2つの総会 (全編)

 大学進学のために初めて東京へ出たのが1999年。あれから四半世紀が経過した今年、二つの総会に参加するために二週連続で上京する機会に恵まれたのでここにその思い出を。

 まずは5月末、所属している『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』の通常総会。

1.総会の変遷

 ゆいまーるの創設は2008年。日本各地に暮らす会員が一堂に会する機会として、通常総会は年一回、東京と大阪を交互に開催地にしながら行なわれてきた。活動や予算について決議や承認を行なうだけでなく、ゲストを招いての講演会をしたり、施設見学をしたり、何より普段会えない仲間との交流が一番の目的であった。

 そんな貴重な機会である総会が初めて行なわれなかったのが2020年、理由は言うまでもなく新型コロナウイルスの感染拡大だ。しかし翌2021年からはZOOMを用いたオンラインという形で総会を再開、さらに2023年からはリアル会場プラスZOOMというハイブリッドの形式となった。

 怪我の功名と呼ぶべきか、コロナ禍がなければゆいまーるにこれほど迅速にオンラインが導入されることも、総会がハイブリッド化されることもなかっただろう。医療従事者であると同時に視覚障害当事者でもある会員たちにとって長距離移動はネック、オンラインの導入でその問題がクリアされ、総勢数十名の会員が毎年総会に参加するようになったことは大きな革命である。

2.前夜の宴

 今年の開催地は東京。東日本在住の役員を中心に準備を進め、無事に第16回ゆいまーる通常総会は行なわれる運びとなり、僕も現地へ飛んだ。

 現地参加の醍醐味の一つは前夜に開催される懇親会。総会会場近くの『さかな酒場 魚星』に三十名近い会員と関係者が集まった。僕は初めての懇親会参加だったが正直驚いた。これが目の不自由な人たちの宴であろうか。

 全盲の者は弱視や晴眼の者に料理をよそってもらったりメニューを読み上げてもらったりしなければならないが、それもコミュニケイションのよいきっかけとなり、語る、食べる、笑って盛り上がる! よく見えなくても乾杯のコールでグラスを合わせ、口に運ぶまで何の天ぷらかわからなかったり、話しかけていた相手が実はトイレに立っていて空席だったりするのもご愛嬌、それがまた話のタネになる。

 宴も後半戦になるとベテランメンバーのみなさんは見えないはずなのに自由に席を移動してさらに会話を楽しんでいた。僕の席にも来てくださり、再会の握手や初対面の挨拶を交わした。

 不思議である。顔を知らない仲間たちの笑顔がいくつも思い出に刻まれていく気がした。

3.当日午前の部

 2024年5月26日(日)。一夜が明けていよいよ総会当日。会場は大井町きゅりあん。昨年度の参加者はリアルとオンラインが半々といった割合であったが、今回は現地参加者が多数。司会担当の役員の進行で総会は幕を開けた。

 まずは守田代表の挨拶。続いてみなさんの簡単な自己紹介と近況報告。オンライン組の声もまるでそこにいるかのように届いており本当に文明の利器の力は凄まじい。その後は活動報告や会計報告、新役員体制発表などが行なわれ、僕も編集担当として関わった機関誌第8号について完成目途をお知らせした。

 また昨年ご逝去された一人の会員…機関誌の発案者でありゆいまーる創設期の功労者でもある医師…に対して守田代表から追悼と感謝のメッセージが贈られた。そしてこの度守田代表が第17回塙保己一賞を受賞されたことについて、みんなからの祝福が贈られた。さらに国の電子カルテ標準化の動きに対して、ゆいまーる内で行なったアンケートをもとに要望書を提出したことも発表された。

 たくさんの人たちの力添えで歩んできた過去、今みんなで歩んでいる現在、そしてこれから歩んでいく未来。受け継がれてきたバトン、受け継がれていくバトンがゆいまーるにはいくつもあることを僕はみなさんのお話を聞きながら感じたのである。

4.当日午後の部

 お昼休みはみんなで談笑しながらお弁当をいただく。ここでもサポーターの方からお弁当の中身を解説していただくのがなんだか楽しかった。

 午後の前半のプログラムは会員による講演会。オンラインやメーリングリストで交流していた仲間がこれまでどんな道を歩いて来たのか、どんな思いで今を生きているのかを改めてじっくり拝聴するのはとても興味深かった。

 そして後半のプログラムはオンライン導入から高齢となった少人数に分かれてのグループトーク。今年も会場組は運動部・文芸部・グルメ部・レジャー部・音楽部・アニマル部と部活に分かれて趣味の会話に花を咲かせた。オンライン組は人数が少なくフリートークになったが、そこでも視覚障害と日々の業務について活発な議論が交わされていた。

 そして最後は守田代表の挨拶でつつがなく閉会。名残を惜しまずみんなそれぞれの日々へと還って行った。

 ゆいまーるの中では視覚障害を持つ医療従事者は当たり前の存在、自分もそうなら相手もそう。しかし業界ではまだまだ稀有な存在であり、普段の職場では目が不自由な医者は自分しかいない。でもだからこそこういった集いが大切になるのだろう。同じ苦労をしている仲間がいることを実感し、普段遣っている気を遣わずに思ったことを吐き出し、またそれぞれの一歩を踏み出すためのエネルギーをチャージする。

 ゆいまーるはいじけて社会に背を向けるための会ではない。怒って社会と闘うための会でもない。当たり前の社会の一員として、笑顔でいるための会なのだ。

5.研究結果

 懇親会も総会も、支えてくれる事務局の方、サポーターの方のおかげで成立しています。いつも本当にありがとうございます。来年は大阪で会おうぜ!

令和6年5月30日  福場将太