2023年11月22日(水)、国際医療福祉大学大学院の東京赤坂キャンパスで行なわれている公開講座『乃木坂スクール』でお話をさせていただいた。この『前例を超える前例を創る』というシリーズでは、生きた教科書に学ぶというコンセプトで色々な業界の色々な立場の人たちが講師となって登壇しており、その一人としてお招きいただいたのは本当に光栄である。
今回は有料の講座ということもありセットリストも含めてここで内容をネタバレすることはできないが、少しだけ思い出を綴っておきたい。
■演題
全盲の精神科医になって見えたこと、広がった視野
1.五年間の集大成
演題は今回の講座のコーディネーターである教授が考えてくださったもの。今年の8月にNHK北海道に取り上げていただいた際の映像をご覧いただき、このように書いてくださったのだが…正直自分はそんなにすごくない。他の精神科医より秀でた何かを持っているわけでもないし、何かを成し遂げたわけでもない。だから僕が話せることとしては、こんな奴もいるんだということくらい。
思えばちょうど五年前、2018年11月に山梨で登壇した講演が全ての始まりだった。眼科医をしておられる大学時代の先輩のはからいで初めて視覚障害をオープンにして行なった講演、僕の人生にとって終わりと始まりの講演。
あの日から点を線でつなぐように出会いが次の出会いを呼び、精神科医という支援者、かつ視覚障害の当事者という立場での講演のチャンスをいくつもいただいた。今回は自身最長の90分枠ということもあり、まさにこの五年間の集大成というべき内容となった。
2.二十三年前からのエール
一つだけネタバレをすると、今回の内容で初めてスライドに取り入れたフレーズは「中途半端でもMedical Wars」。なんじゃそりゃ、と思われる方が大半だろう。これまで取り入れなかったのも当然だ、これは本来学術講演の中で出てくるようなワードではない。なにせ大学時代の音楽部で作った曲のワンフレーズなのだから。
医学生の悲哀を歌ったコミックソング『Medical Wars』。当時どうやって作ったかも全く憶えていない。それくらい良くも悪くも力の入っていない適当な曲だったのだが、実際に仕事を始めた後、視力が低下して継続を迷っていた時だ。こんな中途半端な自分は医療を続けるべきじゃないんじゃないか、きっと無理だ…そんなモヤモヤを痛快に吹き飛ばしてくれたのがこの曲の音源だった。20歳の自分は高らかに「中途半端でもMedical Wars」と歌っている。なんだかそれがおかしくて、肩の力がすっと抜けた気がした。
これは今回の講座が終わって北海道へ戻ってから気付いたことだが、『Medical Wars』をバンドで初めて披露したのが2000年の奇しくも11月22日だった。新宿のヘッドパワーというライブハウスでヘタクソな歌で「中途半端でもMedical Wars」と叫んでいた自分が、二十三年後の同じ日にそのフレーズを用いて大学院で公開講座をしているなんて誰が予測できよう。成長がないにもほどがあるが、やっぱりこれからもあのライブ音源は時々聴きたくなってしまうのだろう。
3.研究結果
エビデンスのない独りよがりな長い話を聴いてくださったみなさん、本当にありがとうございました。教室での質疑応答や放課後の座談会でみなさんと交わした言葉に多くの励みと学びをいただきました。
何か一つでも、みなさんが普段探しておられる物を見つける手掛かりをお示しできていたら嬉しいです。
令和5年11月25日 福場将太