思い出の音楽#10 『最後の女神』と中島みゆき

 学生時代の音楽部の先輩がこんなことをおっしゃっていました…「音楽には2種類しかありません。好きな音楽と大好きな音楽です」。ロックも歌謡曲もジャズもユーロビートも好きな僕ですが、やはりギター一本で弾き語れるフォークソングというものが大好きです。そしてギターをつま弾きながら想いを歌うシンガーソングライターという存在に強く憧れます。
 今回は日本最高峰の女性シンガーソングライター、中島みゆきさんの『最後の女神』をcheck it out!

1.中島みゆきさんについて

 出会いは中学時代、当時大ヒットしていたテレビドラマ『家なき子』の主題歌『空と君のあいだに』を歌っておられたのがみゆきさんでした。どうしてもフルコーラス聴きたくなってシングルCDを購入、せつなくて儚くて力強い表題曲はそれこそ擦り切れるほど聴きましたが、カップリング曲の『ファイト!』はそれとは歌い方もサウンドもまるで違い、これが同じ人の作品ということに驚かされました。自作の『旅人のうた』の歌詞にも衝撃を受け、みゆきさんへの興味が高まっていた頃にベストアルバム『大吟醸』がリリース、高校生になっていた僕は迷わず購入しました。
 この『大吟醸』は人生で一番聴いたアルバムの一枚だと思います。珠玉の作品が新旧たくさん収録されており、ちょうどギターに夢中になっていた頃でもあったので、サザン・ミスチルと並んで弾き語りブックが手垢で真っ黒になるまで練習しました。

 またラジオをやっておられることも知り、毎週日曜日の夜11時には『中島みゆき お時間拝借』も聴くようになりました。独特の節回しでハイテンションだったりおちゃらけたりしながら話すみゆきさん、声もキャラクターも歌とは別人でそのギャップにまたびっくりでした。
 番組の中で印象に残ったのは「決定! 97 中島みゆきベスト20」という企画。リクエストを集計して人気曲を発表する内容でしたが、リスナー一人一人が自分の生き方や思い出と重ねて「この曲のこの歌詞に元気をもらいました」とハガキにしたためているのを聴いて、みゆきさんの音楽は言葉を届けているんだな、それでたくさんの人の心を支えてきたんだなと感動を覚えました。
 発表されたベスト20には『大吟醸』には未収録の曲も多く、そこからは過去のみゆきさんの作品も遡りながら、新作も追いかけるようになりました。

 21世紀になっても、みゆきさんの音楽は時代の中に力強く楔を打ち込んでいきます。ストリングスに包まれた和風だったり、エレキギターが激しい洋風だったり、サウンドは色々でも源流は言葉を届けるフォークソングというのがやっぱりみゆきさんの音楽。常に前進を続けながらも変わらぬスタンスが素敵ですね。
 2020年のファイナルツアーがコロナで中段してしまったのは本当に残念でしたが、そのライブCDには僕が愛聴した曲も含まれていて、その情熱と歌唱力に圧倒されました。これからも心を支える言葉を届け続けてほしいです。

2.『最後の女神』について

 みゆきさんの曲にはいくつかの世界観があります。『時代』『誕生』のような癒しの曲、『悪女』『慟哭』のような恋唄、『命の別名』『永久欠番』のような情念の曲、『昔から雨が降ってくる』のような諦観の曲、そして『ファイト!』『Maybe』のような勇気の曲です。そしてほぼ全ての曲に滲み出ているのが孤独のイメージではないでしょうか。

 ラジオでは明るくお茶目なみゆきさん、コンサートでは威風堂々のみゆきさんですが、いつも孤独の影をまとっておられるように僕は感じます。それは寂しさだけでなく、美しさや気高さ、誇らしさにも通ずる孤独。自分の苦労話など全くされないみゆきさんは、きっと言葉を紡いで曲を生み出すことで自分自身の命を支えているのではないか、だからその歌詞が多くの人の心を打つのではないか、とそんなふうに思えるのです。
 みゆきさんの曲でよく用いられているのが『旅』や『旅人』という言葉。人生は旅、生きる者は旅人。優しい望郷の想いであたためてくれたり、力強い鼓舞で背中を押してくれたり、みゆきさんの曲は孤独な旅にそっと寄り添ってくれます。同じ歌詞を何度もくり返すことでどんどん深みが増していくのもみゆきさんの曲の特徴ですが、これも一歩ずつ踏みしめながら足を進める旅人の姿と重なる気がします。

 そんなわけで大好きな曲があり過ぎて一番を決めるのが本当に難しいのですが、不思議な魅力を放つ『最後の女神』をフェイバリットに選びたいと思います。
 「一番最後に見た夢だけを人は憶えているのだろう」という冒頭の歌詞から引き込まれ、「壊れたおもちゃ」や「SOSの波」といった記憶と心を揺さぶる描写が続き、サビでは「ああ あれは最後の女神」と歌い上げる。「してみないか」と呼び掛けたり、「いるだろうか」と投げ掛けたり、「何故にゆけるの」と問い掛けたり、この曲の主人公の立ち位置はよくわかりません。そもそも最後の女神とは何を表しているのか、誰が誰に向けて歌っているのか、癒しなのか鼓舞なのか、諦観なのか恋唄なのか、この曲はわからないことだらけです。
 抽象的な歌詞は苦手な僕なのですがどういうわけだかこの曲はすっと心に入ってきました。女神、おもちゃ、ロケット、鳥、SOSなど、用いられているワードも不思議な取り合わせで、宗教的なようでSFなようで、和風なようで洋風なようで、でもそれら全てがあたたかく溶け込んでみゆきさんワールドの集大成になっているように僕には思えます。
 「ああ あれは最後の女神 紛れもなく君を待ってる」…くり返せばくり返すほど深まる素敵な歌詞ですね。誰かを元気づけているようで、自分にも元気が湧いてくる…完全な前向きじゃなくても人はまたそうやって歩き出せるのでしょう。

3.演奏の思い出

 大学1年の時、所属していた音楽部で『空と君のあいだに』をやりました。バンドで演奏したのはこの曲が唯一ですが、病院に就職してからはデイケアで『時代』『悪女』『麦のうた』などを患者さんたちと一緒に弾き語りで合唱しました。さすが北海道、みゆきさん人気はすごいものがあります。
 そして趣味の弾き語りでは『最後の女神』を筆頭にみゆきさんの楽曲をいくつも演奏しています。思えば女性シンガーでは一番たくさん曲を記憶しているかもしれません。『最後の女神』はやっぱり元気が出ます。『旅人のうた』は情熱が湧きたちます。『瞬きもせず』は生きててよかったと思えます。そして『悪女』は寂しささえも強がる楽しさに変えてくれます。
 いくつもの感動を本当にありがとうございました。これからもみゆきさんの紡いでくださった言葉たちを引き連れて旅を続けたいです。

4.余談

 高校時代に録音したラジオのテープは今でも大切に保管しています。久しぶりに聴いてみると、当時リスナーからのお便りはハガキとFAXで募集、さらに『見えるラジオ』なんて代物があったことも思い出しました。どうしてでしょうね、テレビやネット配信よりも、やっぱりフォークシンガーはラジオというメディアが一番合っているように思います。

令和5年4月7日  福場将太