回を重ねたからこそより味わい深くなる、そんな心の名作を研究するシリーズの27回目、今回は一年間をかけて行なう長期研究です。
■研究作品
1980年、日本のアニメ映画史に大きな一歩が刻まれました。今や世界中で愛される作品でありキャラクターでもある『ドラえもん』、その長編映画第1作が公開されたのです。
もともとは小学生の学年誌に連載されていた短編ギャグ漫画であった『ドラえもん』、それを原作として始まったテレビアニメも短編が基本でした。これを90分の長編映画にするというのは前代未聞の挑戦。しかしその結果はみなさんご存じのとおり、大好評を博したドラえもん映画はその後も毎年春の恒例として制作され続け、ついに今年45周年を迎えるに至ったのです。
僕が生まれたのも1980年。我が人生はドラえもん映画と歩んできたといっても過言ではありません。僕が人生に立ち止まった2005年にドラえもん映画も初の一回お休み、そして人生もドラえもん映画も翌年からリニューアルして再始動したのは不思議なめぐり合わせです。
以前にも40周年を記念して歴代ドラえもん映画の主題歌を研究したことがありました。
→「心の名作#8 『DORA THE BEST』よりドラえもん歴代映画主題歌」
https://micro-world-presents.net/2020/04/03/masterpiece-of-heart8/
45周年の今回はもう少し作品の内容に踏み込んで、藤子・F・不二雄先生が原作を担当されたシリーズを研究してみたいと思います。
■福場的研究
楽しみながら引き込まれる巧みなストーリー、ずっと忘れられない印象的なゲストキャラクター、作品を彩る象徴的なひみつ道具、そしてテーマとシンクロした見事な主題歌と、ドラえもん映画の魅力はいくつもありますが、今回は主に以下の3つの視点に搾って研究していきます。
1.主旋律と副旋律
ドラえもん映画は娯楽映画、けっして何かを啓蒙したり啓発したりする社会派映画ではないですし、頭を悩ませたり解釈を議論したりするための映画でもありません。ドラえもんとのび太たちが毎回不思議な世界へ出掛けて冒険する、そのドキドキやワクワクがこのシリーズの主旋律です。
ただ作品によっては、異世界冒険以外のテーマも押し出されていたり、そこはかとなく奏でられていたりして、そんな副旋律に気が付けるのも大人になってドラえもん映画を再観賞する味わいではないでしょうか。
今回の研究では、ドラえもん映画で奏でられる主旋律だけでなく、副旋律の響きにも着目してみたいと思います。
2.冒険の渦中で帰宅
ドラえもん映画には、冒険の渦中でふっと普段の日常の世界に戻る場面がよくあります。実は僕は子供の頃からこの場面がたまらなく大好きで、まるで遠足の途中で馴染みの商店街を通った時のような、仕事の外回りの途中で自宅に立ち寄った時のような、不思議な安堵感と憧憬を覚えるのです。
普通に学校や仕事が終わって家に帰った時とは違う、冒険の最中に帰宅したからこそ込み上げる不思議な感覚。どれくらいの人が共感してくださるかわかりませんが、今回の研究ではそこにも着目してみます。
3.冒険の切り替わり
そしてドラえもん映画で僕が一番高揚するのは、最初は『巻き込まれた冒険』だったのが、『自分で選んだ冒険』へと切り替わる場面です。藤子F先生が原作を描いておられた頃の作品には、形は様々ですが、ほぼこの切り替わりの場面があります。最初は異世界へ出掛けて楽しく遊んでいたのが、その世界で起きている争いやトラブルに巻き込まれて冒険する羽目になるドラえもんとのび太たち。しかし必ず冒険の途中で脱出のチャンスが訪れます。そこで知らん顔して普段の生活に戻ることもできる。しかしドラえもんとのび太たちはそうせずに、今度は自らの意志で冒険に飛び込んでいくのです。
僕も、医者家系に生まれたこと、網膜色素変性症を患ったことを最初は『巻き込まれた冒険』だと思っていました。これは自分の意志で決めたことじゃない、やるしかないから仕方なくやっているんだと心に言い訳をして、医療の仕事をすることにも、目が見えなくなる人生を送ることにも、正面から向き合うことができませんでした。でもドラえもんとのび太たちが、仕方なくではなく自分の意志で闘いに臨む姿を見て、僕もそうありたいと憧れました。そして一度は背を向けた医療の世界、目が見えなくなるかもしれない未来に、自ら選んで飛び込みたいと思えたのです。この心情については以下の記事でもお話ししています。
→「福場将太とドラえもん だから僕は、僕の道に飛び込んだ!」
https://www.thousands-miles.com/trend/10473/
今回の研究ではドラえもん映画の最大の見どころである、冒険の切り替わりの場面にも着目していきます。
以上、研究の要旨でした。次回から実際に1作品ずつ研究に入ります。まずはもちろん映画第1作、1980年公開の『のび太の恐竜』です。
令和7年3月10日 福場将太