思い出の音楽#2 『NEW SONG』とイングリーズ

続きましては、今年デビュー35周年を迎えられた音楽ユニット・イングリーズの『NEW SONG』をcheck it out!

1.イングリーズについて

中学3年生の時、どっぷりはまっていたFMラジオ『爆裂スーパーファンタジー』で、鈴木彩子さんからパーソナリティをバトンタッチして登場したのが彼らでした。メンバーは永島浩之さんと前島正義さんの二人。そのあたたかいキャラクターと元気をくれる歌に惹かれて、気付けばファンになっていました。

デビューは1985年、音楽の甲子園と呼ばれる横浜HOT WAVE FESTIVALに同級生六人で出場した彼らは見事グランプリを獲得、現役高校3年生のバンド『いんぐりもんぐり』としてプロになりました。この男性ツインボーカルという一風変わったロックバンドは、独自の路線で人気を集め、ついには武道館までたどり着きます。アニメ『おぼっちゃまくん』の主題歌を歌っていたのも実は彼らです。

そしてバンド解散と前後して、永島さんと前島さんが二人で音楽活動を始めた時のユニット名が『イングリーズ』。当初は『しおこんぶ』だったそうですが、いんぐりもんぐりの面影を残す『イングリーズ』はセンスのあるネーミングですね。やがてデビュー10周年を節目に一度は解散した彼らですが、惜しむ声に応える形で『ジ・イングリーズ』として復活、僕が彼らを知ったのはまさにこのタイミングでした。

彼らの魅力は、なんといっても元気をくれる世界観。お腹が痛くなるようなおバカな曲も、胸が痛くなるような感動の曲も、どちらも持ち味ということです。

その一翼を担っているのが永島さんのソングライティング能力。デビュー当時から多くの曲の作詞曲を手掛け、バンドの世界観を作り上げた才能は秀でています。フォークソングの影響を強く受けた彼が作るメロディは、キャッチでとても親しみやすく、ついつい口ずさみたくなります。さらに作詞のセンスがピカイチで、つらい時こそ笑おうと聴く人の心を打ったり、横浜界隈の郷土愛に溢れていたり、緻密な計算と巧みな比ゆで笑わせてくれたりするのです。

そして世界観のもう一翼を担っているのが前島さんの圧倒的な歌唱力。デビュー当時のCDを聴いても、とてもただの高校生の歌声とは思えません。洋楽ロックに影響を受ける彼の歌は、かっこいいけどけして嫌味はなく、軽々と高音域から低音域まで広がり、どんなメッセージも本気過ぎず適当過ぎず歌い上げてしまう。まさにおバカと感動が共存する世界観に相応しいボーカリストです。

もちろん永島さんも歌う、前島さんも曲を作る。それもまたよいアクセントになってお互いを引き立て合っています。そう、彼らはよくインタビューで「得意技が違う二人だから」とコメントしていましたが、まさにイングリーズとはそういうユニットなのです。

中でもアルバム『STARTING OVER』は二人の魅力と才能が詰まった一枚で、もうどれだけヘビーローテーションしたかわかりません。一度再生ボタンを押したら、もう途中で停止ボタンを押せない、笑いあり感動あり、まるで充実したコンサートのような一枚です。

ちなみに復活したジ・イングリーズは、やがてダンスサウンドに路線変更しユニット名も『フーリューズ』に変更します。世界観を大きく変えたわけですが、やはり無理があったのか2000年に終結。ついに彼らは十五年に及ぶコンビを解消したのでした。

2.『NEW SONG』について

ラジオで彼らを知った僕は、動く姿を見たくてジ・イングリーズのライブビデオを購入しました。そしてそれはあまりに衝撃的な内容でした。

バックバンドもなく、サポートメンバーもおらず、カラオケも流さない。彼らは本当に二人だけでステージに立ち、手にしたギターの伴奏のみで歌っていたのです。それはこれまで見た他の歌手のコンサートの映像とは全く違っていました。ただ僕が衝撃を受けたのはその地味な出で立ちではなく、にもかかわらずものすごいパワーとエネルギーに満ちていたことです。彼らのライブからは、歌うことが楽しい、歌えることが嬉しいという気持ちが伝わってきました。当時中学生で音楽を始めたばかりだった僕は、ギターと歌だけでこれだけ表現できる、盛り上げられるということを見せ付けられたのです。

その中でも特にすごかったのが『NEW SONG』の演奏。当時まだ彼らのCDを持っていなかった僕は初めてこの曲を聴きましたが、人はこんなにも輝けるのかと思ったほどです。

彼らの楽曲はどちらか一人がメインボーカルをとり、もう一人はコーラスに回ることが多いのですが、この曲は二人でメインボーカルを担当し、前半は交互に歌い、中盤はエネルギーを溜め込むように永島さんの熱いボーカル、そしてサビはそれを解放したような前島さんの伸びやかなボーカルという分担になっています。まずはこの歌い訳が素敵。お互い相手がメインの時は自分がコーラスに回っていて、それも持ちつ持たれつな感じがして微笑ましいです。歌詞も「新しい歌を口ずさみ心の底から笑いたい」、「君が隣にいてくれれば大丈夫さ」といった起死回生の前向きな内容で、それはお客さんに向けたメッセージであると同時に、彼らがお互いに向けているメッセージのようにも感じるのです。

しかも演奏中に永島さんのギターの弦が切れてしまうのですが、彼らは臆するどころかそこからさらにヒートアップ。永島さんは両腕を振りかぶって頭の上で手を撃ち始め、前島さんは少なくなった伴奏を補うように、自分のギターをさらに力強く弾き始めました。そして大歓声の中で曲が終わると、そこから前島さんが急にギターをかき鳴らし始め永島さんにアイコンタクト。遠慮してギターから手を離していた永島さんも、それに応じて残った弦を無茶苦茶にかき鳴らし始める。これでお客さんはさらに熱狂、最後は前島さんが掛け声と共に大ジャンプし、二人で息を合せて演奏終了したのです。

…圧巻でした。ライブのパワーとは、必ずしもメンバーの多さや楽器の多さ、セットの華やかさではないんだと学びました。

その後調べて知ったのですが、『NEW SONG』という曲は、彼らがいんぐりもんぐりを解散して二人になった時に最初に作った曲だそうです。バンドメンバーがいなくなりこれからどうしようという不安の中、そこにあったフォークギターで二人だけでやってみようという始まりの歌。まさに彼らのテーマソングです。

イングリーズとしての最初のシングルに収録されており、こちらもギターだけのシンプルなアレンジになっています。アルバムにはバンドバージョンで収録されましたが、やはりこの曲はギターだけで歌ってこそ引き立つように思います。

3.演奏の思い出

ライブビデオに魅せられた僕は、憶え始めのギターで『NEW SONG』を練習しました。楽譜などは出ていないので、耳で音を取る作業でしたが、何度もCDを聴きながら練習したのを思い出します。

社会人になった今も、週一回好きなだけギターを弾きながら思い付いた曲をどんどん歌うというのが僕の楽しみですが、この曲は毎回のように登場します。もちろん前島さんのように軽々とではありませんが、何度も演奏しているうちに少しずつ高いキーが歌えるようになったのは嬉しかった。やはり何事もあきらめてはいけませんね。

この曲は聴くだけでもそうですが、自分で歌うとさらに元気をもらえます。また聴く時と歌う時では心に響く歌詞が変わるのも不思議で、自分で歌う時には「僕は僕だから君じゃない」、「もう言い訳したくないから本気でやってみた」などのフレーズが好きです。『NEW SONG』は相手を励ます優しさの曲であると同時に、自分を鼓舞する勇気の曲でもあるのでしょうね。

バンドサウンドも好きですが、僕がギター弾き語りが大好きなのは、きっとイングリーズの影響による所も大きいと思います。残念ながらこの曲を人前で演奏したことはありませんが、いつか彼らのファンと出会えたら、ぜひ一緒に歌いたいです。

4.余談

フーリューズ終結後、彼らはそれぞれソロ活動を開始しました。事務所もレコード会社もなく、本当に情熱だけで行なわれている音楽活動です。2005年には永島さんの20周年ソロライブが渋谷であり、当時浪人中で東京にいた僕は足を運びました。『NEW SONG』はもちろん、イングリーズ時代の曲もたくさん歌ってくれて、新たな旅立ちのエネルギーをもらった気がします。

そしてまだまだ彼らの歴史は終わっていません。2014年、なんとイングリーズとしてまたまた復活。翌2015年にはワンマンライブも決行!そこには待ってましたと30周年を祝う多くのファンが集結するのだからやっぱりすごい。僕もDVDでそのライブを観賞しました。相変わらずの二人だけのステージ、歌とギターだけの演奏ですが、全く退屈させない。永島さんの楽しいトークはもちろん、前島さんの歌唱力が少しも衰えていないことに胸が熱くなりました。おバカソングから感動ソングまで、本当に元気をくれる。やはりこの世界観は彼らにしか表現できません。
それ以降も、いんぐりもんぐりのメンバーと共演したり、コロナ下でも配信ライブをやったり、彼らの活動は続いています。

得意技の違う二人、才能の違う二人、だからこその最強コンビ。また解散したり復活したり、名前が変わったりするのかもしれないけど、いつまでも応援していきたいと思います。一度生で前島さんの歌も聴きたいなあ。

令和2年11月12日  福場将太