あなたには故郷に帰省したら必ず食べたくなる料理があるだろうか。愛してやまない料理たちについて研究するシリーズの2回目、今回は実家の定番メニューの一つ、『ナマコ酢』をいただきます!
1.お品書き
瀬戸内海の穏やかな波、そこにはナマコで埋め尽くされた砂浜の光景を時として目にする。言うなればナマコオンザビーチ、正直それはあまり気持ちの良いものではないし、ナマコのフォルムを見て食欲がそそられることもないのだが、実はナマコはなかなかにして美味である。もちろん砂浜のナマコを拾って食べることはなくちゃんとスーパーで買う。
ナマコの一番の魅力はその食感。コリコリしていて歯ごたえがよく、焼き肉のホルモンやお刺身のミル貝が好きな方ならきっと気に入るに違いない。そんなナマコを使った料理・ナマコ酢は、ナマコの食感に酢の酸味と大根おろしの苦みが調和した素朴でさっぱりとした一品。少し重たいメインディッシュの隣に添えると、食事全体に清涼感と磯の風味を与えてくれる名脇役だ。さあみなさん、このご馳走をぜひ召し上がれ!
2.レシピ
広島の実家では冬のテイバンメニューだったこの料理。便宜上、『もずく酢』に倣って『ナマコ酢』と書いたが正式名称は知らない。正直これ以外の調理法でナマコを食べたこともない。
今回正月に帰省した時に母親に調理法を教えてもらったらだいたいこんな感じである。
手順① 生のナマコを買ってきて洗って小さく切る
すでに切った状態で売られている場合もあれば、年末年始など買う人が多い時期は砂浜で見るあのままの姿で売られてもいるそうだ。その場合はナマコのお腹を包丁で裂いて内臓を取り、目のような部分も取り、あとは残った部分を一口サイズに小さく切る。
手順② 味付けして出来上がり
大根おろしとあえて、甘酢・砂糖・ポン酢などで味付けしたら出来上がり。もずく酢と同様に山盛り食べる物ではないので、小鉢で盛るのがちょうどよし。
以上、あまりにシンプルではあるがこれが全てである。にも関わらず、これまで僕は実家を出た後、東京でも北海道でもこの料理を作った経験がない。
理由は簡単、ナマコが売っていないから。つまり手順①が踏めないのだ。まあ東京の頃は真剣に探し回ったわけでもないので正確には言えないが、少なくとも北海道のスーパーでは見かけない。道産子の友人に尋ねても、飲み屋のメニューで見たことはあるが食べたことはない、もちろん家庭料理で出たことなんかないという。日々の食事でナマコを食べるのは瀬戸内特有の文化なのだろうか?
3.思い出
そんなわけで実家に住んでいた高校時代まではしょっちゅう食べていたナマコ酢、以降食べることができるのは年に一回正月休みに実家へ帰省した時だけなのが現状。それでもあのコリコリを口に含むと懐かしい味が広がり、まだ若かった両親や幼かった妹と一緒に夕食を囲んでいた光景が蘇る。
この度の帰省で実はこれ、亡き祖父の好物であったことが判明。派手や贅沢に興味がなかった祖父、住まいも衣服もいつも地味だった祖父だけど食べる物にはこだわりを見せていたらしく、このナマコ酢もその一つだったというわけだ。
仏壇に手を合わせながら、祖父から受け継いだこの好物を大切にしたいと思った。
令和5年元旦 福場将太