思い出の音楽#7 『そのままの君でいて』と岡本真夜

大晦日の楽しみはやっぱり紅白歌合戦。特に昨年はコロナの影響で無観客だったこともあって、派手な演出ではなく歌の力で視聴者を魅了してくれました。歌手にとっては武道館と並んで夢の舞台である紅白。今回はその紅白出場がテレビ初出演だったという女性シンガー、岡本真夜さんの『そのままの君でいて』をcheck it out!

1.岡本真夜さんについて

真夜さんと出会ったのは高校生の時でした。広島のお祭りであるフラワーフェスティバルに出演するという情報を聞きつけ、当時音楽をかじり始めたばかりの僕は友人とそのステージを観に行ったのです。特段ファンということではなくただ有名人が見られるという安易な動機でしたが、せっかくならと朝一番から場所取りをして最前列を確保しました。おかげでバックバンドのみなさんのリハーサルも見られてとても勉強になりました。

そしてついに本番がスタート、目の前に真夜さんが登場して心を奪われました。何よりもまず歌唱力に圧倒。実は今でも真夜さんは僕が尊敬するボーカリストとして勝手に五本の指に入れさせてもらっているのですが、音程の正確さもさることながら、ポップスシンガーでこんなに腹式呼吸が上手な人はそうはいないと思います。声を伸ばす時も振るわせる時も、一体どれだけお腹が動いているんだろう…と、喉でばかり歌ってしまう自分には雲の上の存在です。

また真夜さんの魅力は、その等身大というか自然体というか、すごく花があるんだけどけして遠い存在ではない身近なオーラです。知り合いのお姉さんがちょっと照れながら歌っているような、そんな素朴な可愛らしさが本当に素敵でした。

このライブ体験ですっかり真夜さんファンになってしまった僕はすかさずCDを購入、テレビ出演もチェック。ラジオのレギュラー番組も聴きましたが、ちょっと緊張しながら控え目に話されるのがまさに真夜さんという感じで、ここでもとても等身大でした。

ただそんなおとなしい印象の真夜さんですが、歌手になる夢のために故郷の高知県を出て単身で上京したというから驚き。普段は控え目でも自分の好きなことについてだけは絶対に譲れない、妥協しない、穏やかさの中に実は誰にも負けない情熱を宿している…これも真夜さんの魅力なんだと思います。

またシンガーとしてだけではなく、ソングライターとしての真夜さんもすごい。誰でもすぐ口ずさめるようなポップなメロディが持ち味ですが、実は音楽的に凝ったことをされている楽曲も少なくありません。名バラード『Alone』のコードを解析してみて驚きました。こんなに複雑な仕掛けになっていたとは、しかもそれをあれだけ情感たっぷりにファルセットと腹式呼吸を使いこなして歌い上げてしまうとは…全然いばったり自慢したりされませんけど、まあそこがいいのですが、真夜さんはとんでもないシンガーソングライターなのです。

『TOMORROW』や『LIFE』のように元気をくれる力強いナンバー、『泣けちゃうほどせつないけど』や『大丈夫だよ』のように散歩したくなるような軽やかなナンバー、『Alone』や『サヨナラ』のように心を打つせつないナンバーに加え、『春が来た♡』や『大スキ!』のように頬が緩みそうなキュートなナンバーまで作ってしまう真夜さん。これからもちょっとはにかんだ飾らない楽曲を楽しみにしています!

2.『そのままの君でいて』について

これは真夜さんのシングル第4弾にして、僕がフラワーフェスティバルの衝撃を受けてまず最初に購入したアルバム『Smile』の1曲目でもあります。前作シングル『Alone』で『TOMORROW』とはまた違う世界観を見せた真夜さんは、この『そのままの君でいて』でさらに新しい景色を見せてくれました。ここから岡本真夜の第二章の開幕、と勝手に記念しております。

本作のテーマは友情。夢を追って地元を離れた友人が一年ぶりに帰郷するのを迎える物語です。空港での再会、その後のドライブ、はっきりとは言わないけど不安と孤独を抱えて疲れている友人を思いやり、強がらないでいい、いつでも帰っておいでといたわり、頑張ろうねと励ます等身大の主人公に思わず心が重なります。

故郷の仲間をとても大切にしているのも真夜さんの持ち味で、これはその後の『明日へ』や『同窓会』という楽曲にも受け継がれています。特に『そのままの君でいて』は、曲のイメージは高知かもしれませんが、路面電車やロープウェイの描写が出てくるので、ついつい僕が青春を過ごした広島の比治山界隈の情景が浮かんでしまいます。

人は夢を叶えよう、成長しよう、と無理してしまうものですが、疲れた時には「自由に、素直に、そのままでいて」という友達の言葉がとても嬉しいですよね。

また歌詞にも「風を感じて歩いていこう」と出てきますが、この曲は聴いていると風を感じる曲でもあり、アレンジでもそれが意識されているのではないでしょうか。優しい風から始まって、最後は疾走感溢れる少し強い風、フラワーフェスティバルの屋外ステージでは実際にやわらかい風が吹いていたことも有って、僕にはいつもこの曲が水色に見えます。曲中のホーンの音も風の中で鳴っているように聴こえるのです。

3.演奏の思い出

残念ながらこの曲に限らず、これまで真夜さんの楽曲をバンドでやった経験はありません。ただ趣味の弾き語りではこの曲はもちろんレパートリー。『TOMORROW』が元気になれる曲なら『そのままの君でいて』は優しくなれる曲。まだまだ腹式呼吸はヘタクソですが、これからも練習していきます。
そして実は我が妹も真夜さんファン、この曲がお気に入りなのでいつかカラオケで一緒に歌えたらいいななんて思ったりしております。

4.余談

MUSIC STATIONにこの曲で出演された時、間奏で真夜さんがちょっとした振付けをしておられたのですが、照れながら踊っておられたのがとってもチャーミングでした。やっぱりそこがいい!そのままの真夜さんでいてください。

令和3年12月8日  福場将太