思い出の音楽#11 『恋人』ととんねるず

 先日、とってもとっても胸踊るニュースが飛び込んできました。なんと、とんねるずのお二人が29年ぶりに武道館でライブをすることが決定! いったいどれだけのファンがこの日を待ち望んでいたことでしょうか。僕にとってもとんねるずは人生で一番最初に大好きになった芸能人。企画でレコードを出すお笑いタレントさんはたくさんいらっしゃいますが、お笑いと歌手活動を本当に両立させたのは後にも先にもこのお二人だけ。
 今回は一流のお笑いコンビにして一流の男性デュオという唯一無二の存在、とんねるずの『恋人』をcheck it out!

1.とんねるずについて

 僕の世代はお二人が鮮烈にデビューして芸能界の頂点へ駆け上がる姿は見ていません。物心ついた時にはタカさんとノリさんはテレビの中にいるお茶の間の人気者、特に毎週木曜夜9時の『とんねるずのみなさんのおかげです』は小学校でも大人気で、金曜日の朝はいつもその話題で持ちきりでした。中でも『仮面ノリダー』はバラエティ番組の一つのコントという枠を飛び出して、子供雑誌でも特集が組まれたり、パロディ漫画が連載されたり、グッズが販売されたりと、空前の大ブームだったのを憶えています。休み時間にはテーマソングを口ずさみながらノリダーごっこをする男子がたくさんいました。僕もノリダーだけは毎週欠かさず録画、親戚の家に泊る時にもお願いしてそこで録画、その数十本のビデオテープを擦り切れるほど見ていました。
 子供心にとても印象的だったのが、番組のエンディングでお二人の曲が流れる演出。視聴者から寄せられたノリダーや敵の怪人のイラストのハガキが映し出されるバックで流れる優しくて素敵な楽曲は短い時間でありながら何故だか心が震えるくらい感動しました。また一時期はエンドロールの中でお二人が実際に歌唱する場面が放映され、あれだけおバカなことをやっていた人たちが真剣に一曲歌い上げて番組を締め括る演出はあまりにもかっこよかったです。

 やがて『みなさんのおかげでした』と番組名が変わってもやっぱり木曜日の夜はついつい見てしまうお二人。ただ野去るや矢島美容室などのユニット活動が多くなった分、とんねるずとしてのレコードリリースもライブもなくなってしまいました。
 そして迎えた2018年3月の最終回、一番憧れていたあの頃のように、番組のエンディングにお二人で『情けねえ』を熱唱されたのが本当に本当に嬉しかった。
 あれから六年、ついに今回のライブ開催の告知です。嬉しくないはずがない! できれば久しぶりの新曲リリースもお願いします!

2.『恋人』について

 お二人の楽曲がお笑いタレントさんの企画レコードではなく、れっきとした歌手の作品として成立しているのは、もちろん実力者による作詞・作曲のクオリティの高さもありますが、それに応えるだけの歌唱力・表現力をタカさんとノリさんが持っていらっしゃるから。忙しい中でいったいいつ練習していつレコーディングしてどうやってコンサートツアーまでやっておられたのか、お二人の歌やライブパフォーマンスはそんじょそこらの歌手よりもはるかに上手なのです。

 僕が一番聴いたアルバムは中学1年生の時に発売された『悪い噂』。シングル『情けねえ』と『一番偉い人へ』の社会派ソングの大ヒットの後にリリースされた本作は、ある種のコンセプトアルバムだったのか、シングル曲は一切収録されず、しかも全体を通して「男の美学」が歌われています。『情けねえ』や『一番偉い人へ』で社会への思いを叫んだ主人公が実際にどんな人生を送っているのかを描いているようなイメージで、コミックソングやギャグ要素は一切なし。全楽曲で一人称は「俺」、二人称は「お前」、世間からどう思われても俺は俺、不器用でも孤独でも俺はこの愚かな生きざまで満足、そんな自嘲的ながらも誇らしげな大人の男の姿が歌われています。アルバムジャケットもお二人の顔のアップのモノクロ写真という硬派な物で、もしテレビでのとんねるずを全く知らない人が本作を聴いたら、きっとこういう路線のデュオなんだと思ってしまうでしょう。
 でもそれがとんねるず。ノリダーをやったりモノマネをやったりとお笑いを主軸としつつ、歌手をやっても役者をやっても一流。本当にすごい人たちです。

 さて、そんなアルバムの中において唯一毛色が異なる楽曲がノリさんがソロボーカルを取る『恋人』です。他の楽曲の主人公が渋い中高年のイメージなのに対しこの楽曲の主人公だけは青さを感じる若者。内容も遠距離恋愛の恋人にエールを贈るという爽やかなもので、それはまるで男気と色気の味が濃いフルコースの半ばで振る舞われる清涼シャーベット。おかげで胃もたれせずに最後まで全楽曲を楽しむことができるのです。
 この曲の魅力は何と言ってもノリさんの歌唱力が最大限に活かされていること。伸びやかな高音、確かな音程、躍動感、ちょこっと気取ってさり気なく優しい声質。もうこれはお笑いタレントさんの歌声じゃない! しかもエレキのロックサウンドが多いアルバムの中にあって唯一フォークギターとタンバリンで彩られるアコースティックサウンド。今にして思えば、この頃から僕はギター弾き語りが好きなのかもしれません。
 いやあ、こんなに素敵に歌い上げられると、遠距離恋愛もよいものだと思っちゃいますね!

3.演奏の思い出

 小学生の頃は家族でカラオケに行くと『一番偉い人へ』を歌ってましたが、残念ながらその後もとんねるずの楽曲をバンドでやったことはありません。『情けねえ』や『星降る夜にセレナーデ』は弾き語りでレパートリーにしていますがなかなか再現するのは難しい。
 そして大好きな『恋人』については、何度も挑戦して断念。まずはノリさんみたいな素敵な声が出ない。ノリさんのソロライブのDVDのコマーシャルでこの曲を歌っておられる場面があって大喜びで購入、よしこれでギタリストの指の動きを見てコピーできるぞと思いきや、途中でノリさんがハーモニカを滅茶苦茶に吹いて演奏がハチャメチャに…というお笑い演出。こういう所も含めて、やっぱり一流のエンターテイナー! もう一度独力で『恋人』を練習してみようかな。

 数々のヒット曲・話題曲がある中で、今年の武道館ライブのセットリストが楽しみ。絶対DVDも発売してくださいね!

4.余談

 『情けねえ』の8cmシングルは我が家が一番最初に買ったCDでした。どうやって再生するんだろうとこれまた買ったばかりのCDラジカセの周りに親父やお袋と集まって右往左往してました。輝く銀色の小さな円盤が子供心になんだかとてもすごい物のような気がして、触るのもドキドキしたのは良い思い出です。今の子供たちにはどんなドキドキがあるのかなあ。

令和6年5月24日