改めまして、ゆいまーる

 みなさんは目が見えない医療従事者がいることをご存じだろうか。それも一人や二人ではなく、日本中にたくさんいることをご存じだろうか。そんな仲間が集まる『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』に所属してもう十年近くが経つ。先月第14回総会が開催されたこともあり、改めてゆいまーるへの思いを綴っておきたい。

1.ターニングポイント

 視力低下が進行して仕事の継続に悩んでいた頃、全盲の精神科医がいることを知った僕は直接その先生を訪ねてみた。そして紹介されたのがこの会の存在であり、期待と不安を半分半分で後日総会に足を運んだのが出会いである。あの日あの時あの場所へ足を運んでいなかったら、現在は全く違う毎日だったと断言できる。
 あの日の一番の感想は「目が悪い医者はこんなにいるんだ」ということ。自分だけが特殊なんてのは大いなる思い上がり、同じ道の上で僕より前を歩いている先輩はたくさんいた。そして医者だけではなく、視覚障害を持ちながら医療・福祉職に携わっている、携わろうとしている人たちはたくさんいた。それがわかっただけでもなんだかパワーが湧いてくるから不思議なもので、僕は帰宅後すぐに正式な入会希望の連絡をしたのである。

 そこからはもっと不思議なご縁に恵まれた。ある時はゆいまーるの企画した講演会の講師に見覚えのある名前が。学生時代の同期であり、今や眼科医・産業医として全国を飛び回る三宅琢くんだった。またある時はゆいまーるの関東地方会に眼科医として活躍されている学生時代の先輩・通称和尚さんの姿が。この二人との再会が僕にとって生き方を変える大きな転機となり、このサイトの立ち上げ、『公益社団法人 NEXT VISION』への参加、ひいてはその後の講演活動にもつながっていったのである。

 そんなわけで人生のターニングポイントを与えてくれたゆいまーる。ただ北海道暮らしなので東京や大阪で開催される集まりには滅多に顔を出せず、普段はメーリングリストに参加するのが会員としての主な活動だった。
 距離が一気に縮まったのはコロナ情勢になってから。必然的にオンラインでの交流会や勉強会が増え、以前よりも頻繁に会員のみなさんとお喋りできるようになった。パソコンの画面では相手の表情がわかりにくいなんて話も聞くけれど、ゆいまーるのメンバーは僕も含め普段から相手の顔が見えない状態で会話を楽しむ術を持ち合わせている。そんなバリアバリューも作用したのか、オンラインミーティングの導入はゆいまーるにとっても僕にとっても大きな進化となった。以前は数年に一度しか会えなかった人たちと年に何度も触れ合える、笑い合えるようになったのである。

2.同じ苦労の共有者

 そんなわけで今年の総会も昨年に引き続きオンラインで開催。北海道から沖縄まで、日本各地から集って参加者数は過去最多となった。プログラムは簡単な自己紹介から始まり、活動報告と事務的な連絡、そして会員によるミニ講演会と続き、午後からは少人数に分かれてのグループミーティングと進んだ。グループミーティングも昨年に引き続き二度目の試みである。

 その前半は仕事トーク、職種別のグループに分かれた。僕はドクターグループに入ったが、お互いの困りごと、不安、対処法のアイデアなどが持ち寄られた。道を模索している仲間には少し先を歩く仲間からあたたかいエールが贈られた。そしてお土産として実用的な知恵と小さな勇気をもらった。
 後半は趣味トーク、愛する娯楽別のグループに分かれた。僕は音楽のグループに入ったが、目が不自由な中でのみなさんの音楽への愛情、それぞれの楽器の魅力、演奏の工夫が伺えてとても有意義だった。もしもオンラインにタイムラグがなかったら、みんなで合唱したり合奏したりしたいところである。
 それにしてもこれだけの大人数をワンタッチで少人数グループに分けることができるとは…オンラインの技術、恐るべし。

3.ちゃんと前を向くために

 僕がゆいまーるの集いが好きな最大の理由は、みんな前を向くためにここにいるということ。自助グループの中にはお互いの大変さを慰め合うだけで終わってしまい、仲間ができたからそれでいいと社会に背を向けてしまっているミーティングもある。もちろん足を止めることも必要だし仲間に癒されるのも大切、まずはそこから始まるのだが、やはり人生のメインステージは社会であるべきだ。自助グループの活動が人生のメインになるのは望ましくない。
 その点ゆいまーるの仲間たちは苦労を共有するだけで終わらず、傷を癒し合うだけで満足せず、そこからどうやったら障害を乗り越えられるかを考えている。視力を失ってもどうにか医療の道にしがみつく術を模索している。誰もこの社会で医療者として闘うことから目を逸らしていないのだ。これこそゆいまーるが『医療に従事する視覚障害者の会』ではなく『視覚障害をもつ医療従事者の会』たる由縁だろうと僕は解釈している。

 この6月、二年に一度のゆいまーる機関誌の第7号が発刊された。内容はこの会の活動記録、会員が思いを綴ったエッセイ、そして特別な方々にゲスト寄稿もしてもらっている。さらに今回は正会員を対象にアンケートを行ないその結果を掲載。視覚に障害を持つ医療者のリアルな心情をまとめた貴重なデータになったと思う。
 この機関誌は会員や関係機関に配布され、ゆいまーる公式サイト内でも閲覧できる他、サピエ図書や国会図書館にも収められる予定なので、興味のある方はぜひチェックしてみていただきたい。

4.まだ見ぬあなたへ

 ふとした縁でこの会の会員になった自分。いつまでもみんなの仲間でいるために、ちゃんと社会で奮闘しながら、時々ゆいまーるでエネルギー補給しながら、どうにかこうにか医療の道を歩んでいけたらと思っている。

 もしあなたが視覚に障害を負い、目指していた医療・福祉の道が見えなくなって途方に暮れているのなら、一度ゆいまーるの門を叩いてみてはどうだろう。そこには視力は頼りないけど心は頼もしい仲間たちが待っている。きっと役立つ知恵と小さな勇気を見つけられるはずだ。

5.研究結果

 一応広報担当なので改めて『ゆいまーる』をご紹介してみました。詳細は公式サイトをご覧ください。点字毎日に連載中の『ゆいまーるのこころだより』もよろしく!
 そして今回の総会でアイデアが着火したので、そろそろこの会をイメージした楽曲も作ってみたいと思っている今日この頃です。

令和4年6月5日  福場将太