思い出の音楽#4 『LET IT BE』とビートルズ

今年のコラムは何かとアニバーサリーにかこつけていますが、最後のアニバーサリーはビートルズ。今年は解散からなんと50周年。半世紀が経過しても愛され続ける世界一のロックバンドの『LET IT BE』をcheck it out!

1.ビートルズについて

おそらくその名を知らない人はいないでしょう。ジョンさん、ポールさん、ジョージさん、リンゴさんの四人組で、彼らが音楽史に遺した功績は計り知れません。ミュージシャンで影響を受けていない人などいないのではないでしょうか。
ビートルズの偉大な軌跡については、僕など足元にも及ばない研究家がたくさんいらっしゃるのでここでは割愛しますが、一つだけその魅力を挙げるなら、それは発想力と挑戦し続ける姿勢、次々と新たなサウンドを生み出す創造力です。もし僕が彼らの活動していた時代にこの世に生まれていたら、きっとレコードが出る度に「次はどんな曲で来るんだろう」と毎回ワクワクしていたに違いありません。
有名なベストアルバム『赤盤』と『青盤』のジャケットには、活動初期と末期の彼らが写っていますが、その容貌の変化はまるで数十年が経過したように見えます。でも実際の活動期間は十年にも満たない。きっと通常のバンドが一生かけてもたどり着けない境地まで、ビートルズは才能のタイヤをフル回転させて駆け抜けたのでしょう。

僕が彼らの音楽に触れたのは中学3年生の頃。実は小学校時代までアニメや特撮番組の主題歌くらいしか知らなかった僕が、中学生になって初めてはまったアーティストが嘉門達夫さんです。そして次は嘉門さんの話によく出てくるサザンオールスターズのファンになりました。それで桑田さんのラジオも聴くようになり、度々出てくるビートルズの話題から、今度はそっちも聴いてみよう…と彼らにたどり着いたわけです。

正直すぐには魅力がわかりませんでした。音楽を歌を中心に聴いていた僕は、英語がわからないのでなかなか作品世界に入り込めなかったのです。しかし、楽譜を見たことでそれが一変。ちょうどギター少年真っ最中だった僕は、嘉門さん、サザンに続いてビートルズのコードブックを購入。今もそうですが、楽曲のコード進行を解析するのが好きな僕は、その斬新なコードの使い方に衝撃を受けました。こういうコードだからこういう効果が出ているのか、こういう使い方もありなのかと、ぐいぐい作品世界に引き込まれました。
もちろんコードだけでなく、彼らはメロディ、リズム、楽器、音色、そしてレコーディングの方法と、様々なアイデアで創意工夫を凝らしています。それを紐解いていくのが面白くて、気付けばビートルズが大好きになっていたというわけです。

2.『LET IT BE』について

言わずと知れた名曲にして、ビートルズ最後のシングルです。よくジョン派かポール派かなんて議論がありますが、挑戦好きのメンバーの中でも、特にその傾向が強いジョンさんが僕も好きでした。俗にビートルズコードと呼ばれる彼の大胆不敵なコード進行は、ギター少年のこれまでの既成概念を崩壊させるほどのインパクトがありました。
そんなわけで、ビートルズの中でも特にジョンさんが作った曲を好んで聴いていた僕ですが、2019年に職場のクリスマス会で何か演奏しようという話になり、ギターとピアノでできる曲ということで、ふとこの『LET IT BE』が浮かびました。

改めて聴いてみると、ジョンさんとは違う才能、優しくてあたたかいメロディを生み出すポールさんの魅力に惹きつけられました。コードを解析してみるとこの曲はハ長調、使われているコードもけして複雑なものではありませんでした。それなのに類を見ないこの清らかな旋律と、魂を揺さぶられる世界観。
歌詞を読み込んでみると、そのせつない祈りがまた美しい。くり返し歌われる「Let it be(あるがままに)」、そして「There will be an answer(答えはあるでしょう)」が特に印象的で、不安や迷いの中にいる人にとってこんなにあたたかい言葉はありません。「For though they maybe parted.there is still a chance that they wihh see(例え離れてしまった人たちも、まだ出会えるチャンスがある)」という歌詞も大好きで、この曲は確実ではないけど信じられるほのかな希望を灯してくれます。例え叶わなかったとしても、希望を感じながら、いつか出る答えを信じて、あるがままに生きる…。
この曲は、ポールさんがメンバーがバラバラになっていくビートルズへの想いを込めて書いたとされていますが、諸行無常を生きる僕たち人間みんなに通じるメッセージだと思います。

3.演奏の思い出

そんなわけですっかりこの曲に心酔した僕は、クリスマス会で演奏することに決めました。不思議なもので、最初はチンプンカンプンだった英語の歌詞も、何度も歌って憶えるうちにだんだん心に馴染んでくる。日本語の歌詞と同じく、ちゃんと気持ちを込めて歌えるようになる。
クリスマス会当日、実際に患者さんたちの前で歌っていると、この曲に「あるがままに」以外のメッセージを感じました。それは「そのままでいいよ」というメッセージ。心を病む人の中には、過去を悔やみ、未来を憂いでいる人が少なくありません。自分を肯定できないでいる人がたくさんいます。そのままでいいよ、あなたはそのままでいいんだよ…『LET IT BE』は、そんな癒しと許しの歌なのかもしれません。心を込めて歌わせてもらいました。

ちなみに楽器の担当はギターでしたが、ピアノを弾いてくれた看護師さんがなんだかうらやましくなり、クリスマス会が終わった後で僕は密かにこの曲のピアノ練習を始めました。奇しくも間もなくコロナの情勢に陥り、多くの悲しみが起こり、人々は離れ離れになり、不安や迷いが世界中を覆い尽くしました。
思うように仕事ができなくなり、週一回の楽しみであるギター弾き語りもできなくなり、窮屈な心で職場と家を往復する日々が続きましたが、そこで救いになったのが『LET IT BE』のピアノ練習です。キーボードならヘッドフォンを装着して家でも演奏できる。下手くそな指使いで鍵盤を叩きながら、ポールさんの祈りに心を重ねながら、気付けば僕は毎晩のように練習していました。今年一番演奏した曲が『LET IT BE』、五十年の時を越えて癒してもらったのです。

まだ未来には暗雲が立ち込めています。もうコロナの前の世界には戻れないんじゃないかと思う時もあります。それでもきっと答えはある。その日まで、僕たちはあるがままに生きるのです。

4.余談

思わぬ所でビートルズファンに出会うのも人生の楽しみ。高校時代の図書委員長、大学時代の英語の先生、そして最近だと出向している病院のスタッフがビートルズファンであることが判明。まるで共通の言語を得たように、ビートルズトークで盛り上がりました。コロナ情勢が終わったら、ぜひビートルズ弾き語りライブを企画したいものです。

そしてこの12月は、ジョンさんのご逝去からちょうど40年でもあります。僕が物心ついた頃にはもうこの世にいなかったジョンさん。あなたが生み出した音楽は今でも生き続けています。たくさんの感動をありがとうございました。

令和2年12月4日  福場将太