心の名作#27 ドラえもん映画の研究② のび太の宇宙開拓史

 僕の人生に何度も気付きとエネルギーを与えてくれたドラえもん映画を研究するシリーズの2回目です。

■研究作品

 先日地元のスーパーで『ドラえもんのどら焼き』というのを売っていたので思わず買ってしまいました。そして4月4日はどら焼きの日だそうです。
 さてさて今回は1981年3月14日公開の第2作『のび太の宇宙開拓史』を研究します。悪知恵ってのはコンピューターじゃはじけねえぜ?

■ストーリー

 野球がやれる新しい空き地を見つけろと、ジャイアンから無理難題を押し付けられたのび太。そんなある夜、眠っていたのび太の部屋の畳が突然跳ね上がった。なんとその畳は、遥か彼方の銀河を走行する少年ロップルと相棒生物チャミーが乗る宇宙船の扉と不思議な偶然でつながってしまったのだ。そこを通って彼の住むコーヤコーヤ星へ遊びに行き、空き地が見つかったと喜ぶドラえもんとのび太だったが、やがてロップルたちがトカイトカイ星のガリタイト鉱業から悪質な地上げを受けている現状を知る。人々を守るためにスーパーマンとして活躍する二人、しかし業を煮やしたガルタイト鉱業はついにコーヤコーヤ星を破壊する計画を決行。畳の裏の出入口も間もなく消滅する中、のび太は最後の戦いに飛び込んでいく!

■福場的研究

1.主旋律と副旋律

 ついにシリーズとなったドラえもん映画。前作では冒頭しばらく日常パートが続いたのに対し、本作はいきなり迫力ある宇宙船の場面から開始します。冒険の舞台は、SFと西部劇が融合したような魅力的な星。そこへ行くための入り口が部屋の畳というのが、藤子F先生のセンスですね。ドラえもんが勉強机から出てきたように、不思議な世界の入り口が身近な所にあるというのが素敵です。

 ただ子供の頃は、そんなに大好きな作品とは思っていませんでした。理由の一つは、頻繁にコーヤコーヤ星と地球を行ったり来たりするせいで、異世界冒険という主旋律がその度にプツンと途切れるように感じられたからです。せっかく射撃というのび太の特技が活かされているのに、学校や勉強の合間に宇宙へ行って戦う姿はどうも片手間な気がしました。
 ところが今回改めて観賞すると、行ったり来たりの設定がいかに副旋律を奏でているかを思い知りました。本作の副旋律は『友情』。のび太とロップルは、普段はそれぞれの生活をしながら時々だけ会える関係。子供の頃、ペンフレンドだったり、おじいちゃんの田舎で仲良くなった子だったり、みなさんにもそんな遠くの友達がいたかもしれませんね。
 本作の設定で巧みなのは、地球とコーヤコーヤ星で時間の流れが異なること。のび太にとっては二週間ほどでも、ロップルにとっては一年を過ごしています。こんなに長い期間のび太と触れ合ったゲストキャラクターは、ドラえもん映画シリーズでも彼だけです。
 そしてこの本来知り合うはずのなかった別世界の二人をつないだ宇宙船の名前、憶えてますか? そう、フレンドシップ号。今回再観賞するまで全く意識していませんでしたが、藤子F先生の思いがこのネーミングに込められているように感じました。

 また本作にはもう一つの友情も描かれています。それはのび太にとっての近くの友達。空き地探しのトラブルがきっかけで、ジャイアンは「もう友達と思わないからな」とのび太を仲間外れにします。のび太もコーヤコーヤ星で過ごす時間の方が楽しくなり、無理に仲直りしようとしませんでした。でも最終決戦の時、のび太の危険をしずかから知らされたジャイアンは「来いスネ夫!」と迷わずバット片手に飛び出して行くのです。喧嘩中でも恐い敵でも関係なし。のび太がロップルを助けに行く時に言った「友達を放ってはおけないんだ」という言葉は、きっとジャイアンとスネ夫、しずかの心の中にもあったのでしょう。冒頭からずっと話題に出てきたジャイアンの野球が、クライマックスで一発逆転のアイテムになるのも見事な構成ですね。
 駆け付けてくれた三人を見て、のび太もないがしろにしかけていたもう一つの友情を思い出します。そしてラストシーンでは遠くの友達に別れを告げ、スーパーマンじゃなくなっても、また意地悪されても、近くの友達と過ごす日常へと戻っていくのです。異世界冒険の主旋律に優しく寄り添いながら、遠くと近く、二つの友情の変化をさり気なく奏でる副旋律。ああ、本作はこんなに名作だったのか!

2.冒険の渦中で帰宅

 前述のように、本作はしょっちゅう異世界と日常を行ったり来たりしています。そのため、僕の好きな「冒険の渦中でふっと日常に帰った時の不思議な安堵感」は残念ながら味わうことができません。

3.冒険の切り替わり

 コーヤコーヤ星の人々とガルタイト鉱業との争いは、当初ドラえもんとのび太にとっては外から力を貸す冒険で、困った人たちを助けに行くヒーローとしての立ち位置でした。
 しかし最後の戦いは違います。畳の裏の出入り口が消えかかり、助けに行っている間に消滅してしまうと元の世界へ戻れなくなってしまう。自分のことを考えれば飛び込むのは危険。でも助けに行けるチャンスは今しかない。ここで冒険が切り替わり、ヒーローではなく当事者としてのび太は冒険へ飛び込んで行くのです。

 実はこの消えかかった出入口のシーン、僕の人生を変えてくれました。医学部を卒業して国家試験に不合格、もう一度受験するかどうかを迷っていた時に思い出したのがこの場面だったのです。徐々に低下する視力はまるで消えかかった出入口、医師免許を取ったとしてもその先どうなるかはわからない、でも受験のチャンスは目が見えている今しかない。ドラえもんとのび太の勇気を思い出し、僕も飛び込むことにしたのです。
 実際にその後視力は急激に低下したので、あそこでためらっていたら、もう通常形式での受験は不可能でした。あの時飛び込んだから今がある。藤子F先生、本当にありがとうございました!

4.その他

 再観賞して気になったのが、ロップルが何度も『エネルギーチャージ』という言葉を発していたことです。自分で作った曲の中でも『エネルギーチャージ』という曲はかなりのお気に入りなのですが、もしかしたら発想の原点は幼い記憶に残っていたロップルの叫びだったのかもしれません。

→楽曲『エネルギーチャージ』
 https://micro-world-presents.net/cat_musics/25/

 また今回ロップルがトカイトカイ星の町を案内するシーンがありますが、ゲストキャラクターによるご案内場面は、今後のシリーズで時々見掛けるようになります。
 そしてそして、焦ったのび太がドラえもんに呼び掛ける時の「ドドドドドドドドドラえもーん!」も本作で初登場。やっぱりこの二人の関係はいいなあ。

 他に印象的だったのが、序盤では敵に対してジャイアンが普通にびびっていること。その後のシリーズでは相手が大人でもロボットでも怪物でも立ち向かっていく彼ですが、小学生としてはむしろこの反応が自然。お馴染みの「心の友よ!」のセリフも、「おーれはジャイアーン!」のBGMも本作が初登場。そして今回、びびる相手でも友達のためなら駆け付けるというかっこよさを見せたジャイアンは、自作でさらにそのキャラクターを掘り下げられることになるのです。

 それでは今回はこのくらいで。次回は映画第3作、1982年公開の『のび太の大魔境』を研究します。

■好きなセリフ

「無茶を言うんじゃない、みんなそれぞれの星があるんだ」
 ロップル 

別れのシーン、ドラえもんたちを引きとめるチャミーをいさめる時の言葉

令和7年4月4日  福場将太