きららの会で講演会

令和3年3月13日(土)、所属している『視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる』のご縁で講演を行なった。依頼をくださったのは京阪神を中心に活動しておられる視覚障害者ネットワーク『きららの会』。リクエストテーマは『不安』とのことで、視覚障害とかけて、『心に元気を!前が見えない不安な時代の歩き方』と題してお話させてもらった。

1.フィフティフィフティのスタンス

僕は不安を治療する精神科医であると同時に、たくさんの不安を抱えた視覚障害者でもある。今回の講演では、半分は支援者として、半分は当事者としてお話をした。
実はこのスタンスで講演できるのは稀。普段のニーズはどうしても支援者としての講演なので、当事者のニュアンスを出す余地があまりなく、出しても効果的ではない場合が多い。でも今回聴いてくださるみなさんは僕の目が見えないことを前提として知っているし、お堅い学術講演会を求めておられるわけでもない。だから僕も素直に話せる、それがとても嬉しかった。
そんなわけで新たな挑戦としてギターや鳴り物を導入。久しぶりに音楽の話や刑事コロンボ、嘉門達夫さんの話も盛り込ませていただいた。思えばこのスタンスの講演会は平成30年に山梨で行なった時以来ではなかろうか。

2.オンラインで語る

オンライン講演会を聴いたことは何度もあるが、自分が話すのは今回が初めて。回線がちゃんと繋がるだろうか、やっている間に接続トラブルが起きないだろうかなどの不安がまず過る。
そして、これは予想していたことではあったが、話している最中は参加者の音声はミュートになっているので、リアクションがこちらには全くわからない。声のボリュームや向きは大丈夫だろうか、退屈していないだろうか、もしや回線が切れて誰も聴いていないのではないか?一人パソコンに向かって不安の解消法を話しながら、僕自身はそんな不安と格闘していたわけである。無事に終わってみなさんから質問や感想が返された時には、正直ちゃんと声が届いていたことにほっとした。

とはいえ、日本各地からワンタッチで参加してもらえるのはオンラインの大きな魅力。今回はきららの会のみなさんに加え、京都府視覚障害者協会の方、ゆいまーるからもご参加をいただいた。お忙しい中、みなさんありがとうございました。

3.不安を抱えた仲間たち

今回のメイントークとして『不安と上手につき合う7つのテクニック』を紹介した。その一つに「仲間の存在を知れ、先輩の話を聞け」というのを挙げた。この苦しみは自分だけだと思うと不安はどんどん膨らんでしまう。でも同じ境遇にいる仲間がいる、自分の前を歩いている先輩がいるとわかると、不安は弱まるもの。これは僕自身、視力を失って引退を考えていた頃にゆいまーると出会って実感したこと、そして普段の診療でも患者さんのミーティングプログラムを担当していてひしひし感じることである。

偉そうにテクニックなどと紹介したが、きららの会ではすでにそれが実践されていた。講演の後の交流会に参加させてもらって、みなさんがお互いの日常の苦労、これからの不安などを、時に赤裸々に、時に面白く打ち明け合う姿にとても元気をもらえた。ゆいまーるもそうだが、お互いの大変さを分かち合うこと、もちろんこれも大切だが、そこで終わらずにじゃあどうやって前に進もうかということまでちゃんと話せているところが特に良いと思った。僕はそういうミーティングが好きだ。悲しみに立ち止まってしまうよりも、すぐには動けなくてもベクトルはちゃんと前を向いているチームが好きである。もちろん弱さをさらせない、自分のことを語りたくない、そんな仲間がいたっていい。むしろいた方がいい。カミングアウトの勇気も素敵だが、あえて語らずにクールでいる、そんな姿もとっても素敵だと思うから。

講演会の講師を務めたとはいう物の、特に後半の交流会ではみなさんから教えてもらうことが多くあった。僕が提示した7つのテクニック以外にも、当事者や支援者のみなさんがそれぞれの経験から編み出している技術がたくさんあった。それを共有するのもまたこういったイベントの楽しみであろう。

4.研究結果

不安も期待もドキドキするぜ。

令和3年3月13日  福場将太