心の名作#5 天空の城ラピュタ

見返せば見返すほど味わい深くなる心の名作を研究するシリーズの五回目です。今回はあまりにも有名な作品に挑戦!

研究作品

いよいよやります、『天空の城ラピュタ』。今更僕なんぞが紹介しなくても多くの人が愛する文句なしの名作アニメ映画。子供の頃からもう何度も観ているはずなのにテレビでやっていたらついまた観てしまう、そしてまた感動してしまう…。さあみんなで一緒にあの呪文を唱えよう!

ストーリー

かつて天空にあったとされる伝説のラピュタ帝国、それを見つけるためにムスカ大佐が動き出した。ゴンドアの谷で静かに暮らす少女・シータはラピュタの手がかりである飛行石を持っていたためムスカに捕らえられてしまう。しかし飛行艇で連行される途中、空の海賊・ドーラ一家の襲撃によってシータは地上に落下、彼女を助けたのは見習い鉱夫の少年・パズーだった。

ムスカ率いる軍隊、そしてドーラ一家に追われるパズーとシータ。やがてシータはラピュタ王家の末裔であること、そしてムスカの正体と真の目的も明らかとなる。ついに発動した聖なる光に導かれ、それぞれの思いを胸に彼らは天に浮かぶ城に降り立った。

福場的研究

1.まずは冒険活劇として傑作

見事な脚本・映像・音楽に、パズーの勇気とシータの優しさがいっぱい詰まった傑作冒険活劇であることはもう百も千も承知しています。その名シーンを挙げていくだけでも夜が明けてしまうでしょう。
子供の頃はただただドキドキとワクワクの気持ちで物語を楽しんでいました。もちろんそれだけで本作は十分魅力的なのですが、大人になって改めて観賞すると、歴史も含めたその奥深い世界観、時代に流れる空気、ラピュタの伝説にまつわる重厚な設定まで実にしっかり練り込まれていることに驚かされます。そしてもし本作に何かテーマ性を持たせるとしたら、それは二つの思想の対決なのだろうなと感じました。

ここは一つ、そんな視点で研究をしてみましょう。

2.二つの文明論

本作は「人とはどう生きるべきなのか」「文明とはどうあるべきなのか」ということをさり気なく問いかけているのかもしれません。かつて天空に君臨し圧倒的な科学力で全地上世界を支配したラピュタ帝国。ムスカは「ラピュタは滅びぬ。ラピュタの力こそ人類の夢だからだ!」と豪語します。それに対してシータは説きます、「どうしてラピュタが滅びたのかよくわかる。土から離れては人は生きられない」と。

架空の設定も含んでいますが本作の舞台は19世紀後半、産業革命の時代です。その頃、多くの人が科学の進歩は生活を豊かにすると信じていました。だから科学力こそが全てだとするムスカの思想はけしておかしくなかったのかもしれません。でも現代においてはどうでしょう。科学が進歩したからといって必ずしも豊かになるわけではないことを多くの人が感じています。便利や裕福を追求するよりも、シータの故郷のように素朴で穏やかな生活こそが豊かだとする人たちも増えています。

科学力を追い求めるムスカと自然との共生を説くシータ、玉座の間でのこの二人の対峙は、悪と正義ではなく文明論の対決のように感じます。

最新鋭の化学技術を結集したラピュタの中枢にまで植物は生い茂っていました。北海道の雪に覆われた町並みを見た時にも僕は同じことを感じます…自然の力には人間なんて遠く及ばないのだと。時として自然は人間に牙を剥く。人は自然によって生かされ自然によって命を落とす。

だからこそ「自然を守ろう」なんて安易に口にするのはおこがましい。そもそも自然とは何なのか。動物も植物もあるがままなのが自然とするなら、子供がマムシに噛まれて死んでも、大洪水で家が流されても受け入れていかねばならないことになります。獣を駆除し森を切り拓いたからこそ守られている僕たちの生活があるのは事実です。科学をもって自然に抗さねば守れない命もあるのです。

ラピュタは何故滅びたのか、二つの王家は何故分かれたのか、そして何故滅びの呪文が伝承されたのか。そんな語られぬ物語の中に科学を携えた自然との共生の答えがあるような気がしてしまいます。

3.少年と少女の決断

もう何回も見ている本作ですが、実は未だによくわからないことが一つだけあります。それは軍の古城からパズーがシータを救出した後、二人がドーラに一緒にラピュタに行かせてほしいと頼む場面。どうして彼らはそのような決断をしたのでしょうか?

確かにパズーには亡き父親の汚名を晴らしたいという気持ちがありました。しかしラピュタは宝が溢れる夢の島ではないとわかり群の恐ろしさも体験した今、せっかく助け出したシータを連れてまたその渦中に飛び込みたいというのはどんな動機からだったのでしょう。

シータにしても、飛行石なんかいらない、放っておいてと言っていた彼女が自らラピュタに行きたいと決断した動機はどこにあったのでしょうか。実際にその後の場面でも本当は怖くて行きたくないと彼女は口にします。

二人はこの時点で冒険から離脱することもできたのにそうしなかった。二人を突き動かしたものは何だったのか。ラピュタをムスカの好きにさせてはいけないという正義感。かわいそうなロボット兵の最期を目の当たりにして知らん顔はできないという責任感。それとも運命や王家の血がもたらした使命感。それらが混ざり合って少年と少女は冒険の継続を決断した。言葉では「ラピュタの本当の姿をこの目で確かめたい」と表現していましたが、その後の展開を考えると二人は漠然と「ラピュタを守りたい」と思っていたのかもしれませんね。

もしこのコラムを読んだ方で、二人の決定打が何だったのかがわかるという人がおられたらぜひ教えてください。共に研究しましょう。

4.印象的なセリフだらけ

本作はセリフ回しが非常に巧みです。心に残る名言から何気ない戯言まで全てが印象的。そのセリフを聞くだけで誰のどの場面での言葉なのかすぐ頭に浮かんでくるくらいです。本作に子供心がくすぐられる一因にはそんなセリフの魅力も大きいと思います。

僕は特に「誰がそのシャツを縫うんだい?」「君も男なら聞き分けたまえ」「四十秒で仕度しな」「もしもしもしもし?」「でっけー声出すな!」「馬鹿どもにはちょうどいい目くらましだ」「これはこれは王女様ではないか」「急に男になったね」などが大好きなのですが、みなさんはどの場面かわかりますか?

福場への影響

本作が好きだという人と出会った時、その人のお気に入りの場面を聞くのが人生の楽しみです。有名シーンを挙げる人もいれば、「目玉焼き食パン」「お父さんの形見のゴーグル」「水に沈んだ街」など細かいポイントを挙げる人もいます。さり気ない描写がどこか心をくすぐるのもこの作品のすごいところ。大学時代に柔道部の有志メンバーで我が家に集い好きな場面を言い合いながらみんなで見たのは良い思い出です。

それとパズーが作中で演奏している『ハトと少年』という曲、未だにラッパを練習中ですが吹けません。いつかパズーのように朝一番で高らかに吹きたいですが、おそらくそんなことをすれば近所迷惑で怒られるでしょう。

好きなシーン

当直でタイガーモス号の見張り台に上がったパズーとそれを追いかけてきたシータ。夜明け前の広大な空の中、二人きりで話をする。それぞれ別の生活をしていたのに数奇な運命に導かれて今は共にラピュタへ向かう船の上…。

自分ではどうしようもない事態に巻き込まれたのに、不安と恐怖を抱えながらも寄り添って前を向いている二人。大人が思う以上に子供は子供でしっかり考えているんですよね。今やすっかり盗み聞きしていたドーラさんの気持ちの僕です。

好きなセリフ

「石を捨てたってラピュタはなくならないよ」(パズー)

令和元年6月8日  福場将太