第32回 ロービジョンケア講習会 視覚障害者の心理

 2023年1月7日(土)、今年の僕の活動はオンライン講演から始まった。主催は山梨県視覚障害を考える会、テーマは視覚障害を持つ人たちの心理。つまり眼科の講習会でありながら目ではなく心にスポットを当てた内容であった。

1.帰ってきたぞ山梨

 これまで行なった講演の中で一番印象に残っているのが2018年11月18日に山梨で行なったものだ。
 持病の網膜色素変性症が進行してもはや医者の仕事は無理かとあきらめかけた時、『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』と出会って就労継続のヒントを得た僕は、やがてそのゆいまーるがきっかけとなって学生時代の先輩・通称和尚さんと再会した。眼科医をしておられる和尚さんに自分の現状を伝えたところ、今度一緒に眼科の講演会に出ようと誘ってくださった。そして初めて自分の視覚障害を全面に出して人前で話をしたのが2018年11月18日の山梨、精神科医の僕が眼科の医療に携わった瞬間であり、今から思えば僕の第2の人生が始まった瞬間でもあった。この辺りの詳細は2019年1月の『終わりと始まりの講演』という研究コラムに詳しいのでよろしければそちらもご参照いただきたい。

 この講演をきっかけに、僕は視覚障害者のメンタルケアに興味を持つようになった。また僕のような中途半端な存在でも医療の業界で役立てることがまだあるかもしれないと思うことができた。そうこうしているうちに神戸アイセンターを拠点に活動する『公益社団法人 NEXT VISION』にも加えていただき現在に至っている。

 そんなわけで和尚さんにはどれだけ感謝してもしきれないわけだが、今回の講習会は再びその和尚さんからのオファー。しかも舞台はあの時と同じ山梨。この五年間で少しは成長したところを見せねばと張り切って登壇に臨んだわけである。

2.心の医療と目の医療

 今回登壇したのは二人、まずは心理の先生がお話をされ、次が僕だった。正直事前に内容の照らし合わせをしていなかったので、全く別方向のメッセージになってしまったらどうしようと少々ヒヤヒヤしながら心理の先生の講演を拝聴したが、驚くほど僕が伝えようとしていたことと同じエッセンスが含まれていた。かといって内容が大きくかぶっているというわけではなく、大切にしていることは同じながらも、心理の先生は特に『障害受容』をキーワードにして、当事者の心理や支援者の働きかけの力加減を説いておられ、大変勉強になった。

 続いて僕の番。精神科と眼科、二つの医療の架け橋となるべく、今回も支援者と当事者の両方の視点からお話をさせていただいた。臨床的回復・社会的回復・心理的回復という精神科では常識の『3つの回復の視点』をあえて眼科に当てはめて、社会的回復の鍵となる『カミングアウト』と、心理的回復の鍵となる『イマジネーション』をキーワードとしてお示しした。精神科で発達したSSTやアサーショントレーニングというコミュニケイションの訓練技法も紹介し、眼科のリハビリテーションにも流用できるとメッセージしてみたが…いかがだったのだろう。ポカンの視聴者もおられたかもしれないが、それでもまずは最初の一石のつもりで投じてみた。後で感想アンケートを拝読すると、SSTやアサーションというワードに反応してくれている人たちがちゃんといてほっとした次第である。

3.新しい時代へ

 閉会の後で和尚さんと話したが、十年前にはそもそもこういう心のケアに目を向けた眼科のイベント自体が存在しなかったという。眼科医の仕事は病気を治すことであり、目が見えなくなってもう治しようのない患者は眼科に通院することすらなくなり、その後どうしているのかは把握しない眼科医も多かったそうだ。
 その点精神科は治癒しない疾患も多いのでずっと外来で患者に関わっていくのが当たり前、治すよりもケア、医療よりも福祉のカラーが強い。
 この五年間、中途半端ながら眼科の世界に関わらせていただいて、眼科も治すことだけに囚われず患者の社会的・心理的な回復を目指す、医者もそこに関わっていく新しい時代が来ようとしているんだなと肌で感じている。
 和尚さんからは「眼科を俯瞰して語ってくれた」と言っていただけたが、もちろん精神科が眼科より進んでいるということではない。福祉のカラーが強いのは確かだが、こちらが眼科の医療に見習わなければならない、遅れている所もたくさんある。自分自身も多くの課題に気付かされた講習会だった。

 ちなみに今回の企画、和尚さんも驚いておられたが、パブリックビューイングとオンラインを合わせて200人にも届く予想以上の参加申し込みがあったそうだ。これはもちろん一緒に登壇した心理の先生のお力も大きく、またこのテーマについての期待・関心が当事者にも支援者にも高まってきている証なのだろう。
 そんな時代の中で、精神科と眼科、愛しい二つの医療に携われることを幸福に思う。

4.研究結果

 今回、五年前の講演の時もスタッフをしてくれた人とも再会できた。憶えていてくれて本当に有難い。もっと良い講演ができるよう腕を磨いて、いずれリアルでまた山梨で話したい。

令和5年1月7日  福場将太