令和3年4月24日(土)、公益社団法人NEXT VISION主催のイベント『第100回ロービジョンの集い』が行なわれた。今回もオンライン、全国から200人近い人たちが参加してくれていた。
この集いは2009年10月、ロービジョンについてよく知らない人が理解を深める第一歩の場として始まったそうで、視覚障害の当事者だけでなく、ご家族も支援者も誰でも参加できるというのが大きな特徴。今回は公益社団法人日本網膜色素変性症協会(JRPS)の部会の一つJRPSユースのご協力を得て、第100回の記念にふさわしい内容となった。特に若い当事者たちが語ってくれたカミングアウトの体験談は、多くの人の心を打ったのではないかと思う。例によって僕は当日ひょっこり参加しただけなのだが、このあたたかくて有意義なイベントの企画・運営を成し遂げてくれたスタッフのみなさんに感謝を伝えたい。
イベントの詳細はNEXT VISIONの公式サイトを見ていただくとして、ここでは語られた体験談に対して自分の心がどんな反応を見せたのかを書き残しておきたい。
1.告白する
僕が愛読する漫画『ブラック・ジャック』にこんなエピソードがある。足に障害を抱えた少年が広島から大阪までの約400kmの徒歩での一人旅に挑戦し、天才無免許医のブラック・ジャックがこっそりその姿を見に行くのだ。実は彼自身も幼い頃に身体がバラバラになる大けがを負い、リハビリのために少年と同じコースを歩いた経験があった。少しだけ少年と言葉を交わしてその場を去るブラック・ジャック。そして後日、テレビ中継で少年が無事にゴールした姿を見て密かに微笑む…そんな最後のひとコマが印象的な物語だ。
今回体験談を語ってくれたJRPSユースのメンバーはみんな僕より若い。そして僕と同じ網膜色素変性症の当事者。語られたエピソードの中には、いつか自分も通ってきた道がたくさんあった。不安なこと、悔しいこと、怖いこと、そして涙が出るくらい嬉しいこと。たくさんの人の前で自分の病気の体験を語るのは勇気がいることだが、その勇気はイベントに参加した多くの人たちに届いた、そしてまた新たな勇気を着火したに違いない。
網膜色素変性症は徐々に視力が失われていく病気。穏やかだが抗えない視力低下の進行、特にこれまで見えていたものが年々見えなくなる渦中の期間は狂おしいほどもどかしく、どこにぶつけていいかわからない憤りと対峙しなければならない。当たり前に描いていた未来が見えなくなり、生きる道さえ見失ってしまう。やがて奪われてしまう視力、じわじわと壊れていく自分を必死に抱きしめる…そんな孤独な夜が今回登壇してくれたメンバーにもあるのかもしれない。それでもみんな明るさを見せてくれた。ちゃんと希望も添えて話してくれた。それがとっても嬉しかった。
2.告白される
今回のテーマはカミングアウト。自分はいずれ目が見えなくなること、あるいはもう見えていないことを誰かに告白するのは本当に難しい。ちゃんと伝えたはずなのに伝わっていなかったり、打ち明けたことで関係がぎこちなくなったり、僕も何度も失敗の経験がある。どんな言葉で、どんなタイミングで、どんな雰囲気で伝えればよいのか…カミングアウトの研究はまだまだ道半ばだ。
そして思ったこと。カミングアウトは相手があってこそ成立する営み。だからカミングアウトをする人にはもちろん、される人にも技術が必要なのだ。せっかく勇気を出して打ち明けたのに、受け取り手が下手をするとカミングアウトは失敗してしまう。
愛の告白だってそうだろう。好きだと伝えた時、例えフラれるにしても相手の対応次第でその後の関係は大きく変わる。恋人にはなれなくても友人関係が続く場合もあれば、今回はダメでも次回のチャンスに可能性が残される場合もある。もし冷たく拒絶されたりしてしまうと、関係も終わってしまうばかりか、再起不能になってもう恋ができなくなってしまうかもしれない。
ではカミングアウトを受けた時の最良のリアクションとはどんなものだろう。映画『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』のクライマックスにこんなシーンがある。悪党に捕まったハン・ソロが冷凍される直前、これまで素直になれずにいたレイア姫がついに彼への想いをカミングアウトするのだ。「I love you」と伝えたレイア姫にハン・ソロが返した言葉はなんと「I know」。こんなにかっこいい返事があるだろうか。僕ももし「実は目が見えないんです」と告白して「知ってるさ」なんて言われたら惚れてしまうかもしれない。
まあそれは上級テクニックとして、日常でカミングアウトを受けた時にはやっぱり「ありがとう」の言葉を返せたらいいなと思う。打ち明けてくれてありがとう、教えてくれてありがとう…まずその感謝の気持ちさえ伝えられたらそこからきっと新しい関係が始まる。
もちろんそれは視覚障害だけではない。これから色々なことをみんながカミングアウトできる時代になるためには、みんながカミングアウトを受ける心も育てていかなければならないのである。
3.告知する
また今回は医師から患者への告知も話題に挙がった。特に網膜色素変性症のような「いつか見えなくなるかもしれない」ということをどう伝えるか。早まって伝え過ぎると、絶望して掴める未来まで掴めなくなってしまう患者がいるかもしれない。しかしあまり後回しにし過ぎては、もっと早く言ってくれれば色々やれたのにと悔やむ患者もいるかもしれない。
いつか告知を受けた眼科の当事者として、そして告知をせねばならない精神科の医療者として、告知もまた研究を続けるべきテーマである。
4.語り合う
同日夜は参加者の懇親会が行なわれた。引き続きオンラインで、5人ずつくらいの部屋に別れてフリートーク。ここでも色々な人に出会えた。網膜色素変性症で徐々に視力を失った人だけじゃない、突然の事故や病気で視力を失った人、先天性の障害で物を見た経験がない人、みんなそれぞれの苦労がある、弱さがある。それでもそれぞれの強さ、それぞれの希望もあると感じた。
今回、初対面の人同士がこうやって明るく言葉を交わせたのは、やはりロービジョンの集いという『場』の力だと思う。これは100回続けてきたからこそ育まれた力。メンバーは移り変わっても、長年継続されたミーティングには力が宿る…そのことも改めて思い知らされた一日だった。
5.研究結果
ありがとう、JRPSユース。
これからも頑張れよ、僕も頑張るから。
令和3年4月25日 福場将太