第10回鹿児島ロービジョンフォーラム

 2023年10月28日(土)、鹿児島ロービジョンフォーラムからのご依頼を受けてオンライン講演を行なった。鹿児島には行ったことがないのでぜひ足を運びたかったが、今回は自宅の部屋からの配信で心だけを九州の地へ飛ばした。

■演題

 当事者の満足と支援者の使命

■セットリスト

 第一章 自己紹介
 第二章 精神科における回復
 第三章 眼科における回復
 第四章 支援者の心得
第五章 まとめ

1.働きかける支援者

 今回講演を聴いてくださったのは支援者、医療や教育の現場で視覚障害を持つ当事者に関わっておられる方々だ。まずお話したのは『障害とは何か』ということ。僕は精神科では障害を診断する立場、眼科では診断される立場だが、障害とは何かという基本中の基本が実は永遠のテーマだったりする。
 精神障害と視覚障害、障害の種類としては異なっているが、どちらも病状があるかないかという『疾病性』より、社会生活への支障があるかないかという『事例性』の方が重要という点は共通している。そのため患者の事例性に着目し、臨床的な回復だけでなく社会的・心理的な回復に目を向けて来た精神科医療のエッセンスが眼科医療でも活かせるのではと思い、自分なりの考えをご紹介させていただいた。

2.動き出さない当事者

 自分の講演で今回初めて取り入れてみたのが上述の第四章である。当事者の中には回復のための活動に踏み出せなかったり、拒否してしまったりする人も少なくない。自分自身も持病の網膜色素変性症を診断されてすぐに受け入れられたかというと全くそんなことはないし、当事者の集いに足を運ぶ気持ちになるまでには長い年月がかかった。自分の働く道を見つけるにはさらに長い時間がかかった。

 支援者がいくら働きかけても今は動き出せない当事者もいる。それはそれでよいと思うし、動き出すタイミングもスピードも方向も人それぞれなのが当たり前だ。
 ただ時間が経過してしまうと失われる回復のチャンスもあるのは確かだし、支援者自身にも人生の事情があるからいつまでもその当事者に関われるとは限らない。だから支援者はつい焦ってしまい、早く何とかせねばと思ってしまいがちだ。

 どんな言葉を掛ければよいのか、どんな力加減で押せばよいのか、そもそも支援が必要なのか…そんな迷いや葛藤が支援者にはつきまとう。今回僕がお話できたのはこのテーマを考える上でのほんの些細なアイデアだけ。まだまだ偉そうにお伝えできるレベルに達していないのは話しながら実感したし、むしろ講演の後の質疑応答で参加者のみなさんから教わったことが多かった。

3.クロスオーバー

 サザンオールスターズに『愛の言霊』という楽曲がある。これは僕が人生で衝撃を受けた曲のベスト3に入るのだが、ラテンのリズムにロックなサウンド、そこに日本のお祭りの合いの手が入ったりインドネシア語のラップが入ったり、さらに歌詞の舞台は鎌倉でテーマは言葉に宿る魂だったりと、もはや一つのジャンルで説明できない難曲、しかしだからこそ他では味わえない魅力を放つ名曲となっている。きっと様々なジャンルの音楽のエッセンスがたくさん混ぜ合わさって結実しているのだろう。

 医療もそうあれたらと思う。僕はたまたま支援者として精神科、当事者として眼科に足を突っ込んでいるが、この二つの科を見ても育っている技術や倫理はそれぞれ異なる。時に衝突もし得るが、やはり異文化との交流が成長の近道。今後も自身のこの中途半端な立ち位置を活かして、当事者と支援者、精神科と眼科、それぞれの良いエッセンスを取り入れるクロスオーバーに少しでも貢献できたらと思う。

4.研究結果

 今回の講演でまだまだ自分に足りない知識、そして視覚障害の当事者支援で求められている技術が何なのかを認識できました。もっと知識や技術を身に付けていずれ鹿児島に遊びに行きたいです。ありがとうございました!

令和5年10月29日  福場将太