2024年10月6日(日)、JRPS北海道・東北ブロック研修会にお招きいただいて講演を行なった。JRPSとは日本網膜色素変性症協会のことで、難病指定疾患である網膜色素変性症の治療法開発を願いながら、情報共有と自助活動を展開する当事者団体だ。この眼科疾患は僕自身の持病でもあり、大学卒業後に人生を放浪していた頃、この会に未来を見つける一つのきっかけを与えてもらった恩もある。
そんなJRPSの講演会といえば昨年8月、猛暑で汗だくになりながら自室からオンラインで語った思い出があるが、今回はハイブリッド、北海道難病センター3階大会議室に足を運んだ。
演題
視覚障害の悩みに対して精神科医ができること
セットリスト
第一章 視覚障害と心の健康
第二章 目が悪くなって落ち込んだ時、相談先はどこ?
第三章 心の医療の基礎知識
第四章 元気な心でいるためのアドバイス
第五章 まとめ ~優しい想像力~
自らの視覚障害をオープンにして、精神科医でありながら眼科方面でも講演活動をするようになってもうすぐ六年。当初は所属している『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』や『公益社団法人 NEXT VISION』の関連で、関東や関西での登壇ばかりだった。思えば北海道の地で、リアルに当事者のみなさんの前で視覚障害関連の講演をするのはこれが初めてではなかろうか。今回はその記録と考察を。
1.目と心
「目は心の鏡」なんて言葉もあるが、視覚の状態と精神状態が影響を及ぼし合うのは珍しくない。心の不調が原因で目が見えづらくなることもあるし、視力の低下が原因で落ち込みや不安が強まることもある。今回テーマにしたのは主に後者で、網膜色素変性症と告知された時、実際に視力が低下して生活が不自由になった時、心の健康を損なう人は多い。場合によっては深刻なうつ状態・不安状態に発展するリスクもあるのだ。
ではそんな時、いったいどこへ相談に行けばよいのか? 残念ながらここが専門という相談先はない。癌を患った人のメンタルケアについては精神腫瘍学(サイコオンコロジー)という専門の学問があり、学会があり、専門家の医師もいる。しかし、目を患った人のメンタルケアについての専門の学問はまだなく、理解のある精神科医や眼科医を見つけるしかないのが現状である。
僕自身もそういった相談にもっともっと対応できればとは思う物の、自身が当事者だからわかってあげられるというほど簡単な話ではなく、ロービジョン外来をされている眼科の先生と色々相談しながら、目下修行中の身である。
2.当事者と支援者
それでも僕の強みは、視覚障害の当事者であると同時に心の支援者であるということ。今の自分でも伝えられることとして、もしも落ち込みや不安が強まった時、どのタイミングで精神科に相談すればよいのか、精神科と心療内科はどう違うのか、受診したら具体的にどんな治療があるのかなどについて、お話した。
そして日常から気を付けるべき心の健康のポイント、視覚障害者が特に陥りやすい精神状態とその対処法などについて自分なりのアドバイスを贈った。
3.人と人
講演の後で質問や感想を伺ったが、今回みなさんから一番反響があったのが「何かを失うことは何かを得ること」というメッセージだった。会場に来てくれたみなさん、オンラインで参加してくれたみなさんは、それぞれのタイミングで網膜色素変性症を告知され、視力低下の進行でそれぞれたくさんのものを失ってきたのだろうが、それによって得たものにもちゃんと気が付けている人たちだった。きっとその気付きは、JRPSに入会したことが大きなきっかけになっているのだろう。
仲間とつながることで、人は自分一人では気付けなかったことにたくさん気が付くことができるのだ。閉会後はランチタイムで、僕も同じ網膜色素変性症の仲間としてテーブルを囲ませてもらえたのがとっても嬉しかった。
実は同日夜には、ゆいまーるのオンライン侵入会員歓迎会もあったのだが、そこでも改めて素敵な仲間に恵まれていることを感じた。どれだけの勇気を、知恵を、情報をもらっただろう。仲間の存在のおかげで、僕はまた明日も出勤できるのである。
4.研究結果
悲しみがなければめぐり会えなかった人たちだからこそ、喜びを分かち合いたい。
JRPSの更なる発展を、心よりお祈りして。
令和6年10月8日 福場将太