕様にしてもらえるかということだ。
 誤解のないように言っておくと、けっして電子カルテ普及の動きに反対しているわけではない。紙カルテから電子カルテへの移行は、目の不自由な者にとって大きな希望である。文字のフォントやサイズ、画面の色調やコントラストの調整機能が搭載されれば弱視(ロービジョン)の者でも読み書きがしやすくなるし、音声読み上げ機能が搭載されれば全盲(ブラインド)の者でもそれができるようになる。これは紙カルテでは不可能なことだ。
 ただしそれらの機能が搭載されなかった場合、電子カルテは紙カルテ以上に使いにくい媒体に変貌してしまい、操作できない者は医療の現場から去ることにもなりかねない。まさに天国と地獄、視覚障害を持つ医療従事者にとって、どんな電子カルテが開発されるかは生き残れるか否かの瀬戸際なのである。
 すでにゆいまーるでは多くの人たちの支援を受けて、厚生労働省へ要望書を二度に渡って提出、先方の担当者との意見交換も始めている。ただし本当に目の不自由な者でも使える電子カルテが開発されるかはまだまだ不透明。

 そんな事情で今回の総会では、現存の電子カルテを使った経験を持つ弱視者・全盲者から実情と課題を報告し意見交換。その後、これからどのようにすれば標準型電子カルテの開発に協力させてもらえるかを話し合った。
 意見は尽きることなく、あっという間にタイムアップ。この議題は継続的にみんなで考えていかなければならない。理想の電子カルテが実現するかは、これからの自分たちの頑張りにかかっているのである。

4.当日午後の部

 お昼休みは再び昨夜と同じレストランへ移動してランチ会。夕べはお話できなかった人たちともたくさん言葉を交わすことができた。あたたかい対応をしてくださったお店のスタッフのみなさんに、改めて心からの感謝を表したい。

 そして会場の会議室に戻って、午後からはゆいまーるメンバーがいかにデジタル機器を使いこなしているのかをテーマに楽しくディスカッション。まだまだアナログ派のメンバー、最近ようやくスマートフォンを持ったというメンバー、スマホもタブレットもバリバリ使いこなしているメンバー、それぞれの心意気が語られた。
 …らしいのだが、残念ながら僕は欠席。後ろ髪を引かれたが、翌日どうしてもはずせない仕事が入っていたから仕方ない。あたたかい仲間たちに感謝と別れを次げて、北海道へと舞い戻ったのである。

5.研究結果

 僕は自分の好きなことをする時間を何よりも優先して生きてきた。これからもそれは変わらないと思うが、少しだけ、ほんの少しだけ、医療の未来、障害を持つ医療従事者の未来のために、何かをしたいという気持ちが生まれている。自分が今歩けているのは道を切り拓いてくれた先人たちのおかげ。それなら僕にも後人たちが歩いていく道を整える使命が課されているのではないか。
 遠くない未来に、せっかくの経験や情熱を持ちながら障害という理由だけで正当な能力評価をされることなく現場を追われてしまう医療従事者がいなくなることを願っている。

令和7年5月29日  福場将太