2024年11月24日(日)、『視覚障害者の仕事に関わる困りごと情報交換会』にお招きいただいて講演を行なった。今回で23回を数えるこの会はちょうど二年前の2,022年11月から始まったそうで、視覚障害の当事者だけでなく、その家族や支援者、あるいは視覚障害者の就労に関心のある者なら誰でも参加でき、親睦を深めたり情報を交わしたりする場となっている。網膜色素変性症の当事者としてはもちろん、精神科医という支援者としても就労は日々向き合っている重要なテーマ。そのため、こちらも学ばせてもらおうという気持ちで札幌視聴覚障害者情報センターへ足を運んだ。
演題
視覚障害と就労 元気な心で働くテクニック
セットリスト
第一章 働くとはどういうことか
第二章 働くメリットを味わうために
第三章 働く上での合理的配慮
第四章 働く上で必要な『伝える力』
第五章 元気な心で働くテクニック
第六章 まとめ ~迷惑をかけないことよりも~
1.勤労感謝の日は何に感謝?
当日は雪模様であったが、三十名ほどの人たちが会場に集まってくださっていた。先月のJRPS(網膜色素変性症協会)の講演会でお世話になった方の声もちらほら。
まず、講演の序盤は前日の勤労感謝の日にちなんで、勤労とは何か、勤労の義務とはどういうことかについてみなさんに投げ掛けた。そして、働けることは喜びでもあるが苦しみでもある。働くとどんなメリットとデメリットがあるかを挙げてもらい、そのメリットを味わうために不可欠なことについてお伝えした。
実はこの辺りの流れは、普段精神科の就労支援勉強会で行なっているプログラムからの引用。その勉強会で一番大切にしていることは「全員が生徒で全員が教師」、支援者が当事者に教えるのではなく、当事者も支援者もお互いから学び合うということだ。今回の講演では、精神科の患者さんたちから教わったこともたくさん盛り込ませていただいた。
2.合理的配慮は何に配慮?
講演の中盤は、今春から民間の事業者でも法律的な義務となって何かと波紋を呼んでいる合理的配慮についてのお話。そもそも合理的配慮という言葉がとてもわかりにくいのだが、障害を持った職員がちゃんと仕事がこなせるように、どんな工夫やサポートがあればよいかを職場と本人で話し合って調整する共同作業といったところか。そのためには当然当事者本人が自らの障害を職場に『伝える力』が必要になってくる。
この日の会の自己紹介でも、視覚障害の伝え方・説明の仕方は十人十色であった。ちゃんと相手に伝わる伝え方、相手の気分を害さない伝え方、なおかつ伝えている本人がつらくならない伝え方を、これからも当事者自身が研究し練習していかねばならない。
また伝えられた相手側も、ちゃんと当事者に対して適切なリアクションをする技術が求められる。リアクションで失敗してしまうと、障害を打ち明けた当事者の勇気もくじかれてしまい、その後の合理的配慮の話し合いに進んでいかないからだ。伝えられる側も研究と練習が必要なわけである。
3.迷惑は迷惑ですか?
講演の終盤は、精神科医としてよくアドバイスしている元気な心を保つためのテクニックを三つほど紹介した。どれか一つでもお役に立てば嬉しい。
そして最後のまとめでは、講演活動を始めた六年前から一貫しているメッセージを久しぶりにお話した。それは「迷惑をかけないことよりも、役に立つことを大切に」。とかく「人様に迷惑をかけてはいけない」「忍耐と謙虚こそ美徳」と教わってきたこの日本社会では、自らの弱さやつらさを開示してサポートを願うというのがはばかられる。要求やクレームの多い人間は煙たがられる。人に負担をかけないことが正義なら、障害を持つ者の存在は悪ということになってしまう。
もちろん忍耐や謙虚さも大切、何でもかんでも言えばよいというわけではない。ただし、誰かの役に立ちたいという気持ちは何らわがままではない。特別な情熱でもない。多くの人間がごく自然に持っている当たり前の欲求であり、それを遠慮する必要はない。働くということは、誰かの役に立ちたいという自然な願いを叶える最もわかりやすい形である。
だから願っていい。求めていい。自分が働くことで誰かに負担をかけてしまったとしても、その分少しでも誰かの役に立てばいいのだ。
「誰にも迷惑をかけなかったけど、誰の役にも立てなかった人生」よりも、「たくさん迷惑もかけたけど、ちょこっとは役に立った人生」を僕は生きたい。
講演会の後にみなさんとランチを囲みながら、改めてそう思ったのである。
4.研究結果
精神科の支援者としての知識と経験、眼科の当事者としての知識と経験、そこに僕という人間の味わいも添えて。これからもそんな講演をしていけたら嬉しい。
みなさん、今後ともよろしくお願いします。
令和6年11月25日 福場将太