2024年10月20日(日)、岡山県視覚障害を考える会主催で講演を行なった。形式は久しぶりのオンライン。聴いてくださっている方々の反応がわからない中で一時間話し続けるとどうしても緊張してくるので、上半身はスーツにネクタイ、下半身はパジャマというハイブリッドスタイルで臨んだ。
演題
視覚、生活、そして心 3つの回復を支援する
セットリスト
第一章 障害の意味、回復の意味
第二章 視覚を良くするためには
第三章 生活を良くするためには
第四章 心を良くするためには
第五章 まとめ ~優しい想像力~
1.広島と兵庫のあいだで
今回の部隊は岡山。生まれ育った呉市がある広島県と、所属している『公益社団法人 NEXT VISION』の本拠地・神戸アイセンターがある兵庫県の間に位置する県だ。
思い出といえば、子供の頃の家族旅行で倉敷に行った際、駅で大きな桃太郎の人形を見た。また、かつて嘉門タツオさんがインターネットでやっておられた『ナリキン投稿天国』という番組の企画で、岡山出身のファミリーギャングというバンドが見事メジャーデビューを果たしたことを思い出す。番組に出演した彼らの方言を聞いて、岡山弁は広島弁に似ているなあ、さすがはお隣さんと感じたものだ。
そんなわけで今回もちょっと期待していたのだが、講演会を運営してくださった方々の中にこれぞ岡山弁という人はおられなかった。講演後の質疑応答でも、どちらかといえば関西弁のニュアンスを強く感じた。反対側のお隣さんが兵庫県なのだから、これもまた然りである。
2.眼科と精神科のあいだで
今回は眼科領域の講演会。よって聴いてくださったのは、視覚障害の当事者と支援者のみなさんが中心。にも関わらず、あえて冒頭では精神科の話しをたくさんした。
精神科における障害とは何か、回復とは何か、そして何故精神科では医師が医療のみならず福祉にも深く関わっているのか。けっして与太話としてお伝えしたわけではない。実は今、眼科も福祉を大切にする時代が来ていることを僕は強く感じている。だから精神科で育った医療と福祉の連携ノウハウが、眼科にも役立つと思うのだ。
僕自身もそうだが、失明してしまうと眼科に通院しなくなる患者さんは少なくない。医者の側も、治せない視覚障害に対して、診断書や書類を書くこと以外にして上げられることがなく、積極的に通院を勧めないこともかつてはあったと聞く。
しかしそれは『視覚が良くなること』だけを回復と捉えているからこその考え方であり、『生活が良くなること』『心が良くなること』も回復と捉えれば、患者も医者もできることはまだたくさんあるのである。
確かに、視力そのものを高める治療やリハビリは少ない。しかし、暮らしや幸福を高める治療やリハビリはすでにたくさん考案されている。そうでなければ、先日東京で開催された視覚リハ大会があんなに盛り上がっているはずがない。
講演会の中盤では、僕なりに生活を回復させるアイデアをいくつか提示した。賛否両論はあってくれて全く構わない、むしろみんなで意見を出し合う文化が大切なのだ。
3.当事者と支援者のあいだで
精神科医なのに眼科に関わらせてもらえていることに加え、自分の強味はもう一つ、支援者であると同時に、たくさん支えてもらっている当事者であるということだ。講演会の後半では、心の回復について、支援者と当事者の両面から大切なことをお伝えした。
障害当事者が陥ってしまいやすい負け組感、仲間外れ感、そしてお荷物感。これらを軽減するためには当事者自身にはもちろん、関わる支援者にも心得が必要だ。
所属している『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』で、以前に正会員を対象としたアンケートを行なったことがあるが、入会前と入会後では、目が不自由な状態で医療に携わることへの不安が明らかに軽減していた。また、視覚障害を持つ医療従事者である自分を誇りに思っている・認めていると回答した者は、正会員の八割以上であった。やはり人は、仲間を得ること、役割があることによって、心を回復させることができるのだろう。
自分はまだまだ支援者としても当事者としても道半ば。二足の草鞋とはいかないまでも、どちらの面も大切に磨いていきたいと思う。
4.研究結果
視覚の回復、生活の回復、心の回復。
一つずつのテーマでも、きっとゆうに一時間は超える内容。それを一回に凝縮するのはさすがに駆け足過ぎました。反省です。それでも新しい出会いがあるのが講演会の醍醐味。またいつか、岡山のみなさんにお会いで切る日を楽しみにしております。
令和6年10月24日 福場将太