令和4年2月20日(日)、僕にとって恒例になりつつあるこのイベントが今年もやってきた。公益社団法人NEXT VISION主催のコンテスト『I See! Working Awards』の授賞式だ。審査員を務めさせていただくのも3回目である。今回も三宅くんがインタビュアーを務め、オンラインで開催された。
1.情熱か、謙虚さか
このコンテストは大きく二つに分かれていて、その一つが事例部門、実際に就労を実現し活躍している視覚障害の当事者を表彰する部門だ。今回も五名の方が授賞されたが、全員に共通していたのが情熱だったように思う。
視覚障害者が就職を打診する場合、どうしても障壁になるのが「前例がない」という事実だ。できる・できないの検討以前に「前例がないから無理」と言われてしまうことが多い。
しかし当たり前であるが最初の人には前例がない。それを理由にしてしまうといつまでも新しい雇用の門戸は開かない。そこを打ち破るには、何より本人の「その仕事がしたい」という熱い情熱が必要となる。今回受賞された方々はみんな形は違えど、その情熱の持ち主だった。
ただここで考えてみたい。就労の実現には、本人の情熱に加え職場の理解と協力が不可欠。それを「余計な負担をかける」としてしまうと、働きたいと願うことはあつかましい我儘にも感じられてしまう。潔くあきらめて身を引く謙虚さの方が美徳のようにも思えてくる。僕自身、自分が働くことは職場の迷惑なんじゃないかと葛藤することは少なくない。
しかし今回の受賞者のお話を伺い、その情熱はけして我儘ではないと感じた。それはとても純粋な欲求であり、「働きたい」「誰かの役に立ちたい」というのは人間にとって根源的な願いなのだ。この情熱は謙虚さとは別問題。受賞された方々はみんなパイオニアでありながらその功績をおごることなく、むしろ支えてくれる人たちに感謝し、誰より熱い情熱を秘めながら誰より謙虚であった。就労に貪欲、なんと素晴らしいことじゃないか。
そしてもう一つ嬉しいことも。昨年の守田先生に引き続き、今年も僕が所属している『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』の仲間が受賞されていた。皆様、本当におめでとうございます!
2.活用か、不謹慎か
そしてこのコンテストのもう一つの部門がアイデア部門、こちらでは視覚障害者の就労を推進するサポートアイデア、視覚障害を活用したビジネスアイデアなどが表彰される。僕は価値転換賞の一つにコメントさせていただいた。そのアイデアのキーワードは『可愛さ』であり、視覚障害のサポート機器は正直デザインが可愛くない、可愛いデザインを当事者自身が考えていくデザイナーはどうだろうというものだった。そういえば僕も昔楽器屋さんでギターを選ぶ時は音より何よりまずデザインを重視していた。お気に入りのデザインの物を選びそれを身に付ける楽しみ、目が悪くなってからこれを忘れていたことに気付かされた。
目が見えない人間にとって可愛いデザインとはどんな物か、これはもちろん目が見えない人間しか考えることができない。視覚に障害があるからこそ成立する、とても魅力的な仕事のアイデアだった。
障害を弱みではなく強みとして捉える、健常者と同じことはできなくても健常者にはできないことができる、目が悪いことを逆に活用する。この障害を価値に変える『バリアバリュー』の考え方が今回のアイデア部門にはたくさん見られた。病気や障害をもてはやすなど不謹慎だ、という声も世間にはあるだろう。僕自身も視覚障害を今の様にオープンにできるまでには何年もかかったし、今でも必死に隠して生きている人たちはたくさんいてその気持ちも重々わかる。
本人が受け入れられていない段階で、恥ずかしさや後ろめたさを感じている段階で、その障害を活用しろというのは確かに不謹慎だろう。だがもし「働きたい」「誰かの役に立ちたい」という情熱が無力感や劣等感を上回った時、障害を活かすという道もあることを知ってもらえたら嬉しい。
人生には色々なカードが配られる。どのカードを使うか使わないかはその人次第。ただ一見役に立ちそうもない、足を引っ張りそうなカードも組み合わせ方によっては強い役になるということをこのコンテストは伝えているのだ。受賞された皆様、本当におめでとうございます!
3.まだ見ぬ生き方・考え方
そんなこんなで今年の授賞式も無事終了。毎回応募された事例やアイデアを審査しながら、世の中にはまだまだ僕の知らない生き方をしている人たちがいること、思い付いていない色々な考え方があることを目からウロコで思い知らされる。
NEXT VISIONのメンバーに加えていただいて数年が経ったが、この有難く楽しい仕事をさせてもらっていることを心より幸せに思う。
今回の授賞式の様子は後日NEXT VISIONの公式サイトで動画で閲覧できるようになる予定。ご興味のある方はそちらもどうぞ!
4.研究結果
今回のまとめは理事の高橋先生が閉会の挨拶でおっしゃっていたこの言葉に尽きる。
「前例がない? それが何なの? だからやるんでしょ」
令和4年2月21日 福場将太