新年度が幕を開けた。精神科の支援者になってからも、視覚障害の当事者になってからも、もう随分経つが、今回はその大切な心得について研究しよう。
1.二つの心得
医療の支援者にとって大切な心得は「できないことだけを助ける」ということだ。障害や難病の当事者だからといって何もできないということはなく、できることまで手助けしてしまうとせっかく有している能力を奪うことになりかねない。それは支援の目標である回復に反してしまう。
そして、「できないことだけ助ける」という支援者の心得は、裏を返せば「できることは自分でやる」という当事者の心得にもなる。この心得の意義として、もちろん自分の能力を鈍らせないため、周囲に無用の負担をかけないためというのもあるが、何より自力でできた時の嬉しさが一番大きいと思う。
実際に僕も目が不自由になって色々なことができなくなった後、またパソコンで文章が打てた時、メールのやりとりができた時、ゴミ捨て場までたどりつけた時、一人でJRや飛行機を利用できた時、いちいち喜びに打ち震えたものだ。
2.時間の葛藤
この度、2026年3月末でのサービス終了が発表された104の電話番号案内。まず素直に思ったのは「困ったな」ということだった。仕事で役所や学校、介護施設や就労の事業所に電話をする必要が生じた際、104で番号を聞けるのは一番迅速な手段だったからだ。生活においても、お店や駅、空港の電話番号がすぐわかるのは本当に便利だった。
もちろん今はインターネットがある。スマートフォンやパソコンで検索すればすぐに目当ての電話番号は表示されるのかもしれない。ただ目が見えていないと例え画面には表示されていたとしても、音声ソフトがそこまで読み上げるまでにかなりの時間を要する。下手をすれば10分も20分も、目当ての箇所が来るまで不要な情報の読み上げを聞きつづけなければならないこともあるのだ。
そう、確かにできないわけではない。「できることは自分で」の心得に従えば自力でやるべきだ。ただ、この「時間がかかる」というのが大いなる葛藤でもある。
僕は飛行機のチケットを取る際も、航空会社に電話を掛ける。区間と希望日時を伝えればオペレーターさんが適当な便を見つけてくれ、電話でカード情報などを入力すればその場でチケットを購入することもできる。この方法を習得した時、僕は本当に嬉しかった。
ただ近年は、オペレーターさんの数が減っているのか、電話がつながるまでにかなりの時間がかかる。1時間を超える待機もあり、仕事の昼休みや退勤後となると、時間が足りない。ちなみに友人にインターネットでチケットを取ってもらえばものの数分で終わってしまう作業なのである。
他にも、自宅でインターネットの接続に不具合が生じた際も、ワイファイの電源を一度切れば元に戻る。しかしこの「電源を切る」という作業がタッチパネルのため目が見えないと困難。ここでもない、そこでもない、と手探りで操作して、先日はせっかくの休日が一日それで終わってしまった。これも友人に頼めば数秒の作業である。
3.回復の覚悟
「できることは自分で」、それは正しい心得。しかし人に頼めば一瞬の作業を何時間もかけて自分でやるとなるとそれなりの覚悟が必要だ。もう頼っちゃえばいいじゃないか、と心のどこかで声がするが、それが当たり前になってしまうとどんどん堕落してしまいそうで怖い。
104の終了まであと一年。一年後にサイヤ人が地球に攻めてくると知って悟空たちが迎え撃つ修行したように、僕も自力でなるべく時間をかけずに目当ての電話番号を入手できる技を身に着けねば。そう、それもまた一つの回復なのだから。
4.研究結果
時代が変わればサービスも変わる。104の電話番号案内のスタッフのみなさん、これまで本当にありがとうございました! 最後まで癒しのボイスをお届けください。
令和7年4月1日 福場将太