普段何気なくテレビを点けるということがあまりないにも関わらず、今年はやけにこの人たちの姿を目にすることが多かった。頻繁にテレビに出る人たちじゃないのでどうしたんだろうと思っていたら、今年は彼らのデビュー30周年だそうだ。
僕にとってはサザンと並んで学生時代に一番ギターを練習し、一番歌詞と譜面を暗記したバンド。今回はそんなMr.Childrenの『雨のち晴れ』をcheck it out!
1.Mr.Childrenについて
出会いは高校1年。世間の流行に疎かった僕はやっとサザンやビートルズを聴き始めた頃で、ミスチルが社会現象になっていても当初は全く興味を持っていませんでした。夢中になるきっかけをくれたのは一緒に音楽をやっていた憲司くんで、彼が『深海』というアルバムを貸してくれたのです。
しかしいざラジカセで再生してみると、始まったのはザブンと何かが海に飛び込んでさらにブクブク沈んでいく音声。これが今世間で噂のミスチルなのか? と、わけがわかりませんでした。水音が終わって歌が始まっても暗く陰鬱な雰囲気で、「左脳の片隅で君を待ってる」なんて言われてもあまりにも難解、心躍らせる音楽とはほど遠かったです。
しかし聴き進めていって『名もなき詩』が流れた瞬間に心臓を撃ち抜かれました。これまで知らなかった感触の音楽、『虜』という曲が流れる頃にはもうミスチルの虜になっていました。
そこからは過去のシングルやアルバムを集めるようになり、同級生たちのミスチルトークにも参加、仲間内ではセカンドアルバムの『KIND OF LOVE』が特に人気で、休み時間もみんなで口ずさんでいました。そしてミスチルの他の楽曲をたくさん知ってからまた改めて『深海』を聴くとそのすごさを実感、珠玉のコンセプトアルバムだったんだと理解できました。
すっかりファンになった僕はその後も新曲をを追い続け、昼休みに学校の廊下で音楽仲間と演奏する曲もミスチルが最多、ギタースコアは手垢で真っ黒になりました。
活動休止発表には驚きましたが、そのさなかに発表された『ニシエヒガシエ』にはもっとびっくり。サウンドもプロモーションビデオもCDのジャケットのおばさんもとにかく強烈。そして『終わりなき旅』で更なるパワーアップを見せつけるような活動再開。本当にミスチルは毎回次はどんな手で来るのか、その予想外の衝撃が楽しみなバンドでした。
大学時代も音楽部のバンドで何度も演奏。他大学のライブを観に行ってもしょっちゅうミスチルのナンバーが登場、女の子バンドが『イノセントワールド』や『everybody goes』をやっているのはとても新鮮でした。
社会人になってからも新譜は必ずチェックし、ライブDVDもいくつも購入。ミスチルのセットリストは毎回巧みで、新曲の合間にふっと懐かしい曲を挟んでくれたり、最高潮に達したかと思ったところでさらにもう一発が来たりして、お客さんを飽きさせない魅力に溢れていました。
そういえば結婚式のBGMでもミスチルの曲は常連。妹は『365日』、従兄弟の姉ちゃんは『優しい歌』をチョイスしていました。
そんなこんなで気付けばもう30周年。やっぱりかっこいい桜井さん、お調子者のJENさん、無口で冷静な田原さん、なんだか可愛いナカケイさん。高校時代からの最高のメンバーでこれからも素敵な音楽を作り続けてください!
2.『雨のち晴れ』について
桜井さんのソングライティングのすごさは、これだけ膨大な文量を飽和させずにリスナーの心に注入してしまうこと。『名もなき詩』然り、『終わりなき旅』然り、『GIFT』然り、『HANABI』然り、弾き語りのフォークソングならまだしもバンドソングの歌詞としては文字数が過剰。しかもミスチルの曲は1番のサビと最後のサビで微妙に言葉を変えてある場合がほとんど。
これじゃあ憶えるだけでも一苦労…となりそうなのに不思議や不思議、すっと心に入って記憶に定着するのです。実際コンサートで合唱しているファンは何十曲も歌詞を暗記しているわけで、それができるのはもちろん心を打つ詞そのものの素晴らしさでもあり、メロディの乗せ方のうまさでもあり、そしてこれ以上言ったらくど過ぎる・頭に入らなくなるぞというギリギリを狙った仕上げの巧みさのなせる業なのでしょう。
また甘いラブソングや攻撃的なロックナンバーも十八番のミスチルですが、一番の本領発揮はちょっと後ろ向きな応援歌。『東京』然り、『ラララ』然り、『my life』然り、『彩り』然り、『イミテーションの木』然り、ミスチルは夢は必ず叶うからなんて言わずに、でももうちょっとだけ頑張ってみようかなって気にさせてくれる。そのメッセージはとても等身大で、だからこそ多くの人の心に響くのだと思います。
膨大だけど飽和しない歌詞、等身大のエール。この二つの魅力を併せ持つ曲として僕は『雨のち晴れ』が大好きです。単調で惰性的な毎日を送る主人公があきらめそうになりながら、でもやっぱり未来をちょっぴり期待しながら、ほのかな自負と臆病な勇気で「今日
は雨降りでもいつの日にか虹を渡ろう」と歌う姿が優しくあたたかい。
ライブで演奏されることは少ない曲ですが、ステージをオフィスに見立て、桜井さんが主人公のサラリーマンに扮して披露された時の映像は今でも心に焼き付いています。ドラマみたいなことは滅多にないけど、それでも少し夢も見ながら、溜め息だってつきながら、大切な人を思いながら、みんな平凡な毎日を頑張っているのです!
3.演奏の思い出
高校時代はアルバム『Atomic Heart』『深海』『ボレロ』の楽曲をとにかく仲間と弾き語りしてました。中でも『ALIVE』という曲は毎回熱が入って何度もギターの弦を切ってました。大学時代の音楽部でも『LOVE』『花言葉』『友とコーヒーと嘘と胃袋』『Dance Dance Dance』などなど、色々バンドで演奏しました。
現在もやっぱり『名もなき詩』『横断歩道を渡る人たち』『everybody goes』そしてもちろん『雨のち晴れ』といった、歌詞の文字数の多い曲を弾き語りで歌うのが大好きです。
また「誰かのために生きてみたって」という歌詞が強烈で大ヒットした『Tomorrow never knows』ですが、本当に「世のため人のため」という意識が乏しい時代になった今歌うと考えさせられてしまいます。そして精神科医としては『口がすべって』がお気に入りで、これもたまに無性に弾き語りしたくなります。
4.余談
サザンがLove& Peace、ZARDが清涼感、というようにバンドにはそれぞれの持ち味があります。そうなるとやっぱりミスチルの持ち味は苦悩と葛藤。デビュー当時は爽やかなナンバーが多かった彼らは、少しずつ生きることや愛することについて哲学的な詞を歌うようになり、それが見事にバンドのカラーとマッチングして不動の人気を確立しました。思い悩む曲をかっこよく演奏させたらミスチルの右に出る者はいません。
ただデビュー30周年を迎え、年齢的にも社会的にも完全にチルドレンから大人になったミスチル。どうしても苦悩や葛藤というのは若者だからこそ輝くモチーフ。これからのミスチルがそれでもこのテーマを追究していくのか、それともどこかに到達して新しいテーマを広げてくれるのか、とっても楽しみです。
令和4年11月12日 福場将太