人生で一番大好きな、そして一番多く食べている料理がおそらくカレー。朝食がカレーパン、昼食がカレーライス、3時のおやつがカレースナック、夕食がスープカレー、夜食がカップヌードルカレー味でも僕は全然構わない。そんな愛してやまない料理たちについて研究するシリーズの4回目、今回は激辛レトルトカレーの金字塔『LEE』をいただきます!
1.お品書き
かのブラック・ジャック先生も「ボンカレーはどう造ってもうまいのだ」というお言葉を残しておられるが、あたためるだけという簡便さでおいしいカレーを味わえるレトルトカレーは食品業界における偉大な発明であろう。今やボンカレーだけでなく、日本の名店が監修したカレー、インドカレーにタイカレー、スープカレーにキーマカレー、人気キャラクターが描かれたお子様用カレーと、様々なレトルトカレーが店頭に並んでいる。
その中でも10倍・20倍といった激辛を長きに渡って提供し続けているのが『LEE』である。自分が小学校の時から存在しているので少なくとも三十年以上愛され続けている人気商品だ。
そもそも激辛カレーを好きになったのは中学時代、当時はまだ土曜日も午前中は授業がある時代で、友達と広島駅ビルにあった『キートン』というカレー屋で食べて帰るようになったのがきっかけ。この店のカレーのからさはABCの三段階で、一番からいCカレーを注文しようとすると「本当にいいの? やめておいた方がいいわよ」と店のママから激しく制止される。それを説得してようやくありつけるわけだが、正直最初はそのからさで僕も友達も寝込んでしまった。しかし時間が経つとまた食べたくなり、だんだんとからさも克服、高校卒業の頃には余裕で大盛りをたいらげるまでになっていた。同級生の中でも話題になり、一度みんなで押しかけて『キートン激辛カレー大会 水なしで食べれたらチャンピオン』を勝手に開催したほどである。
そんなわけで僕にとっては愛してやまないのだが、一般的には激辛カレーにどれほどのニーズがあるのだろう。辛口ならまだしも、10倍や20倍を好んで食べる人間がそんなにいるとは思えない。しかし全国のスーパーの店頭でLEEがずっとその存在価値を保てていることを考えると、僕のようにLEEを愛する人間は少なからずいるのだ。
実はからさ自慢のレトルトカレーは他にもちょいちょい登場する。しかしLEEほどのロングセラーは滅多にない。どうしてLEEだけが第一線を走り続けられているのか。その理由は一つ、おいしいから。
激辛カレーといってもただからければよいというわけではない。どんなにトリックがすごくても物語として面白くなければ推理小説としては駄作なのと同様、まずカレーとしておいしいことが大前提、その上でいかに激辛を共存させられるかが重要である。実際にからさを高めるとおいしさが損なわれるカレーは少なくなく、LEEの素晴らしさはあの『キートン』のCカレー同様、ちゃんとおいしいまま激辛を実現していることにあるのだ。
さあみなさん、このご馳走をぜひ召し上がれ!
2.レシピ
とはいえ、LEEはかなりからい。慣れないとおいしさよりもからさしか味わえずただ苦しいだけの食事になってしまうリスクも高い。だからからいのが苦手な人があえて10倍や20倍に挑む必要はないと思う。たまに見掛ける5倍でLEEのおいしさを楽しんでいただいて何の問題もない。
ただもしあなたが10倍や20倍を味わいたいとおっしゃるなら、とっておきの方法がある。それはトッピング。トッピングを工夫すれば激辛をマイルドにすることができるのだ。実は僕もプレーンで楽しむなら10倍がベスト、20倍や時々見掛ける30倍はうまくトッピングを用いないと苦しい。むしろトッピングのアイデアを研究しながら色々なおいしさを楽しむのがLEEの醍醐味のように思っている。
そんなわけで今回はLEEにお薦めのトッピングをご紹介しよう。
福神漬け・らっきょう
カレーの定番トッピングはやはりLEEにもよく合う。LEEに添えるとまるで福神漬けやらっきょうがスイーツのように甘く感じ、この甘さでからさを中和することができるのである。らっきょうを一番おいしく味わえる料理は激辛カレーに間違いなく、僕が『キートン』のCカレーを克服できたのもらっきょうのおかげなのだ。
玉子
やはりカレーには玉子。生卵をかけて混ぜることでからさをマイルドにできるし、目玉焼きを添えるのもおいしい。また茹で玉子を添える場合は一緒にマヨネーズかタルタルソースを添えるのもよい。茹で玉子のために添えたように見せかけて、実はマヨやタルタルがLEEのからさを中和してくれるのだ。
ツナ・ミートボール
ツナはそのまま添えてもよいが、一緒に煮込むのが美味。小鍋にツナとLEEのルーを入れてコトコト煮込む。時間がなければ電子レンジでもよい。そうすると焼きカレーのような食感で溶け込んだツナによって適度にからさが中和された非常にコクのあるカレーになる。同様にミートボールを一緒に煮込むのも美味なのでぜひお試しいただきたい。ちなみにツナとミートボールのアイデアは『キートン』からの拝借である。
ポテトサラダ
ポテトサラダを添えるのもおいしい。むしろ添えるというよりもごはんの代わりにポテトサラダにLEEのルーをつけて食べてみるのも格別。作り過ぎて余ったポテトサラダはLEEで食べよう! マヨラーにとってLEEは最高の相棒!
スライストマト
激辛カレーにはスライストマトの酸味とみずみずしさがとてもよく合う。先日のNHK北海道のテレビ番組『北海道道』でも僕がトマトを切ってごはんに添え、自宅でLEEを味わうシーンが放映されたが、まさにそれである。角切りよりもスライスの方がルーと絡みやすいのでぜひお試しいただきたい。ちなみにこのスライストマトのアイデアは、かつて新宿駅東口にあったカレー屋『ガンジー』からの借用である。大学卒業後の放浪時代の数少ない心の癒しだったなあ。
ホルモン
ちょっと手間がかかるがホルモンとLEEというのもおいしい組み合わせだ。スーパーで売っている豚ホルモンをフライパンで適度にあぶってから小鍋でカレーのルーとコトコト煮込んで出来上がり。ホルモンの甘味が溶け出してからさを中和し、歯応えあるLEEを味わうことができるのだ。ちなみにホルモンのアイデアは、大学時代に通い倒した西新宿のカレー屋『もうやんカレー』からの借用である。
洋食ミックス
トンカツやエビフライ、ハンバーグは定番だが、ホタテフライや白身フライ、ウインナーやナポリタンなどを添えるのもおいしい。ただこれらを用意するのは大変なので、思い切ってコンビニで洋食弁当やミックスフライ弁当を買ってきて、それにLEEのルーをつけながら食べてみていただきたい。コンビニ弁当もLEEを沿えればご馳走に大変身!
焼うどん
もはやトッピングではないが、ごはんではなく焼うどんにLEEのルーをかけて食べるのも実はおいしかったりする。LEEのからさとお好みソースの甘さがうまく中和するのだ。このアイデアも『もうやんカレー』からの借用だが、騙されたと思ってお試しいただきたい。きっとあなたの人生で新しい扉が開かれるだろう。
3.思い出
とまあ、LEEには色々な味わい方があり、そこには僕がこれまで好きだったカレー屋の思い出が反映されている。また小学生の頃、まだ母親が寝ている日曜日の朝に初めて自分で用意した朝食もやはりLEEであった。炊飯器のごはんをよそって、目玉焼きを焼いてそこに乗せて、別容器にあたためたLEEのルーというシンプルな物であったが、子供心に不思議な達成感があったのを憶えている。新型コロナにかかった後、LEEの風味が戻った時にたまらない幸福を感じたのも生きている証。
今でもスーパーに行ったらついLEEの10倍と20倍を買い込んでしまう日々。もしみなさんにもLEEのトッピングで面白いアイデアがあったらぜひぜひ教えていただきたい。
ちなみにこの研究コラム、『激辛』は漢字で書いているのに「からい」は平仮名になっているのを不思議に思った方もおられるかもしれない。その理由は一つ、僕のように音声ソフトで読んでいると「辛い」と漢字で書いたら「つらい」と読み上げてしまうから。LEEはからいけれど、けっしてつらいカレーではないのだよ、フフフ…。
令和6年4月19日 福場将太